自由研究発表制度・政策1  今井慶宗

障害者自立支援政策の考察
 -社会保障審議会の議論を中心に-

○ 鈴鹿オフィスワーク医療福祉専門学校  今井慶宗 (会員番号6951)
中国短期大学  松井圭三 (会員番号2473)
キーワード: 《障害者自立支援》 《政策》 《社会保障審議会》

1.研 究 目 的

障害者福祉は措置制度・支援費制度を経て、現在、障害者自立支援法に基づく制度として実施されている。障害者自立支援制度は、当初、介護保険制度との統合を視野に議論が展開されたが、財界の強い反対もあり当面統合は見送られるという軌道修正がなされた。そして、介護保険制度のシステムを取り入れつつ障害者福祉の給付部分を統合した制度として出発した。
  本制度は政党による政策立案というよりも、厚生労働省主導で制度設計がなされたが、実施後に多くの課題が噴出し、これらの課題に対応するため、政治主導により緊急対策・特別対策がなされた。また、平成21年春には障害者自立支援法改正案が取りまとめられ、政府提出法案として国会審議が行われた。しかし、同年夏に衆議院解散のため審議未了・廃案となり、選挙結果として政権交代があったので同法案が実現する見込みは極めて乏しくなった。
  障害者自立支援法制度の集大成としての政府提出法案の障害者自立支援法改正案が、社会保障審議会障害者部会のどのような議論の中からまとめられたのか、さらには同審議会障害者部会の一連の議論の流れの特徴は何であったかについて考察することにより、未完ではあったが障害者自立支援法の中での枠組みの充実・改善到達点を知ることができる。これら議論の特徴とその到達点を分析し、現在内閣でとりまとめられつつある「障がい者総合福祉法」案(仮称)の制度設計さらには今後の障害者福祉の動向の分析手段とするため本研究を実施した。

2.研究の視点および方法

文献研究を基本に、省庁再編により厚生労働省に社会保障審議会が設置された平成13年から平成20年までの同審議会障害者部会の49回分の議事録における障害者自立支援施策に関する議論を中心に研究を実施した。障害者自立支援法成立までの第1回から第30回までと同法改正を議論した第31回から第49回までに大別し、議論の生成・発展・展開、さらには議論が大きく変化した節目となる政治的・財政的な事柄について審議会部会がどのように反応しているかを考察した。 

3.倫理的配慮

本研究は厚生労働省所管の審議会部会におけるテーマ・発言等について議事録として公刊されたものを検討・考察している。直接、個人のプライバシーに触れる研究ではないが、整理・考察・まとめにあたっては、発言者・関係者の名誉や個人の尊厳を傷つけたり、発言等に登場する関係機関・団体の信用を損ねることのないように最大限の注意を払った。  

4.研 究 結 果

社会福祉審議会障害者部会の議論は、障害者自立支援法成立までの第1回から第30回までと同法改正を議論した第31回から第49回までの2つに大別することができる。
  前半の第1回から第30回では厚生労働省主導で「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」が提示され、それに基づき名称は紆余曲折しながらも法案が提示されてきた。それは介護保険制度との統合や障害者に定率負担を求める「制度の持続可能性の確保」だけではなく、地域福祉の実現を目指す「障害保健福祉の総合化」や就労も含めてその人らしく自立して地域で暮らし地域社会にも貢献できる仕組みづくりを進めるという「自立支援型システムへの転換」も重要な視点としている。しかし、「障害者自立支援法」案としてまとめられる段階から、社会の注目が定率負担に集まり、同部会(すなわち厚生労働省)の意図が伝わりにくくなっている。
  後半の第31回から第49回では、委員も一新し、法施行後3年後の見直しをテーマとし、施行後3年間に生じた課題の抽出・整理そして見直しの方向性について議論した。障害者自立支援法の体系を維持することを大前提としつつ、個別の課題を軽減・解消するという方向で議論がなされた。また、障害者の権利条約との整合性も繰り返し議論されている。平成20年12月16日「障害者自立支援法施行後3年後の見直しについて」と題する社会保障審議会障害者部会報告を出した。同報告では個別論点として、サービス体系、障害程度区分、地域生活支援事業、サービス基盤の整備、虐待防止・権利擁護、精神保健福祉施策の見直し等について提言している。旧与党政権下の枠組みの中では障害者自立支援法を存続させるという前提条件の下で最大限の修正の方向が同審議会で出されたといえる。
  しかし、政治情勢は大きく変化し、自民党・公明党・改革クラブの勢力は平成21年8月の衆議院議員選挙にて敗北した。このため、障害者自立支援法は改正されることはなかった。また、新内閣では平成22年から障害者自立支援法に代わる「障がい者総合福祉法(仮称)」が鳩山総理大臣を本部長として設置された「障がい者制度改革推進本部」の下部組織の「障がい者制度改革推進会議」で議論されている。このため、上記審議会報告は、法改正には直接は反映されないこととなった。しかし、個別の論点は同じように障がい者制度改革推進会議でも提出されているので、自立支援法が改廃され新法になるにあたっても、これら論点を整理し修正を加えて取りまとめられると考えられる。  


 

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