自由研究発表歴史2  田中利宗

山形県下の方面委員会および講習会等について
 -大正14年から昭和16年を範囲として-

○ 名寄市立大学  田中利宗 (会員番号0043)
北海道立旭川高等看護学院  田中康子 (会員番号0045)
キーワード: 《社会・生活問題》 《講習会》 《方面委員活動》

1.研 究 目 的

 本発表は、1939(大正14)年から1941(昭和16)年の間の山形県民を取り巻く社会・生活環境を基底におきながら、地方都市で活動した一方面委員にかかわる史資料を用いて、 ①「全国・県レベルの情報伝達と地方の方面委員会」②「方面委員大会・講習会等の内容」の整理を通じて、本県の方面委員活動の一端を推察するものである。
 1925(大正14)年を起点としたのは、本県に方面委員設置規定が設けられた年であり、1941(昭和16)年は、方面委員が保存した史資料の最終の年月であることによる。  
 なお、本発表は、第57回全国大会の自由研究で口頭発表した内容の延長線上にある。  

2.研究の視点および方法

 東北地方のなかでも、特に社会・生活問題が山積していたとされる本県において、当時の時局の推移のなかで、どのような要綱で方面委員大会が開催され、また、方面委員がどのような内容の講習を受け、さらにどのような活動に重きをおくようになるのかを描き出すことに視点をおく。  
 参考にした文献は、「昭和十年四月 第六回全國方面委員大會要綱 全国方面委員聯盟」「昭和十一年九月 山形縣方面委員大會要綱 山形縣」「昭和十二年五月 方面事業講習會要綱 山形縣社會課」「昭和十二年九月 山形縣方面委員時局大會要綱 山形縣」「昭和十四年十月 山形縣方面委員大會要綱 山形縣」「昭和十六年二月 全國方面委員代表者會議」および方面委員が綴った「方面委員會協議案綴」である。  
 また、方面委員の研修内容を理解する方法として、新庄市立図書館、酒田市立図書館、鶴岡市立図書館で所蔵する方面委員関係史資料を援用した。  

3.倫理的配慮

 「引用は出来る限り原点主義を貫くべきであり、原典が入手できない等の止むを得ない場合にのみ、いわゆる『孫引き』がゆるされる。」「研究業績を著書・論文・口頭等で発表する場合に、研究目的を外れて社会的に不適切と考えられる用語を使用してはならない。」を厳守するために細心の注意を払った。 

4.研 究 結 果

 研究結果のひとつは、全国・県レベルにある方面委員にかかわる各種の情報は、迅速に方面委員会に伝えられていたということである。
 たとえば、第11回全国方面委員大会は、1940(昭和15)年5月21日から3日間奈良県で開催されているが、その参加報告は、6月6日開催の方面委員会の協議事項のなかで、「三 全國方面委員大會出席者ヨリ状況報告」として取り上げられている。
 二つ目は、すでに先学の研究成果として発表されているものであり、方面委員に求められる知識と技術に「社会調査」および「関係法規」があったということである。
 『社會調査資料 山形縣社會課』<新庄市立図書館蔵>は、1931(昭和6)年7月に発行され、「方面委員が仕事を組織的に合理的に運ぶ上に最も重要なるは社会調査即ち社会診断である。此処に其の資料の一端を摘録した、幸ひ委員諸氏の活動に便せられんことを望む。」を巻頭に掲げ、「第一、本県の社会事業  第二、救護(九、方面委員制度 一〇、其の他 <貧民の窮民意識と原因 (1)チャールス・ブースの説 (2)シーボム・ローンツリーの説 [中略] (9)小河滋次郎博士の説>  第三、経済保護  第四、労働保護    第五、児童保護  第六、保健  第七、社会教化  第八、雑」により構成されている。
 『社會叢書第一輯 方面委員ノ参考資料 山形縣教育課』<酒田市立中央図書館蔵>と『昭和十六年三月 方面委員關係法規 山形縣 山形縣方面委員聯盟』<鶴岡市立図書館蔵>は、ともに方面委員活動に必要とされたであろう法規が収録されている。
 三つめもすでに周知されることであるが、全国から県へ、県から市町村への展開を経て、方面委員活動が隣保組織の整備、軍事扶助法等へのかかわりとともに戦時国策の中での活動という道を歩むということである。
 「昭和十二年九月 山形縣方面委員時局大會要綱 山形縣」の大会協議事項は、「一、軍事扶助強化徹底ニ就テ  一、國民精神總動員ニ就テ」であり、要綱には、「内閣告諭」「知事告諭」が収録され、「横須賀海軍工廠從業員募集」のパンフレットが折り込まれている。
 「昭和十四年十月 山形縣方面委員大會要綱 山形縣」における「大會順序」には「宮城遥拜 國家奉唱 默祷」をみる。
 四つめは、県下の社会生活を返りみた際に存在した、冷害、雪害、婦女子売買、出稼等がもたらした各種の問題に対処する方面委員の活動の一端を研修会が支えていたであろうという推察である。
 1937(昭和12)年5月12、13日に鶴岡市公会堂で開催された講習会時の「昭和十二年 方面事業講習會要綱 山形縣社會課」は、「方面委員制度」「滿州移民(三、本縣移民輸送計畫)」「救護事務」「職業紹介竝出稼保護事業(七、方面事業ト職業紹介竝出稼保護事業)」「社會事業一般(3、失業保護事業 ニ、身賣防止事業)」「行旅病人及行旅死亡人」「軍事救護(軍事扶助)」「軍事扶助事業」によって構成されるものであった。  

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