自由研究発表歴史1  梅木 真寿郎

大林宗嗣における女性福祉論
 -女性解放に向けた女子教育・婦人労働のあり方について-

○ 同志社大学大学院・岐阜経済大学経済学部  梅木 真寿郎 (会員番号5606)
キーワード: 《大林宗嗣》 《女性福祉》 《婦人労働》

1.研 究 目 的

 昨年、政府によって発表された相対的貧困率は、日本における「貧困の女性化」を実証するものであった。中でも、「子どもがいる現役世代の世帯員の総体的貧困率」(2007年調査分)の54.3%は、OECD加盟国の先進国の中では、最低水準にあり厚生労働省政務官をもって「恥ずかしい数字」と言わしめるものであった。
 現代に至り、ジェンダー平等という言葉は、一定「市民権」を得てきているように思われるが、その実態としては、男女共同参画社会の実現に向けた取り組みがなされている一方で、今も尚、ジェンダーバイアスは、少なくないというのが現状であろう。
 本研究では、我国で初めて体系的にセツルメントを研究した大林宗嗣(1884-1944)の思想研究の一環として、大林による女性福祉論について、考察することを目的とした。  

2.研究の視点および方法

 大林と女性福祉の連関についての先行研究としては、報告者が渉猟した限りにおいていうとあまりなく、西村みはる(1983:3-12)・渡邊暁雄(1998:213-33)によるものが、わずかにある程度である。しかし両者ともに、大林の『女給生活の新研究』を中心に限定的に論じたものであり、その他の「職業婦人」の研究に関する論文や「女子教育」といったものへの言及は見られない。また、大林の女性福祉という視点から、どのような思想的背景や影響のもと、形成されるにいたったのかといった過程についての考察は見られない。  
 そこで、本研究においては、大林の女性福祉論を縦断的に捉える中で、以下の三つの分析枠組みによって、検討を加えていくことにした。①北米における体験を中心に、大林が女性福祉へかかわるようになった経過及び要因を明らかにすること。②大林の女性福祉における思想的背景を考察すること、③大林の職業婦人研究の縦断的研究の経過を整理するとともに、大林の女性福祉論における女子教育の位置づけについて検討すること。  

3.倫理的配慮

 先行業績の知見と、今回提示する内容について、明確に峻別し、本報告を行うものとする。また、資料はすべて原典にあたったものであり、当日配布予定の資料に参考・引用文献について、その出典について明示する。 

4.研 究 結 果

 以下のように、大林が体験した社会的状況、思想的素地によって、女性福祉への視座が形成され、その後の「女性福祉」研究へとつながるものであった。
○北米シアトルにおける婦人活動家との出会い:(a)久布白直勝・落実夫妻との出会い:組合教会の牧師久布白と美以教会の大林は、同郷の熊本県出身であり、交友が持たれていたことが確認できる。特に久布白牧師の妻の落実は、『廃娼ひとすじ』の著者でも知られる人物であり、交友関係の中で少なからず、影響を受けたものと推察される。(b)草間道との出会い:草間道は、大林の妻となる人物であるが、当時は、シアトル日本人美以教会の婦人伝道師であって、同教会において婦人矯風会の副会長を務めていた。日本においても、早くからメアリ・ウルストンクラーフトの翻訳本を紹介する等の文筆活動が見られた。
○婦人研究の著作からの学び:(C)大林は、在米中にセツルメントの思想に傾倒することとなるが、その際、最初にアメリカで創設されたスタントン・コイトのネイバーフッド・ギルドに幾度も足を運んでいる。このコイトの著作である「婦人服従論」の著者として知られている。(d)大林はJ.S.ミルの『婦人解放論』(邦訳としては、大原社会問題研究所で同僚であった大内兵衛訳で知られる)にも影響を受けており、大原社研での読書会にて『婦人解放論』の担当講師となっている。(e)先に言及したとおり、妻の道が、メアリ・ウルストンクラーフトの翻訳を行っており、それに大林も少なからず関与していることが確認できる。このあたりについては、「権利主体としての女性」を位置づけ、そしてそのためには婦人参政権が必要不可欠であること、その獲得に当たっては、婦人自らが覚醒し、より一層の運動の展開(世論喚起)が必要であると提言することへとつながっていく。
○職業婦人研究と女子教育:(f)大林は、職業婦人のおかれた現状について、家庭における「男子専制の束縛」と「資本家の束縛」の「二重の束縛」を受けるものと、その社会の病理性を指摘している。また、カフェーの女給の場合、性を商品化する資本主義体制への批判を通じた「性的搾取」と資本家からの低賃金労働者としての「金銭的搾取」といった二重三重の束縛そして搾取がある実態を指摘している。(g)大林にとっての女子教育とは、(f)のような状況を打破するためには、女子教育が必要不可欠であり、女性自身が覚醒し、婦人運動を活性化するものでなければならなかった。(h)また、大林は母性という性的差異から当然生じるものとして、過酷な女子労働からの保護を主張する。(g)で言及した女性の覚醒は、女性自身の相互組合の結成と、男子労働組合との連携のもと、母子扶助の立法化に向けた運動の展開を力説している。大林の女性福祉論においても持論としての「思想・運動・立法化」の一端を確認することができる。母性保護を推進するための経済的支援を、性的差異から生じる権利として捉えるあたりは、現代における「脱商品化」や「ディーセントワーク」、「ワーク・ライフ・バランス」といった概念に、相通じるものを大林も持ち合わせていたということができるのではないだろうか。
【当日配布資料:有】  

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