自由研究発表司法福祉・更生保護2  滝口 涼子

犯罪被害者遺族による講演・啓発活動を支えるソーシャルサポート
 -地域の被害者支援団体を事例として-

○ 上智大学大学院  滝口 涼子 (会員番号6995)
キーワード: 《犯罪被害者遺族》 《犯罪被害者支援》 《ソーシャルサポート》

1.研 究 目 的

 近年、犯罪被害者遺族を中心とした当事者による社会的・政治的な活動が、被害者・遺族の権利の拡大や被害者・遺族のための支援策の充実に大きな役割を果たしてきた。だが、これまでの被害者遺族に関する日本と北米・英国における調査研究の動向をみると、こうした遺族の活動に焦点をあてた研究はほとんどない。そこで本研究では、地域の被害者支援団体において遺族が、被害体験や命の大切さを伝え、少しでも犯罪被害に苦しむ人を減らすことをめざして行っている講演・啓発活動を事例として取り上げる。また、先行研究では、ソーシャルサポートが遺族の生活に与える影響が検討されてきており、特に社会福祉学の分野では焦点がおかれている。ソーシャルサポートは、フォーマルな支援とともにインフォーマルな支援にも注目した概念である。本研究で取り上げる遺族の講演・啓発活動は、ボランティアによるインフォーマルな支援を含めた支援をもとに実践されたものであり、この活動への支援について、ソーシャルサポートの概念から分析することが重要であると考える。以上を踏まえ、本研究では、地域の被害者支援団体での被害者遺族による講演・啓発活動を支えるソーシャルサポートについて分析・考察することを目的とする。

2.研究の視点および方法

 犯罪被害者・遺族に対する支援と、被害者の視点を大切にして被害者・遺族を総合的にサポートできる環境づくりを目的として活動するNPO法人(以下、「被害者支援NPO」)に対して調査を依頼した。この「被害者支援NPO」は、西日本のY県Z市にあり、2人の犯罪被害者遺族が中心となって、NPOの代表である弁護士や、ボランティアなどの支援者らとともに、NPOの運営に携わっている。調査では「被害者支援NPO」の活動に携わる被害者遺族2名、支援者3名(代表1名を含む)の協力者を得た。データ収集では、2010年4月、5月にインタビューガイドを用いた半構造化インタビューを行い、遺族には犯罪被害に遭ってから現在までの経験について、支援者には「被害者支援NPO」での被害者支援の活動を始めてから現在までの経験について聞いた。データ分析では、「回答者の答えを、ある外的な現実(事実や出来事)あるいは内的な経験(気持ちや意味)を説明するもの」と考えるリアリストの立場に立ち、遺族の行った講演・啓発活動を「外的な現実」、その活動の基盤となった事件にまつわる問題・ニーズ・思いと、遺族が自らのニーズを満たしたと判断したソーシャルサポートを「内的な経験」と考え、これらを抽出し、コード化・カテゴリー化を行った。ソーシャルサポートについては、Wills & Shinar(=2005)によるソーシャルサポートの分類をもとにした分析枠組みを用いた。

3.倫理的配慮

 インタビュー前に、研究趣旨、調査参加は自由であること、秘密保持、個人情報の保護、発言の自由が確保されていること、いつでも中止できることを確認した。特に遺族へのインタビューでは、犯罪被害により家族を喪うという衝撃的で辛い経験について尋ねるため、インタビュー終了後には、気持ちの整理をつけられるような時間をとるなど配慮した。

4.研 究 結 果

 インタビューの逐語録を分析した結果、遺族の講演・啓発活動の過程で、次のようなソーシャルサポートが見出された。まず遺族は「事件後の苦しみをありのまま伝えたい」「命の大切さを語りたい」などのニーズを持ち、そのニーズを「被害者支援NPO」の支援者に伝え、支援者がそれを受けとめていた。そして遺族を核として、支援者がその遺族のニーズを聴き取り、その実現のために一緒に動く、という遺族と支援者の位置づけができた。この位置づけは、それ以降のプロセスの基盤となっていた(「承認」のサポート)。「被害者支援NPO」の支援者は、資金調達、講演先探し、行政・警察等との協働事業の企画、事業報告書の作成・配布などの「道具的サポート」や、行政との協働事業に向けて、行政内部の仕組みに関する知識を提供するという「情報的サポート」を行っていた。こうして、講演・啓発活動が始まった。活動が始まると、それまでに築かれていた遺族と支援者との信頼関係から、自然と支援者が遺族と講演の行き帰りなどで行動をともにするようになった(「コンパニオンシップサポート」)。遺族は、講演で自らの経験を語ることにより、事件当時の苦しみを再び感じて心が揺れるという体験をしていたが、そうした遺族の気持ちを支援者が理解し、日常に戻ることを手伝うというコンパニオンシップサポートの機能が意識化され、その重要性が遺族と支援者の間で共通に認識された。また遺族が講演の聴衆からの感想文などにショックを受けたときに、支援者はそのつらい気持ちを共感的に聴き取っていた(「情緒的サポート」)。こうして、講演・啓発活動が継続されてきた。さらに、「犯罪被害を自分のこととして理解してほしい」「理解者が増えることで被害者の居場所が広がってほしい」といった遺族のニーズに対しては、継続的な講演・啓発活動の中で遺族の声が聴き届けられることにより、それまで犯罪被害についてよく知らなかった人の中から理解者が生まれるとともに、支援者の間でも犯罪被害についての理解が深まるという結果が得られていた。ソーシャルサポートは、サポートの受け手と送り手の関係、サポートの種類、サポートを提供するタイミングなどの様々な要素によって、サポートの受け手のニーズの充足や安寧などの結果が左右されることが指摘されているが、本研究でみられた講演・啓発活動へのソーシャルサポートでは、これらの要素がうまく組み合わされて、遺族の一定のニーズの充足という有益な結果が導かれたといえよう。

【参考文献】 Wills, T. A. and Shinar, O.(=2005)岡田知香・真船浩介訳「期待されたサポートと受容されたサポートの測定」 小杉正太郎・島津美由紀・大塚泰正・ほか訳『ソーシャルサポートの測定と介入』川島書店,115-179. 

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