自由研究発表歴史5  堀口 久五郎

政策概念としての精神保健福祉の形成
 -「定義」規定の位相-

○ 文教大学  堀口 久五郎 (会員番号2533)
キーワード: 《精神保健福祉》 《定義》 《福祉と精神保健の関係》

1.研 究 目 的

 2002年に社会保障審議会障害者部会精神障害分会による「今後の精神保健医療福祉施策について」が公表された。その報告書を契機に、「精神保健医療福祉」の語が再び多用されるようになるとともに、1990年代中頃より急速に普及・浸透した「精神保健福祉」の語の使用との併用状況がみられる。21世紀に入り主として精神障害者支援の政策領域において多用されている「精神保健医療福祉」に対して、「精神保健福祉」はどのような関係にあり、何を意味するものなのだろうか。本研究は、精神保健福祉の存立基盤を探る基礎作業の一環であり、今回は、1990年代に焦点をあて、次の3点を報告する。第1の目的は、「精神保健福祉」という用語の成立と普及・促進に大きな影響を与えた法令や政府および関連団体等の文献・資料(以下、政府等関連資料)を明らかにし、政策概念としての精神保健福祉の形成過程を実証することである。第2の点は、上記の政府等関連資料にみられる精神保健福祉の「定義」規定を検討し、それが表示する意味を明らかにすることである。第3は、上述の検討を通して、政策概念としての精神保健福祉の位相を明らかにする。 

2.研究の視点および方法

 本報告では、これまでの研究結果(本学会報告:堀口2002等)から明らかとなった1990年代の次の二つの法制度の成立過程の検討を通して、上記の研究目的を明らかにする。すなわち精神保健福祉の制度化に強い影響を与えた「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(=精神保健福祉法)」(1995年)および「精神保健福祉士法」(1997年)という二つの法制度の成立過程に限定し、その期間における政府等関連資料を分析する。対象とした文献・資料は、以下の通りである。
 ①精神保健福祉を名のる二つの法令の条文
 ②法律の内容とその決定や解釈に国の機関が責任を負っていると判断される文献・資料  
 ③審議会等の答申や提言等を受けて開催された研究会等の資料  
 ④制度化の実現に向けて検討や要望を行った団体等の文献・資料  
 ①~④の政府等関連資料の中で表示されている「精神保健福祉」という言葉を具体的な対象とした。とりわけ「精神保健福祉」の「定義」規定および「精神保健福祉」という用語が何を指しているのかという点についての記述がみられる文章を全体の文脈の中で分析的に検討することによって、精神保健福祉が表示する意味を検討した。
 その分析の視点は、精神保健福祉として括られ総称される個々の事象の歴史的意義や価値を強調し評価するのではなく、その内容の構成や構造に焦点をあて、その枠組および輪郭(まとまりの全体像)を客観的に把握することである。  

3.倫理的配慮

 日本社会福祉学会の「研究倫理指針」に従い、引用については原典(入手困難なものについては、原典の記述をそのまま掲載した資料集)に基づいた。引用資料名については、発表当日に報告する。 

4.研 究 結 果

 精神保健福祉の成立過程には、二つの異なる系譜があった。一つは、1995年精神保健福祉法の成立過程であり、もう一つが、1997年精神保健福祉士法の成立過程である。  
 前者は、1993年障害者基本法制定後の精神障害者の福祉政策をどのように形成するべきかというわが国の政策実現に向けた動向の中で具体化する。その顕著な例が、公衆衛生審議会の意見書(1994年8月)を受けて、精神障害者の福祉法制の具体化に向けた検討を行った「精神障害者の福祉施策研究会」の議論である。とりわけ重要な報告書が同研究会による『中間まとめ』(1995年1月)であり、その後の1990年代後半の精神障害者の福祉政策はそこで整理された複数の考え方の中の一つの立場から推進されることになった。すなわち1987年精神保健法の制定によって生成された「精神保健」概念の中に組み込まれた「精神障害者福祉」をさらに強化することによって、その政策を実現しようとしたのである。そこにおいて明確に提示されたものが「精神保健福祉」という用語であり、1995年精神保健福祉法の成立をはじめとして、旧厚生省の通知等によってさらに政策用語として徹底・周知されることになる。  
 後者は、1990年代前半の新しい福祉資格制度の創設を求める議論の中で具体化する。それは「社会福祉士」とは異なる新たな「医療福祉士」構想からPSW単独の国家資格を求める1993年頃以降に、「医療福祉」から分化・独立するかたちで「精神保健福祉士」の名称として明確にあらわれている。その制度化の過程の中で形成されたものが、狭義の「精神保健福祉」という考え方である。その両者ともに、「社会福祉」もしくは「精神障害者福祉(=精神障害者に限定された福祉)」と「精神保健」との関係をめぐる課題が「精神保健福祉」概念の基盤に通底している。  
 精神保健福祉を名のる二つの法制度の成立過程とその誕生は、精神保健福祉についての異なる位相をもたらした。一つは、精神保健福祉の対象規定の違いであり、もう一つが、精神保健福祉の概念規定の差異である。とりわけ1995年精神保健福祉法の成立過程においては、複数の「精神保健福祉」概念が交錯し、1997年精神保健福祉士法の成立過程では、狭義の「精神保健福祉」概念が形成されることになった。詳細な報告は、当日に行う。  

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