自由研究発表制度・政策1  勝又 幸子

障害者権利条約 第33条 国内における監視について
 -権利性をいかに担保するか-

○ 国立社会保障・人口問題研究所  勝又 幸子 (会員番号6562)
キーワード: 《障害者》 《自立支援》 《障害者権利条約》

1.研 究 目 的

 障害者権利条約の第33条国内における監視について、その意味と方法について諸外国の事例を基に考察した。監視(モニタリング)が障害者政策のみならず、すべての社会政策の評価と推進に不可欠なツールであることをその機能から明らかにすることが目的である。 背景:2009年12月8日内閣は閣議決定で総理大臣を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」を設置した。その目的は、“障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする我が国の障害者に係る制度の集中的な改革を行い、関係行政機関相互間の緊密な連携を確保しつつ、障害者施策の総合的かつ効果的な推進を図るため”とされた。事務局は内閣府におかれ、本部長は、障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるため、障害者、障害者の福祉に関する事業に従事する者及び学識経験者等の参集を求めることができるという閣議決定を基礎として、「障がい者制度改革推進会議」が設置された。2010年6月同会議は第1次意見書を採択し、その部会として障害者総合福祉部会を立ち上げて、障害者自立支援法に代わる制度の構築に向けて検討を開始している。
 なお閣議決定によると同本部は、当面5年間を障害者の制度に係る改革の集中期間と位置付け、改革の推進に関する総合調整、改革推進の基本的な方針の案の作成及び推進並びに法令等における「障害」の表記の在り方に関する検討等を行うとしている。この検討のなかで、監視機構をいかに作るかが議論になっている。  

2.研究の視点および方法

 文献サーベイによる研究。 韓国保健福祉家族部(2009年)「障害者差別改善モニタリングシステム構築のための政策研究」(和訳版)。内閣府の委託調査報告書「障害者の社会参加促進に関する国際比較調査研究」委託報告書 平成21年3月 WIPジャパン株式会社。その他、近年実施された先行研究のなかから、政策的含意を明らかにする。

3.倫理的配慮

日本社会福祉学会研究倫理方針を遵守して報告を行う。 

4.研 究 結 果

監視(モニタリング)の機能を4つに整理している。
①一致機能:事業計画と関係する管理者と利害当事者の行動が、議会や規制機関、その他政策専門機関が提示した基準及び手続と一致するのかを把握。
②監督機能:特定された対象グループに分配しようとした資源とサービスが実際与えられたのかを把握。
③会計機能:長期間にわたる政策や計画の施行(資源の投入)により現れる社会の経済的な変化(政策成果)に関する情報の生産に役に立つ。
④説明機能:政策と計画の結果及び運営状況の説明。 また、監視の種類をプログラムモニタリングと成果モニタリングの2つに整理している。前者は差別禁止法の順守の確認、後者では、法が本来意図した目標を達成したのかを評価し、問題がある場合は政策の執行過程を検討する。 韓国においては、障害者差別のモニタリングの指標の開発について様々な研究と実践が行われていることが紹介されている。プログラムモニタリングにおいて客観的で効果的な指標の開発が不可欠との認識があることは興味深い。 「障害者差別改善モニタリングシステム構築のための政策研究」では、各国の障害者差別禁止法制の比較を丁寧におこなっている。 ここで言及されている国にはすべて障害を理由とした差別の禁止をその中に含む差別禁止法がある。したがって、監視は差別禁止法に抵触するかどうかが判断の基準となっている。  

監視の仕組みの分類
(1)政府機関によるもの ニュージーランド、イギリス
(2)政府から独立した機関のもの アメリカ
(3)人権委員会などの行政委員会 イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、 フランス、アメリカ
(4)障害者団体によるもの イギリス

(平成20 年度内閣府「障害者の社会参加促進に関する比較調査研究」委託研究
  現在行政評価で行われている評価は、インプット(財源をどのくらい投入したか、すな わち予算の規模)評価にとどまり、アウトプットまたはアウトカム(その政策によってどのような効果や成果か)の評価が不足している。特に社会サービスにおいては、客観的な モニタリングによるアウトカム評価が重要である。障害者の施策も単なる予算の獲得に終わってはならない。持続性のある政策を維持するためにも、継続的なモニタリングのメカニズムを構築することは必須だと思う。
  (注)本研究は、平成22 年度厚生労働科学研究補助金採択、障害保健福祉総合研究事業「障害者の自立支援と『合理的配慮』に関する研究-諸外国の実態と制度に学ぶ障害者自立支援法の可能性-」(勝又幸子研究代表者)の分担研究として実施した。

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