自由研究発表理論2  児島亜紀子

AAメンバーの回復過程における「他者」の意味づけの変容と
 ハイヤーパワーの意義
 

○ 大阪府立大学人間社会学部  児島亜紀子(会員番号2765)
キーワード: 《AA》 《回復過程》 《他者》

1.研 究 目 的

 本研究は、アルコール依存症者の自助グループであるAA(アルコホーリクス・アノニマス)におけるメンバーの回復過程に着目し、AAメンバーが「飲まない生き方」を手に入れることを促す諸要因について考察する。 

2.研究の視点および方法

 本研究ではメンバーの回復過程において、他者に対する意味づけが変化することに留意し、「他者から与えられた力」をメンバーがどのように捉え、その力を「飲まない生き方(ソブラエティ)」の実現にどのように生かしているのかを明確化することを企図する。なお考察にあたっては、AAの活動における鍵概念であり、グループの思想的基盤でもある「スピリチュアリティ」と、メンバーの自己-他者関係の認識に関する変容とがどのように関連しているのかを探ろうと試みた。本研究では、AA関連の文献・資料を整理・分析することによって、メンバーの行動の変化を捉える視点と枠組を設定した。さらにAAメンバーにインタビュー調査を行い、メンバーの内的変化の実態を考察した。 

3.倫理的配慮

 本研究は、日本社会福祉学会研究倫理指針に基づいて行った。インタビューの協力者には、事前に口頭および文書によって研究の趣旨についての説明を行い、調査協力への同意を得た。なお個人情報はすべて匿名とし、データ管理も厳重に行うなど、調査協力者のプライバシー保護には十分な配慮をした。 

4.研 究 結 果

 検討を行った結果、AAメンバーの回復を促す諸要因として、以下に挙げる事項が浮かび上がった。
(1) 動機づけを手に入れること
 AAメンバーはミーティングを通して「このようにすれば自分も回復できるかもしれない」という「希望」を見いだすが、このことが回復に向かうための最初の要件となる。
(2) 病いを自覚すること・自覚し続けること
 AAプログラムには、メンバーを断酒に導き、飲まない生き方(ソブラエティ)を実現するためのさまざまな知恵が盛り込まれている。メンバーが回復しようとするときにまずもって重要なことは、アルコール依存症とは進行性の病気であり、この病いは対人関係に障害を来すものでもあるという点を各人が強く自覚することである。かかる自覚は、ミーティングによってもたらされる。なおこの「自覚」は、意識的に繰り返してなされる必要がある。スポンサーになって新しいメンバーを支援すること、ミーティングで正直に自分の経験を語ることなどは、「アルコール依存症者である自分」を忘れないようにするために有効である。AAプログラムは、その都度メンバーにアルコール依存症者であることの自覚を呼び覚ますという機能を持つ。
(3) 与えられたものを受け止め、受け入れること
 メンバーがAAプログラムを実践する過程で、メンバーのなかに「自己と世界との関係の変容」および「他者の意味づけの変化」がもたらされる。アルコール依存症者にとって、自分の思い通りにならない他者は、つねに加害的かつ侵襲的な存在である。自分はダメな酒飲みなどではない、自分はもっと正当に評価されてしかるべきだという否認と自己愛、コントロールしようとしても自分の思い通りには決してならない他者への恨みは、アルコール依存症者にとっての自己-他者関係を、はなはだ歪んだものにしてしまう。AAメンバーは、ミーティングへの参加をはじめ、AAのプログラムを実践することにより、アルコールのもたらす病理の中核にあるものが、「自己への過信」であったことに気づいていく。AAメンバーの多くは、しばしば「自分の力でプログラムを取り入れたのではなく、贈り物として受けた」、「仲間が(力を)最奥の自分に入れてくれた」「自分になかった力が加わった」などと語り、プログラムを実践する力が他者から与えられたものであることを強調している。換言すれば、外部から何らかの力が働き、その力に導かれて自分が変化していくことをメンバーは感じ取っているのだといいうる。
(4) ハイヤーパワーに先導され、他者とともにあること  
 かくしてAAメンバーは、他者から与えられた力によって「飲まない生き方」に向け、歩みだすこととなる。他のAAメンバーによって内奥に据えられた言葉を足がかりとし、つねにその言葉に立ち戻りつつプログラムを実践する過程で得られるものが、霊的成長と呼ばれる人格の変容である。これは、①自己の肯定と、②他者への信頼に基礎づけられ、③侵襲的でない他者と自己との間に親密な関係を再構築することによって、メンバーにもたらされる。このような自己-他者関係の再構築を下支えし、それ自体は決して現前しないものであるにもかかわらず、プログラムを実践するなかで感じ取られ、メンバーをつねに先導するもの、それがハイヤーパワーと呼称される超越的な存在である。ハイヤーパワーは、AAメンバーにとって外部/他者であると同時に、個々のメンバーの内奥に据えられたもの(すなわち、メンバーにとっては「自己の内部にあるもの」)としても感得されるという両義性をもつ。ハイヤーパワーは、直接現前することはないものの、もっとも基本的な部分で自己のありようを規定する他者として、メンバーにとっては重要な意味を持つものである。  

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