日常生活自立支援事業の生活保護受給者の利用者の特性と課題
-広島県内の利用者の実態調査より-
○ 県立広島大学 手島 洋 (会員番号7489)
キーワード: 《日常生活自立支援事業》 《生活保護》 《日常金銭管理》
地域福祉権利擁護事業が1999年10月にスタートして、本年で10年が経過した。その間に、事業名も日常生活自立支援事業となり、当初の事業目的だった福祉サービス利用支援から日常生活支援に事業の重点を移行しながら、全国的に社会福祉協議会の事業として定着している。10年を経るなかで、事業実施をめぐる様々な課題が提起されてきたが、その中でも重要なものに生活保護受給者に関する課題がある。貧困が深刻化するなかで日本の社会保障制度の基幹の制度としてますます重要度を増している生活保護制度であるが、この制度の利用者が日常生活自立支援事業を利用する際の特徴と課題について、広島県内での事業実施状況の調査をもとに明らかにしたい。
2.研究の視点および方法調査は、広島県社会福祉協議会の実施する日常生活自立支援事業の利用者584人(平成21年12月末日現在の利用者数)の利用前から現状について回答する調査票により行った(政令指定都市である広島市内の利用者は、実施主体が広島市社会福祉協議会であるため調査対象としていない)。調査の回答者は、本事業を担当する広島県内の市町社会福祉協議会の職員である基幹的社会福祉協議会の専門員である。すべての利用者分について回答があった。
3.倫理的配慮本調査は、本事業の実施主体である広島県社会福祉協議会と共同して実施しており、そのうえで調査研究の内容と方法の吟味と精査を行っている。また、日本社会福祉学会研究倫理指針を順守し、特に日常生活自立支援事業の利用者の個人情報について、同指針「事例研究」及び「調査」の内容に基づき、必要最低限の情報把握にするとともに、その適正管理の徹底を図った。
4.研 究 結 果 調査結果から明らかになった主なことに以下の点がある。
(1)生活保護受給者による利用割合の推移 *生活保護受給者の割合は平成14年度末(事業開始から3年半後)には39.2%、平成16年度末(事業開始から5年半後)には40.1%、平成21年度末(事業開始から10年半後)には39.1%に横ばいである。全国平均は33%前後であり、7%程度高い割合となっている。
*生活保護受給者の利用者のうち、認知症高齢者:知的障害者:精神障害者:その他の割合は、平成14年度末(事業開始から3年半後)には52.3%:15.4%:30.8%:1.5%、平成16年度末(事業開始から5年半後)には42.9%:17.0%:33.9%:6.3%、平成21年度末(事業開始から10年半後)には36.2%:19.4%:37.5%:7.0%と推移した。
(2)生活保護受給者と非生活保護受給者の利用者像の違い *認知症高齢者は生活保護受給者より非生活保護受給者が約10%下回ったが、一方で精神障害者は生活保護受給者が非生活保護受給者を約18%上回った。
*生活形態が独居の割合は、生活保護受給者が非生活保護受給者の1.6倍近い割合だった。
(3)日常生活自立支援事業の利用前の生活課題と事業利用の効果
*「収入に見合った金銭管理ができない」課題(生活保護受給者中67.8%、非生活保護受給者中38.1%) は、「かなり改善」と「やや改善」を併せて生活保護受給者は73.1%、非生活保護受給者は78.9%に効果 があった。
*「通帳・印鑑等を紛失する」課題(生活保護受給者中26.5%、非生活保護受給者中11%)は、「かなり改 善」と「やや改善」を併せて生活保護受給者は80.3%、非生活保護受給者は82.9%に効果があった。
*「家族・親族による支援が困難である」課題(生活保護受給者中63.0%、非生活保護受給者中63.8%) は、「かなり改善」と「やや改善」を併せて生活保護受給者は12.4%、非生活保護受給者は15.9%に効果 があった。
*「家族や地域から孤立しており支援がない」課題(生活保護受給者中23.5%、非生活保護受給者中 17.2%)は、「かなり改善」と「やや改善」を併せて生活保護受給者は14.8%、非生活保護受給者は 26.3%に効果があった。
(4)生活保護受給者の日常生活自立支援事業に関する課題
*生活保護受給者の割合の変化は少ないが、そのうち精神障害者の割合が増加しており、その対応力 を向上することが必要である。
*利用者の生活課題には、日常的金銭管理の効果が高い一方で生活関係・環境の改善の効果が薄く、 複雑な課題への対応するソーシャルワークの専門性の向上が求められる。
*事業利用が生活保護受給の条件になっている事例が1/4以上あり、生活保護ワーカーとの連携の向上 や生活保護を下支えしている公的な役割の再評価が必要である。