救護施設における触法障害者の実態と支援の課題
○ 北海道医療大学 佐々木 明員 (会員番号27)
キーワード: 《救護施設》 《触法》 《障害者》
本論は平成21年度厚労科学研究において、救護施設の触法障害者の支援の実態と支援体制の整備に関する調査をした。調査結果は、救護施設には触法の入所者、触法障害者、野宿者が急増している多様な実態と課題が明らかになった。2008年勃発した世界金融危機に起因する貧困と格差の拡大を背景に、セフティーネットである生活保護施設の救護施設に先鋭的・多面的・集中的に触法の入所者・障害者問題として反映していること。調査の結果は、触法障害者等の支援の多様化や支援における新たな制度的対策の必要性も生じている。一方、矯正施設と福祉をつなぐ地域生活定着支援センターが平成21年度に設けられた。触法高齢者・障害者の出所後の福祉施設利用の調整や地域関係機関の支援連携体制の確立のためである。しかし現在21道県と半数に満たない設置の状況である。また、触法障害者の受け入れ入所施設等への地域生活個別支援特別加算は、救護施設は対象外であるなど実態と矛盾する受け皿体制整備のあり方が問題となっている。
本研究は、こうした救護施設における触法障害者と支援の実態と動向を明らかにして、今後の触法障害者の支援及び制度的課題について論究する。
1)研究の視点
①救護施設における触法障害者のあらたな動向と実態を把握し、②救護施設の触法障害者の支援の実態から問題や課題をまとめ、検討する。③触触法障害者の支援制度に関する検討と対策について論究する。
2)研究方法
①救護施設に関わる次の3調査を比較検討し、触法障害者と支援の実態を明らかにする。
②比較検討資料は、次のとおりである。
第1資料:平成21年度厚生労働科学研究(障害保健福祉総合研究事業)「触法・被疑者となった高齢者・障害者への支援の研究田島班小林グループにおける分担調査「救護施設を利用する障がい者・高齢者の触法・被疑者の実態及び支援に関する実態調査」(研究担当者札幌明啓院青山勝義、北海道医療大学佐々木明員、発表者は調査研究者である。)
第2資料:厚生労働科学研究(障害保健福祉総合研究事業)「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究(平成18-20年)」研究代表者田島良昭(平成21年2月18日)
平成19年度研究報告書研究分担者高橋勝彦研究1「球技施設におけるこれまでの罪を犯した知的障害者の受け入れ状況と支援及びその課題の検討」
第3資料:平成19年度他移動救護施設実態調査報告書 北海道救護施設協議会(平成20年12月)。第3資料は、全国救護施設協議会「平成17年度全国救護施設実態調査報告書」を参照し実施している。調査結果においても平成17年度の比較数値を併記し作表している。本稿では平成17年度全国調査数値は同表による。
本研究発表は、日本社会福祉学会が定める研究倫理指針における目的及び遵守義務、その指針内容に則り適正に研究発表を行う。
4.研 究 結 果1)救護施設における触法者及び触法障害者の実態
17年度調査の入所者に占める触法者率は0.4%、19年度調査では触法知的障害1.9%、21年度調査は86施設381名3.3%でる。5年間
で約8.3倍の急増である。触法者に占める障害者率は194名45.9%、回答施設123施設における触法入所者在籍施設数は88施設71.4%
である。19年度と21年度の調査における入所相談の比較では、触法者入所相談があった施設は51施設に対して103施設83.7%の約2倍
、入所相談件数は5年間で143件に対して3年間で504件の3.5倍、相談による入所の人数は93名に対して相談件数の55%である278名
が入所し約3倍の急増である。入所中の再犯は、17年度調査0.2%、19年度調査触法知的障害者2.9%、21年度調査4.6%と増え、退
所後の再犯は9名4.6%である。大量の生活困窮者の発生よる社会問題化と連動した関係機関の連携によって、施設入所等へつなが
ってきたが、急激に増加する多様な触法者の支援の対応からの検討が必要である。21年度調査の触法者の入所前の居場所が野宿が
37名9.6%、刑務所・更生保護施設42名11%である。触法障害者の状況では、精神障害者が194名45.9%と高い。知的障害69名、
16.3%、身体障害58名13.7%で身体障害者の増加も見られる。障害者手帳所持者は37.9%である。年齢では、61歳以上高齢者者が
208名54.6%と半数を超えている。最近は生活困窮者や精神障害者の増加傾向もあり高齢者率は逓減傾向にある。
2)触法障害者支援における問題・課題
①触法障害者の福祉施設入所において矯正施設等から必要な情報が得られなく、受け入れ準備が整わない等の問題がある。地域生
活定着支援センターの速やかな設置と地域支援体制の確立が重要である。②罪状や障害特性に応じた触法障害者支援や支援に関
する研修及び人材養成の実施、マニュアル・ガイドブック等の発刊等が急がれている。
3)触法障害者の受け入れた入所施設等への地域生活個別支援特別加算制度は支援体制の条件整備に欠かせない。しかし支援実績
があっても、救護施設等が除外されていなどの問題が多く、支援の実態に応じた改善が必要である。