自由研究発表社会福祉教育・実習3  添田 正揮

多文化社会に対応したソーシャルワーク教育および実習
 -社会福祉士養成教育の発展にむけて-

○ 日本社会事業大学  添田 正揮 (会員番号7092)
キーワード: 《ソーシャルワーク教育》 《多文化社会》 《ヒューマン・ダイバーシティ》

1.研 究 目 的

  本研究は、ソーシャルワーク教育においてエスニシティやエスニック・リアリティがどのように受け止められてきたのかを解明すると共に、それらに対応するために生み出された価値や理論等を明らかにすることを目的とした一連の研究作業の第3報である。 前回(第57回大会)の報告(第2報とする)では、次の3点を研究結果として報告した。(1)ソーシャルワーク教育のスタンダードの構築と維持を目的としてソーシャルワーク教育者、専門機関及び組織、学際的機関によって設立された組織「ソーシャルワーク教育協議会(CSWE)」が定めた認定基準に基づき、多文化カリキュラムを編成しシラバス等を作成していることが明らかとなった。(2)ワシントン大学Brown SchoolのMSWコースに設置されている科目「Human Diversity」ではoppression、privilege、social class、disability、sexual orientation、poverty、bias、stereotypes、obfuscation、institutionalize violence、social construction of difference、discrimination、economics of raceなど、幅広いテーマを扱っていることが明らかになった。これら「多様性」を構成する具体的要因をソーシャルワーク実践のエビデンス(evidence based practice)として教授している。(3)職能団体であるNASWが「Indicators for Cultural Competence in Social Work Practice」を作成しているが、必ずしも2つの大学の実習教育指導においては意識されていないことが明らかになった。 しかしながら、文化的コンピテンスの把握と向上のための自己覚知トレーニングマニュアルを作成し、訓練を実施するなどの取り組みも確認された。 以上を踏まえ、今後の展望と課題として整理されたのが以下の3点である。 (1)日本のソーシャルワーク教育にエスニシティを包含した多様性の観点と多文化に対する視点の導入及び教育方法やカリキュラムの整備に活用することができる。 (2)エスニシティは多文化ソーシャルワーク教育の一部である。日本における多文化を視野に入れた教育内容と教育方法を構築する上で重要である。 (3)職能団体が作成したコンピテンスなどの指標や教材の活用方法が課題となっている。 本報告(第3報)においては、第2報の課題を踏まえながら、英国サウサンプトン大学における調査結果を基に、3ヵ年にわたる研究結果を踏まえて多文化社会に対応したソーシャルワーク教育および実習内容について検討し、社会福祉士養成教育の発展につなげることを目的としている。

2.研究の視点および方法

  イギリスのソーシャルワーク教育におけるanti-oppressive practice または anti-discriminatory practice の歴史的経緯と現在大学においてどのように教授されているのか明らかにすることを目的として、Southampton大学School of Social Sciencesの訪問調査及び文献調査を実施した。Southampton大学では、Quality Assurance Agency Subject Benchmark Statement for Social Workのベンチマーキング策定の初期メンバーであるJ Powell教授にインタビューを実施した。

3.倫理的配慮

  引用にあたっては日本社会福祉学会研究倫理指針を遵守し、必要に応じて日本社会事業大学研究倫理委員会に指導を受けプライバシー等、人権侵害がないよう適切に進めた。

4.研 究 結 果

  研究結果の要点は以下のとおりである。 (1)エスニックマイノリティを包摂したソーシャルワーク理念へ イギリスでは、人種と差別に対する関心が拡大する中で、anti-racist 及び anti-oppressiveソーシャルワークが誕生した。この理念は、高等教育質保証機構(Quality Assurance Agency for Higher Education)が2000年の「ソーシャルワーカーの養成訓練基準であるソーシャルワーク学部の基準(Quality Assurance Agency Subject Benchmark Statement for Social Work)」にも反映されている。この基準には、①ソーシャルワークの性質と範囲(Nature and extent of social work)、②原理の定義(Defining principles)、③知識、理解、技術(Subject knowledge, understanding and skills)、④教授、学習、評価(Teaching, learning and assessment)、⑤ベンチマーク基準(Benchmark standards)の5つがある。その中の「③知識、理解、技術」において多様な社会におけるソーシャルワークサービスの不可欠な性質としてanti-discriminatory practicesが明示してある。 また、マスターコースにおいては、科目として開講してはいないものの、それぞれの科目においてanti-oppressive practice の考え方や価値を教授している。また、マスターコースProfessional Studiesにおいては、anti-oppressive practice およびequal opportunities が中心的関心事項として位置づけられていることが明らかになった。 (2)多文化社会に対応したソーシャルワーク教育・実習プログラム 日本の社会福祉士実習においては、実習生、実習指導者、教員、利用者の「実習の4者関係」を意識することが重視されている。この関係性を有意義に活用することにより、実態に合った多文化社会に対応可能な社会福祉士養成教育プログラムの構築が可能となる。

付記:本研究は平成21年度文部科学研究費補助金(若手研究B)〈課題番号:19730370〉の研究成果の一部である

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