自由研究発表歴史2  岩本 裕子

ボランティアコーディネーションの変遷に関する一考察
 -大阪市社協と大阪ボランティア協会の関係発展プロセスに着目して-

○ 関西学院大学  岩本 裕子 (会員番号7838)
キーワード: 《ボランティアコーディネーション》 《社協》 《ボランティア》

1.研 究 目 的

 日本のボランティアセンターは、行政政策として1985年のボラントピア事業による社協への設置を契機に日本全国に広がり、ボランティア活動の普及に一定の役割を果たしてきた。しかし実際にはそれよりももっと以前から市民の手によるNPOによるボランティアセンター(NPO型ボランティアセンター)が少数であるが存在し、市民自らの思いを持って活動を展開していた。したがって、NPO型ボランティアセンターのある地域においては、同じエリアに社協によるボランティアセンター(社協型ボランティアセンター)と両方が存在し、両者は必然的に相互に関係し影響しあいながら、共存し、発展を遂げていっていたことになる。また、この関係は近年地域福祉の課題の一つとして挙げられる「地縁組織とNPOの関係」といった枠組みでも捉えることもできるであろう。
 大阪市内においても大阪ボランティア協会と、圏域の重なる大阪市社協においては、そこでボランティアセンターで行われる実践、すなわちボランティアコーディネーションも両組織の関係性に影響を受けてきたと考えられる。大阪ボランティア協会はボランティアセンターとして日本の中で先駆的にボランティア活動について推進し、ボランティアコーディネーションを先駆的に行い発信し続け、多くのボランティアセンターやそれを行うボランティアコーディネーターの支援を行ってきた。このような現状からすると、この両者の関係性も日本のボランティアコーディネーションの変化に少なからず影響を与えてきた可能性があると考えられる。
 本件研究は、古くから同一圏域に存在する大阪市社協(社協型ボランティアセンター)と大阪ボランティア協会(NPO型ボランティアセンター)の両組織を事例に、両者がどのように関係しあいながら発展を遂げていったのか、その関係のプロセスに着目し、その関係とボランティアコーディネーションの変化していくプロセスについて検討する。  

2.研究の視点および方法

 両組織のさまざまなドキュメントやインタビューをもとに、社会福祉を中心とした社会情勢やその当時のボランティアの概念や状況にも関係は左右されるため、両組織の動きと関係とともに、社会情勢、報告書・論文などの資料、組織の動き、ボランティアの属性、活動対象、活動場所、活動内容、ボランティア観、コーディネーターやコーディネーションへの社会の認識など同一の年表に落とし込んだ。その上で、組織の関係が変化する引き金となったできごとごとに分類、コード化し、質的分析を試みた。そしてその上で各期におけるボランティアコーディネーションの特徴について検討した。 

3.倫理的配慮

 本研究は大阪市社会福祉協議会(大阪市ボランティア情報センター)と、同市内に拠点を置く民間組織(NPO)のボランティアセンターである大阪ボランティア協会と、その職員や元職員の協力のもと行ったものである。そのうち、団体名の公表については両団体から了承を得ているので、公表する。また、インタビューを行った個人名については匿名性を考慮しアルファベットで表記する。 

4.研 究 結 果

 両者の発展プロセスを関係が変化する引き金になったできごとごとにプレ期を含め以下のとおり9つの時期に分けることができた。
 プレ期(1946年~1951年):市社協の前身と日本初のボランティア中間支援組織「社会事業ボランティア協会」 /第Ⅰ期 大阪市社協支援期(1963年~):市社協支援によるボランティア協会発足 /第Ⅱ期 独立期(1964年~):市社協から離れての「ボランティア協会」の設立 /第Ⅲ期 共生期(1971年~):地域ボランティア講座の共催 /第Ⅳ期 対抗期(1975年~):社協によるボランティアセンター参入 /第Ⅴ期 協働→ギャップ表出期(1982年~):「ボランティアビューロー」開設のための協働 /第Ⅵ期 コーディネーション継承期(1985年~):市社協ボラントピア事業受託 /第Ⅶ期 コーディネーション拡充期(1991年~):事務局長就任による発想の転換(マーケットの発見) /第Ⅷ期 多様期(1995年~):「阪神・淡路大震災」とNPOの台頭
 上記の各時期ごとに両組織が相互に関係をもち影響しあい、学びあいながらボランティアコーディネーションが変化していくプロセスの検討をとおして、NPOによるボランティアセンターはボランタリズムを大切にしていくのに対し、社協型は地域、地縁をベースに広く広げる役割を果たしてきたこと、そしてこのそれぞれの優位性をお互いが大切にしながらも、相互に好影響を与えながらお互いのボランティアコーディネーションは変化していっていたことがわかった。同時にその関係によりそれぞれの組織に育まれた知識や技術・価値は、地域社会におけるボランティア活動の発展にも影響を与えたと言える。
 またさらには大阪ボランティア協会が日本のボランティアコーディネーションの先駆的役割を果たしてきたことから鑑みると、日本のボランティアコーディネーションにも両者の関係が少なからず影響を与えてきたと言える。  

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