福祉ADR機関としてのNPOの可能性について
-福祉サービスにおける苦情処理と福祉ADRのあり方-
○ 大分大学大学院 安東 千秋 (会員番号5050)
キーワード: 《権利擁護》 《裁判外紛争解決手続(ADR)》 《NPO》
社会福祉基礎構造改革では、サービス利用者とサービス提供事業者との対等な関係の確立という目的のもとに、サービス提供事業者と高齢者・障害者等の福祉サービスを必要とする人たちとの民法上の契約制度によって公的な福祉サービスが提供されることとなった。端的には「利用者の選択権の確保」であるが、サービス提供を受ける高齢者等の契約上の権利をも保障していくところに大きな意義があるとされている。
これによって行われた社会福祉事業法改正(現社会福祉法)は、福祉サービスにおける利用者の苦情を解決するために、福祉サービスの事業者は苦情解決にあたらなければならない旨を規定した。さらに事業者段階での苦情解決に加えて都道府県ごとに苦情解決の機関をおかなければならないとしている。このような苦情解決の窓口が設置されているが、それらは利用者側からは、公正かつ中立的な第三者として認識され、苦情解決機関としての役割を果たしているといえるのであろうか。そこで、苦情解決における公平性・中立性と調停等の機能を高めるため、裁判外紛争解決促進法(Alternative
Dispute Resolution法)によって認証を受けたNPO法人が苦情解決機関としての役割を担うことについて。若干の考察をする
現在の社会福祉制度では一部を除いて契約制度に移行している。この契約制度のなかで福祉サービス提供に起因して生じる利用者の苦情については、社会福祉法においてサービス事業者が基本的に苦情解決にあたるべきものとしている。また、福祉サービスに関する苦情の解決などについて利用者から申し出があった場合に、助言または苦情の解決などにあたるため、都道府県社会福祉協議会に運営適正化委員会を設置すべきことを定めている。 このような苦情解決の仕組みは整備されているものの、それだけで苦情解決のシステムとして十分であるのかについて、紛争解決の新たな制度としてのADRという手法を検討する。その基礎的なデータ収集のため全社協及び都道府県運営適正化委員会データに見る苦情解決の状況と大分県内において各種福祉サービス提供事業者とその利用者に対してアンケート調査によって実態調査をおこなう。
さらに、苦情処理の第三者機関としてNPO法人がその役割を担うことに対して、利用者・事業者双方のニーズの確認を行う。
アンケート調査ではサービス事業者に対して事前にアンケート調査への協力について文書等にて依頼を行い、アンケート調査の実施にあたっては個人やサービス事業者が特定できないよう匿名を条件とする。また、集計結果についても個人及び事業所名の特定ができないよう匿名性を確保する。
4.研 究 結 果 社会福祉サービス分野では、従来サービス提供事業者のもつ資源や情報量に比較して、サービス利用者が得ることのできる情報や、福祉資源選択の幅は非常に小さかった。そのため、サービス利用段階における利用者とサービス提供事業者との力関係では不均衡が大きかったといわざるを得ない。この不均衡は障害者や高齢者などのサービス利用者が自ら主体的にサービスを選択することを拒んできただけでなく、その提供されたサービスの種類や内容・質に関して不満を抱いたり、明らかに権利侵害だと感じたとしても、それを苦情として表明したいと思ってもなすすべのない環境にあった。
措置制度では、福祉サービス提供事業者と利用者本人との契約関係が曖昧であるためにサービスの瑕疵について、具体的に争訟としうるのかが問われてきた。そのなかでも措置制度は行政行為の反射的利益に過ぎないため、権利を主張することはできないとするものもあった。
社会福祉法ではこの間の課題を克服するためとして、福祉サービスの提供は福祉サービスの利用者と提供事業者とが契約によってサービス提供に臨むことになった。そのため、利用者はそのサービス内容に不満があったり、その内容について苦情として事業所に不満を持っているときには、当該施設が設置する苦情解決委員会など、施設サイドの解決システムによらなければならない。
平成12年に改正された社会福祉法では、社会福祉の増進のためとして所要の改正が行われたが、福祉サービスの提供に関して利用者からの苦情申立てについて、福祉サービス提供事業者だけでなく都道府県運営適正化委員会が設置された。これは社会福祉基礎構造改革にいう福祉サービス利用者の権利性の確保にとって重要であるとされる苦情申立て機関であるが、この都道府県運営適正委員会の機能だけで福祉サービス利用者の権利性の確保が図られたというのであろうか。この運営適正化委員会は社会福祉法施行規則によって細目が定められ、その内容かみると行政からも独立した第三者苦情解決機関としての権能を有していることになっている。しかし都道府県の事業報告書を検討すると、実際はその事務局が苦情を聞き取りしたり、調査に出向いたりしており、法が予定している第三者苦情解決機関としては、機能が未だに利用者等の苦情を解決するには不十分ではないかと考えている。
そのため、行政型ADRに加えて、純然たる民間型ADRとしての苦情解決機関が設立されるべきではないかと考える。このことがわが国社会福祉におけるサービスの質の向上につながると考えている。このようなADR機関はただ民間の苦情解決窓口である場合には、何ら権限を持ち得ないが、平成19年4月に施行された「裁判外紛争解決手続促進法(ADR法」の仕組みを活用することで、真に有益な第三者苦情解決機関になり得るのではないかと考えている。そのためには、苦情解決を実施する機関の人材育成に要するテキストの作成や相談員の講習等について、福祉オンブズマンの先進地域などを参考にしながら検証し、有効性のある民間型ADRの方法が早急に確立されなければならないと考える。