自由研究発表司法福祉・更生保護2  張 善敬

韓国における青少年犯罪の「低年齢化」と「凶悪化」
 -時代別分析を手掛かりにした触法少年の年齢引き下げの再考察-

○ 東京大学大学院人文社会系研究科  張 善敬 (会員番号7309)
キーワード: 《青少年犯罪動向》 《触法少年》 《社会的排除》

1.研 究 目 的

今日における青少年犯罪は、心理的葛藤や悩みから生じる家出、喫煙、飲酒などの単純な非行行動だけでなく、殺人、強盗、強姦などの強力犯罪まで関わっている。しかし毎日のように新聞やニュースなどのマスコミのなかで、青少年犯罪に関するニュースをまったく出ない日を見出すことは、極めて困難である。とりわけ青少年犯罪の問題が論じられるときは、まるで修飾語のように「低年齢化」、「凶悪化」、「累犯化」、「集団化」の言葉が付きまとうのが事実である。しかし私たちが無知覚のうちに使っている「低年齢化」と「凶悪化」に焦点を合わせて反省しながらその事実を把握する必要があると思う。ところがなぜ、「低年齢化」と「凶悪化」という二つの言葉に焦点を合わせるべきだろうか。
  2007年韓国の法務部では、「触法少年善導と非行予防のための総合対策」を発表し、触法少年 の年齢を満12歳以上から満 10歳以上に引き下げて調整する方案を積極検討した。当時の法務省は最近 10年間(1998年から2007年まで)触法少年及び 12歳未満の青少年犯罪が増加しており――つまり、青少年犯罪の「低年齢化」を取り上げた――、犯行もますます「凶悪化」「集団化」になることによって少年法改訂作業を推進するようになったと説明している。結局、触法少年の年齢引き下げは正式に2008年6月から実行される。つまり、この政策の実行は、より幅広い領域での青少年が犯罪少年者になりうる可能性が高くなったことを意味する。
  本研究では、青少年犯罪の「低年齢化」と「凶悪化」の統計上の資料を用いて分析し、2008年の触法少年の年齢引き下げが社会政策として正当であるかないかを検討する。

2.研究の視点および方法

青少年犯罪を研究する際に最もよく使われる資料は、毎年検察庁から発行する「犯罪分析」である。これをより体系的に整理したのが「犯罪白書」である。韓国で犯罪に関する公式統計の収集が始まったのは1963年からである。しかし1963年から1965年までの資料は体系的にあまり整えていないため、こちらでは1966年から2007年までの犯罪統計を資料として使うことにする。おそらく収集可能なすべての時期の犯罪統計を分析できることになると思う。それらを1966年から2005年までに五つの時期に分けて分析することができた。五つの分け方は時代別に「犯罪」の動向性を区別し、それらを社会的変動の影響力別のスタンスから考えたものである。まず年度別に分けると、第1期は1966年から1970年まで、第2期は1971年から1980年まで、第3期は1981年から1990年まで、第4期は1991年から2000年まで、第5期は2001年から現在までになる。

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1触法少年とは、罪を犯した青少年の中で刑事責任能力がなくて、処罰の代わりに少年法に基づいて保護観察処分を受ける青少年である。

 

3.倫理的配慮

本研究では最新の先行業績を探索し自己の研究水準の向上に努め、韓国における青少年犯罪を時代別に五つの段階分けて分析したのが本研究の独自性(originality)となる。研究方法は資料分析となっているために参考文献の引用を本学会の原則を参考にしている。 

4.研 究 結 果

青少年犯罪における「低年齢化」と「凶悪化」の真相は、次のようである。まず、「低年齢化」の現状を調べるために、全体の保護少年の人数を年齢別の分布の変化を調べた。さらに少年犯罪事件の年齢別の趨勢を確かめた。その結果、全体保護少年は1996年30,992名から1997年37,559名を起点にして2004年まで持続的に減少する。2005年には一時期にやや増加したが、その以降は大幅に減少する。触法少年の年齢引き下げの対象であった12歳未満の犯罪の動向を分析すれば、2005年基準で7~19歳までの全体少年犯罪者は総43,855名だが、そのなかで触法少年以下少年(13歳未満)の犯罪、つまり「低年齢化」の対象になった犯罪は0.5%(203名)に過ぎない。その203名の犯罪内容を細かく分析すれば、「凶悪化」の事実まで分析することができる。触法少年以下の年齢203名のなかで、刑法事件は153名となる。その153名の罪名は、財産犯罪が87名(窃盗60人、詐欺25名、横領2名)としてもっとも多く57%を占めた。 凶悪犯罪はただ総5名であるが、そのなか殺人と強盗は全くなく、防火1名と強姦4名である。すなわち、法務部の主張とは異なって、青少年犯罪の「低年齢化」、「凶悪化」は事実ではないことが明らかになった。
  さて、EUの21世紀初葉の最重要課題とされている社会的排除に対する闘いは、1997年のアムステルダム条約でEU(ヨーロッパ連合)の主要目標の1つに位置づけられた[Social Protection Committee 2001: Bhalla and Lapeyre 2004,6]。それは、金銭的貧困にとどまらず、就業、教育、健康の4つの次元での排除を問題にし、社会のいろいろな場面に1人前のメンバーとして参加できないことを指す。ところが青少年犯罪者は、罪を犯す前からすでに社会的排除の4つの状況におかれている青少年が多い。しかし今回の触法少年の年齢引き下げによってより幅広い領域での青少年が犯罪者になって、そのラベリング効果によって一生をかけて社会的に排除される可能性が高くなったと思われる。
  さらに、少年法改正の主な内容である触法少年の年齢引き下げは、国際人権基準である児童権利協約(CRC:Convention on the Rights of the Child)と北京ルール(Beijing Rule)で少年法の適用年齢を12歳に以下に引き下げないように提案を無視した政策であり、世界の趨勢から退行した政策であると明らかになった。

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