自由研究発表理論2  清重哲男

自己実現概念の構築に関する研究
 -学際的研究による在宅高齢者の自己実現概念の構築-

○ 日本ソーシャルワーク研究会 ルーテル学院大学大学院付属包括的臨床死生学研究所
  清重哲男 (会員番号1709)
キーワード: 《自己実現》 《在宅高齢者》 《自己決定》

1.研 究 目 的

 本研究は、自己実現の概念を学際的に研究し、全分野を包括する自己実現概念の普遍性を探索し、その理論から構成要素を明らかにする研究である。宗教、哲学、文学、心理学、社会科学、政治、福祉、企業経営・労働、地域の高齢者、女性、市民、教育、町づくり、ライフ(個人の人生)等に関する自己実現の概念を研究した。特に、在宅高齢者の自己実現に向けた生活の在り方に示唆を示すことを目的としている。 

2.研究の視点および方法

 先行研究の調査は、国立国会図書館所蔵の論文及び書籍の先行研究調査NDL-OPAC(書誌一般表示)に登録の「書誌検索(一般)」「雑誌記事索引」から「自己実現」に関する先行研究を検索し、抽出した。特に、高齢者の自己実現概念の理論構築に重要と思われる論文等を抽出した。2010~1994年の17年間から247件の書籍等の文献及び1999~1995年の5年間から35件の論文等の計312件を調査し、自己実現に関する重要と思われる文献48件を抽出した。その中から主に重要文献24件を中心に調査研究を行った。表1に重要引用文献を示した。宗教では、佛教とキリスト教からみた自己実現を研究した。先行研究から、自己実現概念を提唱した人物等を分野別に示した。
 哲学分野では、アリストテレス、デカルト、カント、ヘーゲル、キルケゴール、ベンサム、ハイデッガー、ヤスパース、T.グリーン、ニーチェ、ブラッドリー、マルクスらの自己実現概念を研究した。 社会学分野では、M.ウェーバー、ルソー、C.ミルズ 、エンゲルス、C.ストロース、T.パーソンズ、E.ゴッフマン、E.デュルケム、H.ベッカー、A.シュッツらの自己実現概念を研究した。 心理学分野では、S.フロイト、ユング、E.フロム、アドラー、ハーズ・バーグ、ゴールドシュタイン、マスロー、ロロ・メイ、ボルノウ、R.イングルハート、D.ヤンケロビッチ、マコピー、オルポート、カール・アブラハム、ロジャース、ホーナイ、マクレガー、F.バーガー、エリクソンらの自己実現概念を研究した。文学では、サム・シェパード、ヘミングウェイ、S.アンダスン、イプセン、シェークスピア、W.S.モーム、らの自己実現概念を研究した。産業・経営分野では、B.フランクリン、P.F.ドラッカーらの自己実現概念を研究した。福祉分野では、北野誠一、鈴木規之、大橋謙策らの自己実現概念を研究した。 ライフ(人生)分野では、内村鑑三 ニュートン らの自己実現を研究した。
 1920年10月インドのカルカッタ郊外のコダク村で、狼と一緒にジャングルの洞窟にいた1歳半と8歳の2人の少女が牧師らに救出された。2人の少女は手で食べず、犬のようになめて食べていた。2本足で歩かず、両手と両膝で這い、両手と両足で走った。夜に狼の唸り声を上げ、ことばはしゃべらなかった。8年間の養育後に2人は亡くなった。人間の生命は、物と心が痛むという2つの問題が関係し、環境の影響が大きく作用する。生活環境の中で人々のつながりから不安の軽減を図ることが必要であり、ユングは、特に宗教の重要性を述べている。
 ユングは、個人に内在する可能性の実現について述べ、個性の発見を「個性化の道」と論じ、人生の究極の目的としている。自己実現の概念の根底にある本質的な普遍性とは、「実在」(existence)の存在である。実在とは、自己存在そのものであり、常に体験によってのみ獲得される。ユング、ボルノウ、ヤスパース、らは、この実在を非常に重視している。  

3.倫理的配慮

本研究は、研究者の立場から、個人情報に倫理的配慮をしている。本研究で参考とした先行研究文献等は、著作権の保護に適切に従い使用している。
 また、これらは研究目的の自己実現概念の構築の目的以外に使用しないことを誓約します。  

自己実現に関する先行研究調査の文献一覧

4.研 究 結 果
自己実現の概念の学問分野構成

デカルト、ヘーゲルらの合理主義への批判か ら生まれた実存主義は、ハイデッガー、サルト ル、ヤスパースらにより、結実した。 実在との出会いは、自分自身の独自性や独創性を受け入れることを意味する。自分を支え、支配してきた両親や社会的規定から離れ去ることとなる。自己実現は「実在」との出会いであり、実在的自己実現である。つまり、依存関係や既存の価値体系から独立し、自己意識を持つことを意味する。自己実現の過程では怖しい体験をすることになる。
 自己実現の過程では、職業を持つ女性の自己実現においても、孤独と出会う過程を通じて個性化が行われる。社会的文脈の中で他者を尊重し、エコロジーと脱物質主義的価値観による生活の質を重視した自己実現社会が、今後の社会政策の重要課題となると考えられる。人生の目的、目標を最後まで追求する姿勢が自己実現へと導く契機となる。

 

 

 

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