自由研究発表社会福祉教育・実習3  梅野 潤子

ソーシャルワークの価値を具現化する演習プログラムの検討
 -先行研究レビューを通して-

○ 徳山大学  梅野 潤子 (会員番号6808)
東京都北区飛鳥晴山苑地域包括支援センター  古屋 博子 (会員番号7255)
キーワード: 《ソーシャルワーク》 《価値の具現化》 《演習プログラムの検討》

1.研 究 目 的

  サービス利用者とともに本人が望む暮らしの実現に向けた支援活動を行うソーシャルワーカー(以下、SWr.と表記)の養成において、とりわけ演習教育は、ソーシャルワーク(以下、SWと表記)の価値・知識・技術の連係を具体的・体験的に学ぶ、重要な教育方法の一つである。利用者の多様な支援ニーズに即した、より高度な支援がSWr.に要請される今日、実践力を高める上で要となる演習教育の重要性の認識は、ますます深まっている。2009年度からの社会福祉士新カリキュラムにおいても、「相談援助演習」は、従来の「社会福祉援助技術演習」より30時間の増加がみられる。しかしながら、実際には、演習内容や進め方は個々の教員の裁量に任されている部分が多く、質的なばらつきが課題とされているとともに、多くの教員が適切な教材がないことに悩みを抱えていると伝えられている(社会福祉士養成校協会、2003)。より充実した演習教育の提供をめざし、社会福祉士養成校協会や若手研究者を中心にさまざまな演習プログラムが開発されているものの、体系的な演習教育の方法の開発には至っているとは言い難く、今後一層の研究が期待されるところである。 発表者らもまた、養成校および社会福祉実践現場における教育実践を通じて、学生がSWの価値を具体的に学ぶ機会を最大限に活かし、現場での実践を見据えた一貫性ある演習教育を展開していく必要性を強く認識している。  そこで、本研究を、SWの価値・知識・技術の連係をより効果的に学ぶ演習プログラムを構築していくための序論の段階として位置付け、日本において過去10年間に開発された演習プログラムの検討を行うことを研究目的とした。先行研究のレビューを通して、SWの価値を具現化する演習プログラムの到達点と課題を明らかにしたい。

2.研究の視点および方法

  研究方法としては、文献研究の手法を用いる。具体的な手順は以下に示すとおりである。 (1)文献データベースCiNiiにおいて、「社会福祉援助技術」+「演習」、「相談援助」+「演習」、「ソーシャルワーク」+「演習」のキーワードで研究論文を検索した。検索結果を手掛かりに収集した結果、2010年6月1日の時点で84件を収集することができた。 (2)本研究では演習プログラムの検討を目的とするため、(1)の文献の中から、論者が演習についての問題意識や学習目標、学習内容を具体的に提示しているもので、かつ、発表時期を1999年~2010年現在と限定して抽出した。その結果、33件の文献が検討の対象となった。なお、検討の対象を1999年以降とした理由は、社会福祉士養成における教育課程の見直しを行い演習教育についても方向づけを行った『福祉専門職の教育課程等に関する検討会報告書』(1999年)が発表されて以降、現在までの間に、報告書で示された演習教育のポイントが演習プログラムにどのように反映されてきたかを検証するためである。 (3)検討の対象となる文献を用い、①論者の問題意識、②演習プログラムでの学習目標、③具体的学習内容を整理したうえで、④演習プログラムの検討を行う。検討の際の視点としては、前掲の報告書(1999年、p2)において掲げられている演習教育のポイント(下表)に照合し、具体的なプログラムにどのように反映されているかを確認していくこととする。

ⅰ.人権の尊重、自立支援等の理念を具体的に理解し、援助の過程で的確な対応ができるようにする。
ⅱ.援助の対象(問題)の理解を深めるため、人の心を理解し、意思疎通をうまく行えるようにする。
ⅲ.援助過程を重視し、各種援助技術を活用した総合的な援助ができるようにする。
(4)検討した演習プログラムの共通性と特殊性を整理し、その到達点と課題をまとめる。

3.倫理的配慮

  複数の研究会メンバーにおいて恣意性のないように演習プログラムの検討を進めるとともに、より客観的に検討するための視点として、上記の演習教育のポイントを用いる。

4.研 究 結 果

  問題意識については、演習をSWの理論と実践をつなぐ教育方法として重視すること、とりわけ価値を具体的支援において実践できるよう に訓練する機会として演習を捉えているものがほとんどであった。学習目標については、ケースワーク・グループワーク・コミュニティ ワークの技法について事例を通して体得していくものや、SWr.としての価値を具体的に学んでいくもの(倫理的ジレンマ、死生観、 自己覚知など)が見られた。学習内容については、個別あるいはグループで事例を活用して学習するものや、ロールプレイを行うもの が多かった。また、地域や利用者の協力を得て学習を進めていくものも見られた。  演習教育のポイントからプログラムを検討すると、ⅱのコミュニケーションスキルやⅲの援助過程における援助技術の活用について は、とりわけ事例を用いて意識的に取り組まれていることが読み取れた。一方、ⅰの価値を具体的に理解し実践することや、ⅱの対象 理解という点についてみると、学生がプログラムを通してSWの価値を具体的に理解することを学ぶよう工夫がなされていることがうか がえる。しかしながら、それらの価値を具体的な支援においてSWr.としてどのように実践していくのか、誰のため、何のためにその 援助技術を活用するのかという、価値の具現化の段階にまで学習を進められるプログラムは確認できず、また論者らもそのことを今後 の課題として捉えていることが明らかとなった。ただし、利用者との協働という価値を具現化する技術を学ぶことができると理解でき るプログラムも確認でき、今後は、SWの価値を具体的支援において実践できるよう、演習プログラムを発展させていく方向性が示唆 された。

<参考文献>
社会福祉士養成校協会(2003)『社会福祉士養成校教員研修プログラム基盤構築事業2002年度報告書』
社会福祉・医療事業団助成事業、福祉専門職の教育課程等に関する検討会(1999)『福祉専門職の教育課程等に関する検討会報告書』(http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1103/h0310-1_16.html 2010/05/20)

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