自由研究発表制度・政策2  陳 燕

サービス提供責任者の就労環境と業務内容
 -サービス提供責任者の業務時間の実態調査-

○ 立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科  陳 燕 (会員番号7817)
キーワード: 《訪問介護》 《サービス提供責任者》 《業務時間》

1.研 究 目 的

 訪問介護事業所のサービスの管理を行うサービス提供責任者の役割はますます重要なものになっているが、サービスの管理を担う「サービス提供責任者」は多忙な業務に振り回されて、その存在感がみえにくくなっている。  
 このような状況化にあたって、平成20年介護報酬に関する審議会において、訪問介護事業所のサービス提供責任者の報酬上の評価及び人員配置基準等について、就労環境改善についても審議された。特に人員配置基準である、サービス提供時間(450時間)や訪問介護員(10人)が一定数をこえるごとに、常勤の者をサービス提供責任者とする必要があることから、事業所にとっては、収入と支出がマッチしない構造になっている現状についても検討された。本研究では、現状のサービス提供責任者の就労環境と業務内容・時間を把握し実態を明らかにする事を目的とした。  

2.研究の視点および方法

 2008年、地域性を考慮し、函館、青森、秋田、群馬、町田市、静岡、鹿児島県の訪問介護事業所156箇所に所属するサービス提供責任者725人に、「サービス提供責任者の業務時間を把握する」ための調査を実施した。本研究においては、保険請求が最も忙しくなる月初めとの1週日と繁忙期を過ぎた2週目の2008年10月1日~14日(10月13日は祝日であった)の14日間各日について調査を行った。調査票は事業所経由で配布し、サービス提供責任者には行った業務のすべてを15分刻みで午前1枚、午後1枚の調査票に記録し、これを14日間、事業所を通さずに毎日ファックスで送信することを求めた。
  調査内容は、①休みの日か否か、②社内にいた時刻(午前8時以降午後8時以前は15分単位。またその以外の時間帯における業務の有無のみ)、③業務項目ごとの業務時刻(午前8時以降午後8時以前は15分単位。またその以外の時間帯における業務の有無のみ)について調査を行った。
 サービス提供責任者の業務時間は省令第24条及び28条第3項による、訪問介護計画の作成・変更・サービス提供責任者としての利用者訪問・ヘルパー業務の管理・ヘルパーの研修と指導・関係機関との連絡調整・訪問以外による利用者、家族への対応を本来業務(責務)と設定した。他の項目、ヘルパー業務・請求事務・事業所の運営・管理に関する業務・休憩・食事を非本来業務とした。  

3.倫理的配慮

 調査実施に当たっては、調査依頼者には研究の趣旨ならびに目的を該当する訪問介護事業所管理者、統括サービス提供責任者に十分に説明し協力を依頼した。調査結果は「報告書」としてまとめ協力事業所にフィードバックをすることとした。統計的に処理したデータは、学術研究と介護報酬改定の際の資料とするほかに用いることはないこと、回答者の個人や事業所の情報が匿名性と個別データの秘匿を説明し電話と書面をもって承諾を得た。 

4.研 究 結 果

 サービス提供責任者に関する省令により定められているサービス提供責任者数の基準に適合しているか否かを検証したところ、基準である450時間・訪問介護員10人のいずれかが適合している事業所の割合は9割になっていた。この現状は介護保険が導入された2000年と比較すると飛躍的に改善していた。 サービス提供責任者の業務時間調査からは、全体の勤務日数では14日間通しての、1週間あたりの平均勤務日数は4.9日となっていた。全体の1日の業務時間では、14日間通しての、1日の平均業務時間は578.7分(9時間38.7分)となっている。1週目の平均業務時間は609.8分(10時間9.8分)、2週目は547.7分(9時間7.7分)で、1週目の方が62分長くなっていた。
  訪問介護事業所の規模とサービス提供責任者として担当している人数は、事業所に よって規模の違いに差があるが、サービス提供責任者の1日の業務時間を見ると、「本来業務」と「非本来業務」の割合では全体(14日間)でみると43.0%と47.0%で「非本来業務」が4.0%多い。その内訳をみるとヘルパー業務が31.8%と大部分を占めている現状がみられた。業務内容を14日間を通して見てみると、担当ヘルパー業務が184.2分と最も長く、次いでヘルパーの業務管理(130.5分)、事業所の運営・管理に関する業務(44.3分)、請求事務(43.6分)、関係機関との連絡・調整(31.9分)、サービス提供責任者としての利用者宅の訪問(31.1分)、訪問介護計画の作成・変更(29.4分)、訪問以外による利用者・家族への対応(13.1分)、ヘルパーの研修と指導(12.9分)と続いていた。
  サービス提供責任者にとっての重要な業務は何かを尋ねたところ、管理者の67.9%が「ヘルパーに対する教育・指導」をあげ、10業務のなかで最も重視されていました。しかし、業務時間調査の10区分業務のなかで「ヘルパーの研修と指導」は全体の、時間で12.9分しか占めていない。ヘルパーの実践力をつけるのは日々の業務を通じた指導(OJT)なので、これに時間を割けていない現実があることになる。
 訪問介護事業所で稼動するヘルパーの大半が登録型と呼ばれる短時間就労の従事者で、担当ヘルパーの欠勤や予定変更が頻発する事態は、サービス提供責任者はサービスの管理の役割より、代行訪問や困難ケースへの担当ヘルパーとしての役割が優先されている実態は、事業所自身として憂慮すべきものだと思われる。  

 

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