自由研究発表理論2  谷本幸也

依存状態というスティグマと社会サービスとの関係、およびその含意
 

○ 大阪府立大学大学院博士後期課程  谷本幸也 (会員番号7865)
キーワード: 《社会サービス》 《依存状態》 《スティグマ》

1.研 究 目 的

本研究の目的は、社会サービスの対象は依存状態の人びとであるという見解(Spicker 1984;1988など)に依拠して、そうした社会サービスが「依存状態というスティグマ」と関係しうることを理解し、そしてその含意を考察することである。私は、社会サービスが依存状態というスティグマと関係するということから、社会サービスの「与え手の利益」が社会サービスの存続のための必要条件の1つであるという結論を導き出す。 

2.研究の視点および方法

本研究は、社会サービスの対象は依存状態の人びとであるという見解に依拠する。それゆえ、「社会サービス」と呼ばれうるが依存状態の人びとを対象としないものがあったとしても、それについては考慮しない。また、ここで言う「依存状態」とは、社会サービスに伴う「一方向的移転」という要素によって規定される。一方向的移転において資源を提供する側を社会サービスの与え手とし、提供される側を社会サービスの受け手(依存状態の人びと)とする。  「スティグマ」および「スティグマ化(stigmatization)」という語について、私が採用する用法は簡単にはつぎのとおりである。「スティグマ」という語は「否定的な属性」を指すものとして使用される。属性が「否定的である」とはどういう意味か。Link and Phelan (2001)は、スティグマ化の構成要素の1つとして「身分の低下」と「差別」を挙げる。これに従って、ある属性が否定的なものであるのは、その属性の持ち主がその属性のせいで他の人びとから身分の低いものとされたり差別されたりするときである、と考える。ある人が他の人を「スティグマ化する」とは、ある人が他の人の持つ属性に基づいてその人を身分の低いものとして扱ったり、差別したりするということを意味する。  スティグマ化に関する考察には、スティグマ化を引き起こす原因に注目するものと、それがもたらす効果に注目するものとがある。本研究は、スティグマ化の原因に注目するものであり、スティグマ化する側にとくに焦点を当てたものである。それゆえ、スティグマ化の効果と考えられるもの(たとえば、恥辱感や、受給申請を躊躇することなど)は本研究の主要な考察対象ではない。  スティグマ化の原因については、進化理論に基づく説明(Neuberg et al. 2000など)を採用する。これは、スティグマ化が私たちの生存や繁殖を有利にする機能を持つことを示すことによって、人びとがなぜスティグマ化するのかを説明しようとするものである。効果的な集団生活の重要性に着目すれば、その維持や促進のために、それを脅かすものに対処する反応としてスティグマ化は理解されうる。そして、依存状態は効果的な集団生活に対する脅威の1つでありうる。  

3.倫理的配慮

本研究は文献に基づく研究であり、日本社会福祉学会が定める「研究倫理指針」を遵守している。 

4.研 究 結 果

社会サービスが依存状態と関係し、依存状態の人びとがスティグマ化されやすいとしたら、社会サービスは依存状態というスティグマと関係しうる。このことはなにを含意するだろうか。社会サービスの与え手に目を向けるとつぎのことが言える。すなわち、社会サービスが依存状態というスティグマと関係するとき、その与え手は、一方でサービスの受け手(依存状態の人びと)をスティグマ化し、他方でその受け手に自分の資源を提供しているという状況に置かれていると言える。しかしながら、自分がスティグマ化している人びとのために自分の資源を提供するということはあまり起こりそうにないように思われる。では、このような状況が成立するとしたらそれはどのような場合だろうか。もし、与え手が自分の資源を提供することによって、そうしないときよりも大きななんらかの利益を獲得しうるとしたら、このような状況が成立しうると私は考える。このことから、私はつぎの結論を導き出す。依存状態というスティグマと関係する社会サービスの存続にとって、サービスの与え手の存在が不可欠であるならば、与え手の資源の移転によって与え手自身になんらかの利益がもたらされることもまた不可欠の条件である。 

<文献>
Link, B. G. and Phelan, J. C.(2001), "Conceptualizing Stigma", Annual Review of sociology,
   27, 363-85.
Neuberg, S. L., Smith, D. M. and Asher, T.(2000), "Why People Stigmatize: Toward a Biocultural
    Framework", T. F. Heatherton, R. E. Kleck, M. R. Hebel and J. G. Hull(eds.), The Social
    Psychology of Stigma, The Guilford Press, 31-61.
Spicker, Paul(1984), Stigma and Social Welfare, Croom Helm.(=1987、西尾祐吾訳『スティグマ
   と社会福祉』誠信書房)。
――――(1988), Principles of Social Welfare: An Introduction to Thinking about the Welfare
   State, Routledge.  

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