実習施設における実習指導者によるスーパービジョン /実習指導に関する基礎的研究(その1)
-実習指導者に対する質問紙調査を基に-
○ 長崎純心大学 山田 真由美 (会員番号7885)
長崎純心大学 横山 智美 (会員番号7883)
長崎純心大学 松永 公隆 (会員番号2976)
山梨立正光生園 山田 勝美 (会員番号2051)
長崎純心大学 井上 由起 (会員番号7884)
キーワード: 《社会福祉実習》 《実習指導者》 《スーパービジョン》
本研究では、とりわけ実習指導者のスーパービジョン/実習指導(以下SV/実習指導)に焦点をあてた基礎的研究と位置づけ、ケーススタディ的にA私立大学を対象として、社会福祉養成における配属実習科目として設定されている社会福祉実習の配属実習先である実習施設の実習指導者への質問紙調査を基に、実習中の実習指導者によるSV/実習指導の実態を把握する。さらにSV/実習指導を展開していく上で、現在、実習指導者はどのような認識をもってスーパービジョンを展開しているのか、そこにある課題は何か、探索的に検討していくことを目的とした。
2.研究の視点および方法研究対象は、B県にあるA私立大学において2009年度に社会福祉実習を受け入れている実習先75箇所の実習指導者(以下、指導者とする)を対象として、郵送による自計式の質問紙調査を実施した。調査時期は、実習が終了した平成21年10月1日~10月30日に実施し、60票が回収された(回収率80%)。 質問項目については、指導者の基本的属性に加え、「SV/実習指導の形態・実施状況」、「SV/実習指導で心がけていること」「SV/実習指導で困ったこと」などについて尋ねた。 分析方法については、各項目の分布状況を明らかにするとともに、項目ごとの関連要因について、「実習タイプ」や「実習指導経験年数」「実践経験年数」を基本軸としながら、クロス表にもとづくχ2検定およびt検定などを行い、探索的に分析を行なった。
3.倫理的配慮本調査を実施するにあたり、調査対象者のプライバシーを保護するため、無記名式を採用し、あくまで統計的に処理することを予め伝え、調査結果については研究以外に使用しないことを明記した。
4.研 究 結 果(1)SV/実習指導の実施状況(実施回数と時間)について 全体のほぼ半数が毎日SV/実習指導を実施しており、1回のSV/実習指導の平均時間は20~30分であった。ほぼ半数の指導者が「ほぼ毎日」SV/実習指導を実施しているという結果については、指導者が積極的に実習指導しているということができる。しかし一方、「オリエンテーションと反省会程度」「ほとんど行なっていない」と回答した指導者が1割存在していた。この1割についてSVが充実しているか否かについては検討の余地がある。横山(2007)の指摘する実習指導者のリアルタイムのスーパービジョンの必要性という観点からしても、毎日のSV/実習指導は必要不可欠なものということができる。 実施時間については、1回の平均20~30分という結果であったが、最短で「3分」、最長で「120分」と、差が大きく「ばらつき」がみられた。 以上の結果から、ここでは指導者がどのようなSV/実習指導を展開しているのか具体的に明らかにすることはできないが、実施時間の「ばらつき」の要因について、指導者のSV/実習指導に対する認識・意識との関連性も含めて検討する必要が明確になった。 (2)SV/実習指導において困ったことの有無 SV/実習指導において、困ったことの有無については、「困っている」実習指導者が6割、「困らなかった」実習指導者が4割であり、ほぼ二分する結果になった。その要因を検討していくために、3つ(実習タイプ、実践経験年数、実習指導経験年数)を基本軸として関連分析を行なった。その結果、いずれの項目においても統計的に有意な差が示されなかった。特に、実習指導経験年数が高く、SV/実習指導のキャリアを積むことが、SV/実習指導の力量の獲得及び向上につながり、いわゆる経験知によって、「困らない」のではないかという想定していたが、それに反した結果が示され、必ずしも経験年数とは関連性がないことがみえてきた。 次に、探索的に「社会福祉士資格」、「指導内容」を加えて分析を試みた。その結果、「社会福祉士資格取得者」および指導内容のうち「価値・倫理」と「面接技術」の2項目に関しては有意差が示された。実際にSV/実習指導を実施しているほど、「困っている」と感じている傾向が確認できた。統計的に有意差が示された「価値・倫理」「面接技術」を含め、自己覚知、援助計画の立て方等、つまりソーシャルワークの実践に関連したSV/実習指導を展開している指導者ほど困っている。且つ、社会福祉士資格を有している指導者ほど困っているという結果から考えると、「困っている」指導者ほどソーシャルワークを意識してSV/実習指導をしているといえる。このことは、「価値・倫理」等をどのように実習生にSV/実習指導していくかという点について、特に、指導者と養成校の教員との連携の必要性、指導者のSV/実習指導の展開における困難さを養成校の教員といかに共有し連携していくのか、その方法について具体的に検討する必要性を明示している。 また、福祉現場は忙しいといわれる現状の中で、SV/実習指導の必要性を認識し、意識をもって積極的にSV/実習指導をしていることが確認できた。これらの指導者がどのようなモチベーションでやっているのか、どのような工夫をしているのかについても今後の研究課題である。一方、約4割の指導者が「困っていない」という結果について、なぜ困らないのか、その要因について具体的に検討していくことも必要であろう。 最後に研究方法上の課題について言及しておく。今回は、「困っている」という質問について定義付けを行わず調査を行ったこと等が指摘できる。これらを今後の課題としたい。