自由研究発表司法福祉・更生保護2  片平 洌彦

犯罪と社会福祉・社会保障との関係について(第1報)

○ 新潟医療福祉大学大学院  片平 洌彦 (会員番号5201)
キーワード: 《犯罪》 《社会保障》 《社会福祉》

1.研 究 目 的

 法務省の「平成20年度版 犯罪白書」では、「一般刑法犯の年齢層別検挙人員は、成人の各年齢層について見ると、横ばいないし増加傾向にあり、高齢者の増加傾向は特に著しい」こと、「しかも、これらの高齢犯罪者の増加の勢いは、高齢者人口の増加の勢いをはるかに上回っている」ことを指摘している。この高齢犯罪者の増加に関して、法務省法務総合研究所の分析では、「社会的孤立や経済的不安」が「高齢犯罪者全般の主な増加原因である」としており、犯罪と社会福祉・社会保障との関係を示唆している。
 そこで、本研究では、犯罪と社会福祉・社会保障との関係について解明を行うことにした。第1報として、まず文献的考察を行った。

2.研究の視点および方法

 先行・関連研究を検索して調べ、その方法・結論の妥当性を検証した。その際、「犯罪統計」の数値の評価に留意し、また、「社会福祉・社会保障」に関する諸指標の適切性について考察した。

3.倫理的配慮

 文献的考察なので、倫理委員会には申請しなかったが、日本社会福祉学会の「研究倫理指針」(2004年10月)に従って実施した。

4.研 究 結 果

(1) GeNiiのデータベースを用いての検索
 GeNiiのデータベースを用いて①2009年11月に「犯罪/高齢化/原因」を、また②2010年1月に「犯罪/社会保障/関係」及び「犯罪/社会福祉/関係」を検索用語として文献検索を行った。その結果、①では、文部科学省の科研費による、浜井浩一・辰野文理(2007)、馬場美年子(2003)の報告が、研究分野としては関係していた。特に、浜井らの研究は、犯罪統計を利用する場合の注意・留意点を考える上で重要な指摘をしていると考えられた。しかし、「研究概要」を見る限り、今回の目的に直接関係するような内容ではなかった。また、②の「「犯罪/社会福祉/関係」での検索によるKAKENの81件の中に、細井洋子らの13地点1831人を対象に1994・94年度に実施した調査の報告(1996)があり、その結論は、犯罪と社会の安定度との関係を示すものと考えられた。
(2) 朴元奎の時系列回帰分析
 「法学新報」(1993~94)掲載の朴の3論文は、「戦後日本における急激な社会経済的変化と犯罪率の変動パターンとの関係を実証的に分析すること」を目的に、1954年~88年の時系列データを用いて回帰分析の手法で行った貴重な研究である。朴は、5つの罪種別に、犯罪発生率を従属変数、失業率・賃金格差・検挙率・離婚率・労働争議率・青年期人口の割合等を独立変数として、因子分析と重回帰分析を行った。これらの結果から、朴は、「経済的平等を伴った経済的豊かさによって特徴づけられる経済的条件及び検挙率と有罪率で代表される刑罰の確実性が、戦後日本における犯罪率の推移にとって決定的な要因であるように思える」と結論づけている。朴のこの研究は、英文で単行本として出版(2006)されており、多変量解析を駆使しての大変な労作である。但し、これらの結果はあくまで「統計的な因果関係」であって、必ずしも実際の因果関係を示しているとは限らないことには注意が必要である。
(3)警察大学校警察政策研究センター「中間報告書」
 辰野文理教授より提供されたこの文献は、2009年1月に警察大学校警察政策研究センターにおいて発足した研究の中間報告である。第1章では、「雇用情勢等の治安への影響に関する諸学説」をレビューして、国内外の5つの文献を引用し、「実証的研究の結果からは、物質的生活水準や経済的平等度の向上が犯罪の抑制に寄与するものと考えられる。」とまとめている。第2章「雇用情勢等の治安への影響に関する統計分析」では、1969年から2007年までの40年間の犯罪及び雇用等に関する統計データから、犯罪発生率を従属変数、一人当たり実質GDP・ジニ係数・完全失業率・10万人当たり警察官を独立変数として、重回帰分析を行った。その結果、「・・・経済的格差が拡大してジニ係数が大きくなれば、万引き及び暴行が増加し、自販機ねらいが減少することが予想される。完全失業率が上昇すれば、ひったくり、万引き、車上ねらい、部品ねらい、自販機ねらい、自動車盗、自転車盗、侵入盗、殺人及び強盗が増加することが予測される。・・・」などとまとめている。これらの結果の解釈は慎重に行う必要があるが、前記の先行研究レビューに新たな知見を加えたと考えられ、学術誌への投稿による論文化が期待される。
 この「中間報告書」には、「統計の専門家による先行研究においても、いまだ犯罪発生率に有意な相関を持つ説明変数について見解が一致していない状況にある。」という記載があり、もしそうであれば、こうした統計的分析を更に進めることは、学問的にも社会的にも有意義なことと考えられる。
 以上から、今後、先ず日本のデータを用いて、犯罪統計数字と、都道府県別の社会保障・社会福祉に関する諸指標との関係等についての解析を進める予定である。

 研究の方向性への示唆をいただき、文献を提供された東洋大・細井洋子教授と、国士舘大・辰野文理教授に厚く御礼申し上げます。本研究は、東洋大学福祉社会開発研究センターの研究の一環として実施した。

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