自由研究発表社会福祉教育・実習3  高橋流里子

「地域福祉型」実習を超えた地域を基盤とした社会福祉士実習
 -日本社会事業大学版「地域型」実習の意義と課題-

○ 日本社会事業大学  高橋流里子 (会員番号438)
日本社会事業大学  木戸宜子 (会員番号3228)
日本社会事業大学  松井奈美 (会員番号4164)
日本社会事業大学  西田ちゆき (会員番号5242)
キーワード: 《実習指導》 《「地域型」実習》 《「地域福祉型」実習》

1.研 究 目 的

  ソーシャルワーカーは、何らかの生活困難を抱える利用者が生活困難を軽減・解消できるように、社会資源等を活用して支援する。その利用者とは、特定の空間で、特定の問題を持つのではなく、施設にいても主体性を備える"地域で生活する住民としての利用者"であるから、多様な立場にあり多様なニーズを抱える。利用者理解を社会福祉士(ソーシャルワーク)教育、とりわけ実習教育に反映する必要があり、それには、分野を超えた視野と地域での生活支援に着目できる実習教育が求められる。しかし、社会福祉援助技術現場実習」(相談援助実習」の枠内では、単独の施設・機関での社会福祉士の現場実習とならざるをえないため、利用者の生活の部分的把握に留まり、地域住民の側面を理解するには限界がある。 そこで、地域で生活する住民としての利用者いう視点をもち、包括的、総合的支援に結びつく実習教育をねらい、2006年度から2008年度までの3年間、日本社会事業大学内の共同研究として日本社会事業大学版「地域型」実習モデル(以下「地域型」実習)を開発・実践をした。2008年度本学会で「地域型」実習指導の類型化の整理と実践の一部は報告した。本報告では、「地域型」実習の総合的な評価を踏まえて、特に実習指導の観点からの課題を提起する。

2.研究の視点および方法

  本学では2007年度から、学生自身の興味関心及び実習先機関の機能・役割といった部分的な観察・考察ではない、ソーシャルワークが重視する全体性の観点から、分野・機関混合の実習指導のグループを編成し、実習指導を進めている。たとえ入所施設で現場実習をしたとしても、支援の総合性、包括性につなげられる学習を目指している。本報告では、一部のグループにさらに、地域性を加味し、2006年から地域を基盤としたソーシャルワーク実践を志向した社会福祉士実習モデル「地域型」実習を対象とする。 「地域型」実習の特徴は、①包括性、総合性、地域性という支援の要素の理解は学内の実習指導で補完し、強化する。②現場実習はグループ全員が同じ地域内の施設・機関で行う③現場実習は社会福祉士実習の枠内で行なう。④学内の実習指導においては、個人とグループのテーマのふたつの要素を含み、個別学習とグループ学習を一体化させる、という点にある。

3.倫理的配慮

  本学会が掲げる倫理規定に基づき研究をすすめた。

4.研 究 結 果

  (1) 「地域型」実習のプログラムと評価  学内実習指導の構成要素は①利用者理解と施設や機関の理解 ②地域の把握と支援体制を理解し、③その地域で展開される支援体制やネットワークを考えるという視点を共有することである。基本的には同一教員が、同一グループを2年間担当し、グループを活用するソーシャルワークの手法による演習として行った。1年目のプログラムの内容は、事前学習と位置付け、地域で生活する生活者の視点を理解させるための「生活」の理解、生活のために必要な地域の全体像の把握を資料と地域探訪で行った上で、利用者にかかわる医療、福祉、教育の社会資源を見学した。学生の学習過程で生じた疑問を当該自治体の担当者に投げかけ質疑応答等を行った。これらを通して、地域の支援システムの現状と課題を学習した。2年目に、現場実習がおかれ可能な限り全分野の福祉を網羅できるように配属した。そして、通常の個別の事前指導と地域をより鮮明にするためのグループ学習を行った上で、現場実習に取り組み、事後学習で、個別の現場実習の体験を踏まえてグループで、支援の実施体制の分析、考察することを目指した。 最終総括として学生の体験で得た分析や考察を当該自治体の担当者に提起、質疑応答する機会を設けた。 「地域型」実習以外の実習指導のグループに比べ出席率と予習復習に取り組んだ割合が高かったという主体性の涵養等肯定的な学習態度は際立った。学生はグループで、地域探訪、現場実習等で知り得た知識・情報を共有し、分析・考察したことを通して成長した。内容的には、地域の社会資源の繋がり等地域の福祉システムに関する理解が深まったという効果が示唆された。 (2)課題 「地域型」実習は、既存の社会福祉援助技術実習(相談援助実習)の枠内で、学内の実習指導によって包括性、総合性を具備した地域支援の実習教育の可能性を秘めているが、その要は学内の実習指導である。従って、「地域型」実習の課題の一つとして教員の共通認識が挙げられ、本学における「地域福祉型」実習の限界を超えようとするのが「地域型」実習であるという理解が特に重要である。本実習モデルの学習要素の一部の地域の把握等地域課題があることから、「地域福祉」型との混乱が見える。「地域福祉型」と「地域型」を比較すると、教育目標(地域の福祉課題の理解vs地域における支援体制)、想定する支援の対象(地域の一般住民vs地域住民としての利用者)、現場実習の形態(拠点を社協・行政におき地域の多様な施設・機関vs地域内の社会資源と位置付け、均等に配属した施設・機関)、現場実習のプログラム等の違いが見出せる。「地域福祉型」実習は、一般住民の活動等の社会資源作りに焦点化しても、利用者の地域支援が薄れたり、背後に置かれたりする可能性がある。 これらを明確化するために、今後「地域型」実習における実習指導として、さらに教授法の具備や多くの教員が指導できるようにするための教材開発が課題となる。 また、プロセスを踏む学習であり、個別とグループの課題の両方を果たさねばならない実習指導であるため、実習指導の組み立てに工夫を要する。 さらに、「地域型」実習として発展・展開してきたとはいえ、社会福祉の範疇で実習を捉えてきたと言わざるを得ない。今後は医療・教育・司法等地域における多職種連携や多機関連携を射程に入れた実習教育プログラムの開発も課題である。 なお、共同研究のメンバーであった小畑万里氏に多大なご協力を頂いた。記してここに謝意を表したい。

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