自由研究発表制度・政策3  大薮 元康

「平成の大合併」が市町村民生費に与えた影響
 -岐阜県を事例として-

○ 中部学院大学  大薮 元康 (会員番号2548)
キーワード: 《福祉財政》 《民生費》 《平成の大合併》

1.研 究 目 的

「平成の大合併」によって,市町村数は,約3200から約1800近くに減少した。「平成の大合併」は,地方分権の受け皿づくりという側面と合わせて,市町村における効率的な行政の運営という意図も持って行なわれたといえる。社会福祉のサービスにおいては,合併市町村のうち,一番サービス水準の低い自治体に合わせるというような負の影響があるとも言われている。しかしながら,市町村合併に伴う個々のサービスの水準の低下について示すことは難しい。
  本研究では,市町村の社会福祉サービスの変化について民生費に着目し,「平成の大合併」において合併した市町村においてどのような変化があったか,合併しなかった市町村との比較を行うことで,合併の及ぼした影響について検討することを目的とする。
  民生費という財政の側面だけでは,社会福祉サービスそのものについて評価することはできない。例えば,民生費の上昇が社会福祉サービスの向上とは一概にはいえない。また,民生費の分析からでは,社会福祉サービスの質については測定できない。
  しかしながら,合併の影響について明確にすることができる指標であると考える。民生費という財政支出の程度を見ることによって,1つの自治体におけるサービス提供の方向性を計ることができ,財政支出の減少は,サービスの縮小であると考える。

2.研究の視点および方法

本研究においては,「平成の大合併」を2000年以降の市町村合併の動きとして捉え,岐阜県下の市町村の民生費にどのような変化があったのかを捉える。2000年以降としたのは,地方分権一括法(「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年7月16日 法律第八十七号)の成立により国と地方自治体の関係に変化が見られたためである。
  岐阜県下の市町村の2000年とその5年後の2005(平成17)年度の民生費の比較を行なった。
  民生費については,類似団体比較カードとして公表されている市町村ごとの財政データを用いた。このデータは,自治体間での比較を可能とするために,住民一人当たりの数値を出している。今回は,この中から,民生費と歳出合計を用いた。
  これに基づき,合併前の自治体の民生費および歳出に占める民生費の割合が,合併後にどのように変化したかを集約した。

3.倫理的配慮

公表されている市町村財政のデータを用いた分析であり,データの取り扱いについて倫理的な問題はないと考える。  

4.研 究 結 果

市町村民生費の変化
 新設の自治体,編入の自治体,合併の動きがない自治体,それぞれを平均すると民生費および歳出に占める民生費の割合には大きな違いは見られない。しかし,個々の自治体のケースを見てみると,大きな違いが見られる。

市町村別住民1人あたり民生費の推移

民生費の変化
  2000(平成12)年度を100とした指数で見てみると,旧恵那郡川上村19,旧揖斐郡藤橋村24,旧揖斐郡坂内村32,旧大野郡高根村49,旧可児郡兼山町53となっている。100を下回る自治体は,合併前の99自治体のうち26ある。 住民1人あたり民生費の推移を見てみると,自治体間の差が収束している傾向が見られる(図参照)。

民生費が歳出に占める割合の変化
  民生費が歳出に占める割合の変化を見てみると,8つの自治体において減少している。旧恵那郡川上村では-10.8ポイント,旧本巣郡本巣町では-5.1ポイント,旧郡上郡大和町では-5.0ポイント,旧山県郡高富町-3.0ポイント,旧安八郡神戸町-2.6ポイント,旧大野郡白川村-0.8ポイント,旧吉城郡神岡町-0.4ポイント,旧益田郡金山町-0.2ポイントとなっている。

結論
  民生費の推移で見てみると,市町村合併は民生費の減額を促すということは見られず,市町村ごとで異なる状況であることがわかった。しかし,合併によって民生費に大きな変化が生じた自治体もある。市町村が広域化することによって効率的となることもあるが,市町村内できめこまかなサービスを提供するためには,旧町村単位でのサービス供給の取り組みを検討する必要があるのではないだろうか。

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