自由研究発表理論1  荒牧孝次

Anthony Giddensの「第三の道」に関する議論についての一考察
 -個人主義への対抗という視点から-

○ 首都大学東京大学院  荒牧孝次 (会員番号7878)
キーワード: 《第三の道》 《Anthony Giddens》 《個人主義》

1.研 究 目 的

 福祉国家がグローバル化等の社会変動にいかに対応するかという議論の一つとしてイギリス労働党のブレア政権においてとられた社会政策として「第三の道」("The Third Way")が挙げられる。そしてこの政策を理論的に擁護した研究者の一人としてAnthony Giddens(以下ギデンズと表記)があげられる。
 ギデンズによれば社会変動に対して福祉国家は"Positive Welfare"と言う福祉社会を前提とした社会投資国家(Social Investment State)として現代化され、教育的な手段により人的資本への投資がその中心におかれるとする(Giddens,1998)。そこではヴェバリッジ報告において独立した性格を持っていた政策が福祉―教育―雇用の連関を念頭に置いたモデルとして考えられている。そして、ここから"Welfare to Work"という福祉と労働市場をより緊密にしたワークフェアのモデルが生まれるのである。
 しかし、このモデルでは福祉政策、教育政策は雇用政策に従属した位置となる。つまりグローバル化した労働市場に対して、それに対応する人材を、福祉政策、教育政策において育成するということである。「第三の道」とはグローバル化した労働市場への個人の対応のみを目的としているのだろうか。
 そこで本研究ではギデンズの議論を再解釈することにより、福祉―教育―雇用と言う連関モデルで捉えきれていないオルタナティブモデルの析出を目的とする。
 つまり本研究では福祉-教育-雇用の連関という見方に加え、第三の道の政策が個人を統合する市民社会を前提としていることを指摘する。

2.研究の視点および方法

 本研究では上記の目的を達成するために、第一に、個人主義(Individualism)への対応という視点からギデンズの近現代理解についての議論を再構成する。なぜなら福祉―教育―雇用の連関は政府が個人に対して人的資本に投資するという政府と個人の関係であり、個人主義に対抗することができないと考えられる。そのためギデンズが個人主義をどのようにとらえ、どう対処しているのかの視点からギデンズの議論を再編成する必要がある。次いで第二に、第一で得られた知見に基づき、ギデンズの政策へのインプリケーションとなった『第三の道』等の文献を分析し考察する。最後に第一、第二で得られた知見からを「第三の道」で示された社会政策について再解釈する。
 次に、本研究の枠組みを説明する。ギデンズは個人主義を社会的再帰性(Social Reflexivity)の拡大として解釈している。そしてそれは利己主義ではなく他者とのかかわり、集団的義務への関与を前提とした自律(Autonomy)を獲得する必要があるとする。他者とのかかわりの中、アイデンティティーを確立するライフポリティクスの側面がこの個人主義に反映されているといる。一方、市民社会や連帯についてギデンズは国民国家の発展とともに現れたものであり、それ故、脱伝統遵守(Detraditionalization)の社会において危機にさらされているものであるとギデンズは認識する。そしてその再生のためには「アクティブな信頼」("Active Trust")が必要となるとされる。故に、他者とのかかわりの中の自律を通して市民の対話を図り、そこから「アクティブな信頼」を形成し市民社会を再生させるという個人主義と連帯の両立という枠組みが考えられる。そして本研究ではそのための方法が社会的包摂であるとして位置づけていきたい。
 研究方法は、文献レビューを中心に進める。特にギデンズの近現代論理解に関する文献並びに、「第三の道」という社会政策へのインプリケーションとなった文献を中心に理論的接近をはかりたい。  

3.倫理的配慮

本研究は日本社会福祉学会の定める研究倫理指針に従って推進するものである。

4.研 究 結 果

 これら理論的検討を通して、主として以下の知見が得られる。
 ① ギデンズの議論では個人の意思決定だけでなく、対話による公共性を重視している。
 ② 第三の道は人的資本への投資だけでなく「アクティブな市民社会」の創造を志向している。
 ③ 第三の道の社会政策は福祉―教育―雇用の連関だけではなく、対話による市民社会を創造し、それを福祉政策の基盤とすることを目指している。
 詳細は報告時に配布する予定である。  

5.文 献

Anthony Giddens,(1998)"The Third Way" Polity Press,(=佐和隆光訳(1999)『第三の道―効率と公正の新たな同盟』日本経済新聞社) ―、 (1994)"Beyond left and right : the future of radical politics " polity press (=松尾精文,立松隆介訳(2002)『右派左派を超えて:ラディカルな政治の未来像』而立書房) ―,(2000)"The Third Way and its critics" Polity Press2000(=今枝法之,干川剛史訳(2003)『第三の道とその批判』晃洋書房)

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