自由研究発表制度・政策1  道明 章乃

精神障害者退院促進支援事業の形成的プログラム評価と 活用可能な効果的プログラムモデルの提案
 -円環的対話による評価アプローチ法(CD-TEP法)の適用-

○ 日本社会事業大学  道明 章乃 (会員番号7349)
日本社会事業大学  大島 巌 (会員番号228)
日本社会事業大学  小佐々 典靖 (会員番号5937)
日本社会事業大学  大山 早紀子 (会員番号7867)
キーワード: 《精神障害者退院促進支援》 《プログラム理論》 《モデル構築》

1.研 究 目 的

 精神障害者の退院支援の必要性は関係者間で共有されているものであるが、その方法を明確に共有することは困難な状況がある。その理由として精神障害者退院促進支援事業(精神障害者地域移行支援特別対策事業)が目指す方向性や方法が具体的に示されていないために、事業の目的が関係者間で一致していないことが考えられる。
 本報告では、利用者の生活満足度の向上や地域移行後の安定した生活実現のために必要なプログラムモデルを構築し、モデル形成と実用性をはかるために、プログラム理論・エビデンス・実践間の円環的対話による評価アプローチ(以下CD-TEP)を用いて、効果的なモデル構築と、その過程で得られた知見や考察を示すことにより、構築したモデルを実践現場において活用可能にするための提案をおこなう。同時に、精神障害者退院促進支援プログラムへのCD-TEP法の適用方法を検証することを目的とする。

2.研究の視点および方法

精神障害者退院促進支援プログラムとは、従来の精神障害者退院促進支援事業をもとに、その課題を検討し、プログラム評価の理論と方法論を用いて、さらに必要と考えられる支援や人材配置等を1つのプログラムとしてパッケージ化することによる呼称である。
1)プログラム評価可能性調査(実態調査)
 2007-2008年度には社会福祉法人巣立ち会と共同で精神障害者退院促進支援事業を受託していた全国104事業所に対し、郵送調査による事業実施状況等の実態調査をおこなった。
2)予備的プログラム評価調査
 上記調査の結果、利用者数、退院率、再入院率等で実績をあげていた全国20か所の事業所に対して予備的プログラム評価調査として半構造化面接による調査をおこなった。
3)暫定効果モデル作成
 2008-2009年度には全国で事業を実施している計36事業所との意見交換会を3度にわたって実施し、本報告における現段階での提案モデル作成のもととなる知見を得、プログラムのゴール、遠位・近位アウトカムを設定することで暫定効果モデルの構築をおこなった。
4)全国プログラム評価調査
 2009年度には18事業所を対象に、対象者数、退院者数、利用者満足度等のアウトカムについて調査をおこなった。事業所をその背景や取り組み状況に応じて3類型に分類し、それぞれのモデル準拠度と各アウトカムとの関連を検討した。
5)提案モデル作成
 2010年度には、これまでの経過を踏まえた上でプログラム理論・エビデンス・実践間の円環的対話による評価アプローチ法であるCD-TEP法を確立する。

3.倫理的配慮

日本社会事業大学倫理委員会による承認(200712月)を得て実施した。

4.研 究 結 果

1)プログラム評価可能性調査(実態調査)
 精神障害者退院促進支援事業をおこなう事業所が掲げているゴールや標的集団は必ずしも一致しておらず、精神障害者退院促進支援事業が精神障害者の退院や地域での安定した生活のために必要な支援を包含するものとはなっていないことが明らかとなった。
2)予備的プログラム評価調査
 上記の調査結果から、事業所特性や背景によって20事業所の実施形態は.すでに実績のある団体によるもの、.実績のある団体によるもの、.行政主導によるものの3類型に分類されることが分かった。
3)暫定効果モデル作成
 暫定効果モデルを円滑に実施するため必要と考えられる「効果的援助要素」(6領域26項目173要素)を抽出し、それらをもとにプログラムが目指す効果を達成するために求められる実施の程度を評価するために暫定的フィデリティ尺度を作成した。
4)全国プログラム評価調査
 18事業所を.医療機関・行政との連携型、Ⅱ.医療機関・行政機関との分担型、Ⅲ.事業要綱厳守、特殊な受託形式型の3類型に分類することによって、標的集団に対する広報活動のありかたや、事業所内外の人的配置等の課題もそれぞれに明らかとなり、暫定効果モデル実施のためには、事業所の背景や実態に応じた配慮が必要であるとの示唆を得た。
5)提案モデル作成
 以上の経過よりCD-TEP法を用いて、より効果的なプログラムモデルへの再構築作業をおこなっている。 

本研究は、文部科学研究費基盤研究(A)「プログラム評価の理論・方法論を用いた効果的な福祉実践モデル構築へのアプローチ法開発」(2007-2010)および日本社会事業大学学内共同研究「効果のあがる退院促進支援プログラムのあり方研究プロジェクト」の一部として実施した。 

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