自由研究発表司法福祉・更生保護1  堀田 利恵

高齢犯罪者の社会復帰に向けた支援に関する研究
 -女性初発群を中心として-

○ 日本福祉大学大学院  堀田 利恵 (会員番号7824)
キーワード: 《高齢者》 《犯罪》 《女性》

1.研 究 目 的

 日本は世界に類を見ない超高齢化社会になった.過去20年間(平成2年~21年)で65歳以上の人口は約2倍になった.その一方,一般刑法犯検挙人員に占める65歳以上の割合は約3.7倍と,人口増をはるかに上回る形で高齢者犯罪者が増加している.この現象は,先に高齢化が進んだ西欧諸国では見られず,日本だけに見られる特徴である.今後ますます高齢化が進むと予想される日本において,高齢犯罪の増加やその背景要因を分析し,実態を把握し対策を考えることは,日本の社会全体の安寧と高齢者やその家族の生活の安定のために極めて重要である.
 このような認識に基づき,本研究では,高齢者特有の不安,孤独感,社会的孤立等に焦点を当てて,社会全体でとりくむべき課題という視点を持ちつつ,生活実態を踏まえニーズを的確に把握し,そのニーズに応じた支援をいかに連続性を持って,計画的に実施していくかを考えていく.実体的解決に立脚点を置きながら,個別具体的な処遇手法の向上と社会復帰支援策の構築につなげていくことが本研究の目的である.

2.研究の視点および方法

 高齢犯罪に関する先行研究では,増加の要因として様々な要因が複雑に絡んだ上での社会的孤立があること指摘されている.増加する高齢者犯罪の問題の中で,高齢者になってから初めて犯罪に手を染めた初発群が一定数みられることが高齢者犯罪の特徴として浮かび上がってきた.また,男性よりも女性の初発群のほうがより高い増加傾向が見られる.
 今後増える可能性のある初発群の研究は,そのニーズに応じたケアを始め,権利擁護や社会復帰を考える上でも重要になってくると思われる.
 さらに,女子の高齢犯罪者の実態調査からは,生活基盤はあり,生活費自体に困っていたわけではない者が多く,小額の食品等の万引がほとんどで,高齢になって万引を繰り返すようになった者も少なくなかった.背景要因として,疎外感や被差別感を有している者が少なからず存在し,これらについては,周囲からの働きがけや支えがほとんどないことからくる孤独感,孤立感といった心理的要因が影響している可能性があることが示された.このような者に対しては,女性の特性である「関係性」の良い面を引き出し,男性とは異なる座標軸での処遇を求めたらどうかという注目すべき提起もある.1)
 本研究では,女性高齢犯罪者のうち初発群を対象とし,満期出所者に対して,任意で,反構造化インタヴューを通じて直接お答えいただく形式をとった.具体的には,A刑務所の外で待ち,出所した元受刑者に声をかけ,調査の説明をし,同意を得られた方に心理的要因,ライフコース上での転換点,本人の家族や周囲との「関係性」に焦点を置いた質的調査を行った.更に,司法領域のソーシャルワーカーとして保護観察官,司法領域で働く社会福祉士,精神保健福祉士に対してアンケート記入を依頼し,量的調査を行った.

3.倫理的配慮

 調査対象者(女性高齢犯罪者)の権利を保障するため,調査の依頼時に研究の目的と方法を分かりやすく説明し,同意を得られた方に対象者の自己決定の権利,匿名性及び秘密保持の権利を保証すること,個人情報保持に責任を持ち,調査結果を希望の方法でお知らせすることを文書で提示しながら,口頭で説明を行った.また,調査は対象者の都合でいつでも中止できる等も説明する文章を提示し,調査中は,常に保持した.
 保護観察官,社会福祉士,精神保健福祉士等には,対象者に関する調査上の倫理的配慮,事例で無く統計的に活用するための客観的なデータを対象とした調査であること,調査結果を知らせることを説明した上,回答の強制は行わず,調査票の回答を得られたことをもって同意が得られたと考えた.  

4.研 究 結 果

 量的調査のうち,保護観察官へのアンケートでは,対象者の心身の状況について,事件当時,集中力と注意力の減退,自己評価と自信の低下,将来に対する悲観的な見方などが見られ,収容中は,罪責感と無価値感を持つ傾向があることが得られた.対象者のライフイベントが起きた前後の生活状況と事件の関係については,配偶者死亡後の生計の困難,家族の健康の変化などが示された.また本人と家族,周囲との関係性については,子供と接触の少なさ,相談し合う親しい友人が余りない等,孤独や不安感が示された一方,家族関係や地域との関係を円滑にしていない阻害要因として,本人自身の性格や資質があることも示された.最後に,女性高齢者に初発群が増えている理由として,社会的孤立が進んだからではないか,といった印象があるとの傾向が得られた.
 行刑施設で稼動する精神保健福祉士,社会福祉士に対しての量的調査結果,及び対象者本人に対する質的調査結果については口頭で報告する.  

引用文献
1)藤岡淳子(2003)「女性と犯罪」『犯罪と非行2003.1』,6-23
参考文献
・太田達也(2009)「少年問題と高齢者問題,高齢犯罪者の実態と対策」『警察政策』,警察政策学会編集

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