自由研究発表制度・政策1  小佐々典靖

障害者就労移行支援事業の形成的プログラム評価と 利用者の希望を実現する効果的なプログラムモデルへの再構築
 -円環的対話による評価アプローチ法(CD-TEP法)の適用-

○ 日本社会事業大学  小佐々典靖 (会員番号5937)
日本社会事業大学  大島巌 (会員番号228)
国立精神・神経医療研究センター  高原優美子 (会員番号6862)
日本社会事業大学  植村英晴 (会員番号4001)
日本社会事業大学  佐藤久夫 (会員番号383)
キーワード: 《障害者就労移行支援》 《プログラム評価》 《モデル構築》

1.研 究 目 的

  本研究の目的は、開発途上にあるプログラム理論・エビデンス・実践間の円環的対話による評価アプローチ法(以下、CD-TEP法)を用い、既存制度によって規定されている障害者就労移行支援事業(以下、就労移行支援事業)を就労移行支援事業所(以下、事業所)における実践の知見を反映した、より効果的なプログラムモデルに再構築するとともに、CD-TEP法の適用方法を検証することにある。 

2.研究の視点および方法

  本研究においては、CD-TEP法を用いた。このアプローチ法は、従来のプログラム評価の理論と方法論を活用しているが、プログラム理論の明示と共有、エビデンスの生成と活用等、実践現場との対話を重視している点に特徴がある。 具体的な研究プロセスは、①就労移行支援事業の概要把握(関東地区1都6県の就労移行支援事業所アンケート調査・先行研究の精査)、②評価可能性アセスメントとプログラムゴール・標的集団設定(実践現場との意見交換会)、③予備的プログラム調査(約10事業所への聞き取り調査)、④就労移行支援プログラム暫定効果モデルの作成、⑤全国プログラム評価調査(全国15事業所への介入調査および全国事業所アンケート調査)、⑥暫定効果モデルの再検討・提案モデルの完成、の6段階である。なお、これらの各段階は、それぞれに影響しあっており、前後あるいは並行して研究を進めた期間も存在する。  

3.倫理的配慮

  聞き取り調査や介入評価調査の場合、名称や所在地等が特定されないよう配慮する旨を示し、合意を得た事業所のみ調査を行った。アンケート調査については、上記と同じ旨の依頼状を同封し、回答事業所をコード化した後に集計することで、事業所の特定を防止した。なお、本研究は日本社会事業大学倫理委員会による承認(2007年12月)を得ている。

 

4.研 究 結 果

①合意できるプログラム理論の形成
 事業所に対する聞き取り調査や先行研究等による評価可能性アセスメント・ニーズアセスメントの結果、法律等による就労移行支援事業の目的や範囲が必ずしも適切ではないことが明らかになった。また、支援体制や支援内容等は事業所によるばらつきが大きく、必要な情報を共有することが必要であることも示された。同時に、就労移行支援事業には明確なプログラムゴールの設定が必要であり、利用者の希望を早期に実現し、その達成を重視したプログラムモデルが必要であることを事業所との対話で確認した。 これらの結果から、暫定効果モデルとして、目指すべきゴールを明確化したインパクト理論、利用者のサービス利用計画、円滑な支援を支える組織計画を策定した。この暫定効果モデル策定過程においては、必要に応じて実践家と打ち合わせを持ち、最終段階においては、事業所との意見交換会を実施し、現実とモデルの乖離を防いだ。
②効果的援助要素の作成と共有化および実施マニュアルの構築
 半構造化面接による事業所への調査結果を基に、就労移行に必要な支援のための要素(以下、「効果的援助要素」とする)の原案を抽出した。この原案について、就労移行支援を積極的に実施し、かつ移行実績のある事業所と検討を重ね、169要素を抽出し、チェックボックス形式でまとめた。さらに、この169要素を5領域23項目に分類して整理した。同時に、「効果的援助要素」を分類した23項目について、意義と目的、具体的な支援内容、留意点等を明記した実施マニュアルを構築した。この実施マニュアルは事業所側と共有されており、「効果的援助要素」の実践における活用可能性を高めることを目的として構築されている。
③チェックボックス方式による効果的援助要素の測定方法と結果
  「効果的援助要素」は、チェックボックス方式でまとめられているため、容易に各要素の実施状態を確認することが可能である。本研究における全国プログラム評価調査(全国15事業所を対象とした介入評価調査および全国事業所アンケート)にも「効果的援助要素」を活用した。ここでは、「効果的援助要素」の達成状況と共に、就労移行者数等の実績を確認し、暫定効果モデルの有効性も確認した。また、全国プログラム評価調査においては、「効果的援助要素」に対する事業所側の意見を求めた。本研究の調査結果により、暫定効果モデルは支持された。 ただし、チェックボックス方式による実践の効果測定には限界も存在した。具体的には、各項目に重み付けがないため、要素の重要度が点数化できない等である。これらの点を改善するため、「効果的援助要素」を軸としたフィデリティ尺度を開発した。 なお、プログラム理論や具体的な調査結果等は、口頭発表時に詳述する。 本研究は、文部科学省科学研究費補助金基盤研究(A)「プログラム評価理論・方法論を用いた効果的な福祉実践モデル構築へのアプローチ法開発」(研究代表者:大島巌)の分担研究班 (代表:佐藤久夫)および日本社会事業大学学内共同研究の研究成果を使用している。  

 

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