自由研究発表社会福祉教育・実習2  工藤 歩

新カリキュラム下における相談援助実習指導者要件の現況調査
 -沖縄県内社会福祉施設に対するアンケート調査をもとに-

○ 沖縄大学  工藤 歩 (会員番号5314)
沖縄大学  高木 博史 (会員番号5480)
キーワード: 《相談援助実習》 《新カリキュラム》 《相談援助実習指導者要件》

1.研 究 目 的

  1987年に制定されて20年が経過した2007年末に、制定後初めて「社会福祉士及び介護福祉士法」の大幅な改正がおこな われ、それにともなって養成校における社会福祉士の養成カリキュラムも大幅に改正されることとなった。「ソーシャ ルワーク実践力の強化」を目的とされた本改正においては、従来の設置科目から大幅に科目数が増加し、「社会福祉援 助技術現場実習」は「相談援助実習」に名称が変わった。
 しかしながら、この改正は各種養成校をはじめとする教育 現場、また実習を受け入れる側である社会福祉現場に大きな影響を与えた。社会福祉士養成を担っている養成校の現場 においては、相談援助実習(相談援助実習指導含む)を担当する教員には、社会福祉士取得後5年以上の相談援助業務の 経験を有する者か、社会福祉士実習演習担当教員講習会を修了しなければ科目担当そのものができなくなってしまうこ とになった。(経過措置によって平成23年度末までは教歴5年等の措置も講じられている)
 また一方で、実習を受け入 れる側に課せられる負担も大きく、相談援助実習を受け入れる施設や機関における実習指導者も社会福祉士を取得後、3 年以上の相談援助業務経験を有し、厚生労働大臣の指定する講習会の修了していることが義務付けられるなど教育現場 、社会福祉現場双方にとって非常に厳しい資格要件が課せられるようになった。
 沖縄大学においても本改正に対応するため、2009年度より新カリキュラム制度のもとで、社会福祉士養成を実施する こととなった。
 ところが沖縄県においては、実際の実習を受け入れる社会福祉施設において、これらの条件を満たしている専門職 としての社会福祉士の配置が進んでおらず、また島嶼県であるため他県との人材交流が容易ではないという地域性もあ り、今後の養成教育において多大なる不安を抱くこととなった。
 そこで本発表においてはこうした法改正を受けて、沖縄県内における社会福祉現場における実習指導者の資格要件 に関する調査を実施し、現状を把握することによって、今後の対応と課題について検討することとした。

2.調査研究の背景

沖縄県をはじめとして、社会福祉士を養成する大学や専門学校の絶対数が少ない地域では、必ずしも「十分な数の 社会福祉士で経験を有する者」という要件に当てはまる者を確保できてないのではないかという懸念がある。また実 習先の種別として学生から人気がある児童福祉施設や障害児施設では、日々の支援や実習指導を実際には社会福祉士 ではなく保育士が担ってきたところも多く、必ずしも社会福祉士が配置されているわけではない環境が現実として存 在している。
 また本改正に伴って実際に、経過措置が切れる2011年度以降は、実習を受け入れない意向を示している施設も出始 めている。

3.調査の目的と方法

そこで本調査では、沖縄大学社会福祉実習指導室の工藤、高木、村田の3名によって、過去3年間に沖縄大学の相談 援助実習(旧社会福祉援助技術現場実習を含む)を受け入れていただいた施設・機関において、実習指導者として資格 要件を満たしている方が現段階でどの程度、存在するのかを具体的に把握することを第一義的な目的とし、さらには今 後、要件を満たすであろう方たちの存在、そして、養成校と社会福祉の現場の「温度差」をも推し量る意味で講習会の 費用負担の問題等についても設問を準備した。
 また、沖縄県のような地方都市にとって、今回の改正に現状がついていくことができているのであるかどうかの一端 を本調査より明らかにしたいと考えている。
 調査の方法としては2007年度以降に実習をおこなった施設・機関に対し、実習指導者宛に郵送で調査票を配布し、無 記名方式で回答を得る方法でおこなうこととした。2007年度以降の実習施設・機関とした理由は、沖縄大学において現 在の実習教育体制が導入された年度に当たるため、その継続性を省みる意味で2007年度からとした。

4.倫理的配慮

  本調査をおこなうにあたって、アンケート調査は無記名方式とし、返信用封筒を同封して送付することで、記入者の特定がおこなわれないよう配慮した。また返送されたアンケート用紙については情報の漏洩に配慮した保管をおこなった。

5.調査結果

調査の結果、過去3年間に実習受け入れをおこなった施設のうち、現在、社会福祉士を有した職員が実習指導担当 をおこなっている割合は、全体の24%であり、さらに既に講習会を受講終了しているという条件を加えると更に半数 の13%までその数が減ることもわかった。
 よってこのままでいくと新カリキュラム完全施行後は現在の約4分の1の学生しか実習に行けなくなる可能性がある ことが判明し、また分野別に見てみると障害分野と行政分野の受け入れ数が大幅に減少することも併せて判明した。
 また社会福祉士がいる施設のうち約6割には回答者以外にも要件を満たした職員がいるにも関わらず、今後実習担当 を増やす予定は13%しかないことも判明した。更に社会福祉士を既に有しておきながら実習指導者講習会を受講する ことが決定している担当は半分以下であるということも判明した。
 その一方で社会福祉士有資格者の実習指導者講習会の受講等に対する意識は高くなる傾向も見受けられた。

6.おわりに

本調査の意義として、アンケートの結果は単に沖縄大学の相談援助実習先の現状にとどまるものでだけではないこと もうかがえた。沖縄県は社会福祉士養成校が比較的少ない県であるが、8割を超える高い回収率は今後どのように社会 福祉の人材養成をおこなっていくのか、そして実習指導を担える人材を確保していくのかということについて現場の 関心も高いということが明らかになったと考えられる。 
 さらには現状の実態を真摯に見つめ、今後の社会福祉の現場と教育機関である養成校との連携の在り方の検討や、 実習指導者を養成するシステムづくりなどの課題が残されているのではないだろうかと考える。

注記
 本研究は沖縄大学地域研究所研究助成金の助成を受け、『地域研究 第6号』に発表したものをもとに再構成した ものである。

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