自由研究発表制度・政策2  遠藤 康裕

日本の年金制度における脱商品化・脱家族化
 -エスピン・アンデルセンの福祉レジームをもとに-

○ 首都大学東京大学院  遠藤 康裕 (会員番号7278)
キーワード: 《福祉レジーム》 《脱商品化・脱家族化》 《年金制度》

1.研 究 目 的

近年、女性の社会進出の増加、労働市場の変容等により、これまで正規労働者を前提に組み立てられていた社会保障制度の制度構造が機能不全を起こしている。そのような中で、あらためて社会保障、福祉国家の在り方について検討が迫られているといえよう。この点で、エスピン・アンデルセンの知見を無視することはできない。彼は脱商品化、階層化と脱家族化を指標とし、社会権が保障される程度に応じて福祉レジーム(自由主義、保守主義、社会民主主義)を提唱した。そこでは供給主体を市場、家族、国家としている。そして我が国は自由主義レジームと保守主義レジームの中間に位置すると述べている。また、大企業の福利厚生と家族賃金、地方の公共事業と保護・規制政策や家族主義が社会保障の機能の一部を代替しており、社会保障の規模が小さい特徴があるという指摘もある。これらは社会保障制度の重要性が低いことを意味しない。この点からも日本の所得保障制度について検討する意義がある。しかしながら、個別制度について、その脱商品化度を検討したものについてエスピン・アンデルセン自身が行ったものの他は私の知る範囲では見当たらない。
  そのため本報告では、日本の社会保障制度、その中でもとりわけ所得保障の制度の一つである年金制度に焦点を当て、脱商品化・脱家族化がどの程度されてきたかを、基礎年金の導入など抜本的な制度改正が行われた1985年を起点に現在に至るまで時系列的に明らかにすることを目的とする。  

2.研究の視点および方法

本報告では、エスピン・アンデルセンの提唱した脱商品化と脱家族化指標を援用して分析を行う。また、脱商品化とは「個人が市場所得に依存することなく、社会的に認められた一定水準の生活を維持できるかという程度」、脱家族化とは「個人が家族に依存することなく、社会的に認められた一定水準の生活を維持できるかという程度」であると定義する。  

 

図1は、本報告での脱商品化・脱家族化概念の関係を示している。生活水準の市場への依存度と生活水準の家族への依存度の二側面が存在し、その度合いが高ければそれぞれ脱商品化度が高い、脱家族化度が高く、またその度合いが低ければ脱商品化度が低い、脱家族化度が低いといえる。そこでは、市場と国家間、家族と国家間の二者関係のみが存在し、市場と家族間では関係性が生じない。ただし、これは家族を通した脱商品化、市場を通した脱家族化を規定していないことを指し、また、通常の市場におけるサービス購入を否定するものではない。


脱商品化と脱家族化の関係


  次に、上記の理論枠組みを用いて、日本の公的年金制度を題材に、どの程度の脱商品化・脱家族化がなされてきたかを検証する。エスピン・アンデルセンは社会政策の脱商品化効果を決定する次元として、①給付対象となる資格付与の範囲、②受給資格ルールあるいは資格付与に関する制限/プログラムからの離脱、③従前所得の置換にかかわるものの三次元を示している。本報告では、福祉レジームにおいて、これら三次元の要素がどのように発現するかを整理したうえで、日本の年金制度が時系列的にどのように変遷してきたかについて検討する。

3.倫理的配慮
 本報告は日本社会福祉学会の定める研究倫理指針に従って推進するものである。 

4.研 究 結 果

予想される知見は、①地位による区分は85年当初から現在まで存在し続けている点、職域ごとの分化、被用者特権の強さ等を見る限りコーポラティズム的国家優位型保険システムに属することが確認される点、②①との関連で、厚生年金と国民年金の別によって適用単位に違いがあり、適用単位においては国民年金の方が脱家族化の程度が高いと取れる点、③給付水準と被保険者資格の兼ね合いから、正規労働者と非正規労働者の間では、雇用期間、労働時間等で同じ労働を行っていても厚生年金に加入できる者と加入できない者がおり、その点で脱商品化に差ができている点、である。 

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