自由研究発表社会福祉教育・実習1  小田桐 忍

小学校社会科における福祉関連教育の推進について
 -社会福祉制度を支える公民的資質の育成-

○ 東京未来大学  小田桐 忍 (会員番号3115)
キーワード: 《小学校社会科》 《学習指導要領》 《福祉関連教育》

1.研 究 目 的

 小学校社会科の究極的な目的は「公民的資質」の基礎を養うことである。『小学校 学習指導要領解説“社会編”』(以下「解説」という)は、かかる資質について「国際社会 に生きる民主的な国家・社会の形成者、すなわち市民・国民として行動する上で必要とされる 資質」であると説く。これを受け、かかる資質の態度や能力について、解説は、第一に平和 で民主的な国家・社会の形成者としての自覚をもち、自他の人格を互いに尊重し合うこと、 第二に社会的義務や責任を果たそうとすること、第三に社会生活の様々な場面で多面的に 考えたり、公正に判断したりすること、以上を掲げている。つまり、小学校社会科は「日本人 としての自覚をもって国際社会で主体的に生きるとともに、持続可能な社会の実現を目指す など、よりよい社会の形成に参画する資質や能力の基礎をも含むもの」(下線報告者)を 公民的資質として育まなければならない。
 ところで、Hugo Grotiusが国際社会を、そしてT.H. Marshallが福祉社会を考察したとき、 その根底に私たちの「社交性」を置いたことはあまりにも有名である。報告者は、社交性と 公民的資質との間に通底する何かがあると見ている。小学校社会科は児童の内面に社交性を 開花させ、もって国際社会や福祉社会の形成者・支援者を育成する教科に他ならない。そこで 報告者は、小学校社会科における福祉関連教育の推進の可能性について、好意的かつ具体的な 視点から考察を試みたい。

2.研究の視点および方法

(1)用語の整理:最初に先行研究を踏まえた用語の整理が行われなければならない。かつて 一番ヶ瀬康子氏は、「“福祉”教育」とは、「さまざまな価値観を前提としながらも、 “人権”をまもるものとして、日常生活における不断の努力を媒介にし、“社会福祉”を 焦点とした実践教育」(下線報告者)であると述べた。実践性が強調される定義ではあるが、 一番ヶ瀬氏の教育観は、上述の公民的資質の第一の態度や能力に該当する。なお、一番ヶ瀬氏 によれば、「実践教育」は「体験学習」を起点とする。学習者が「幼く、また若ければ 若いほど、体験は認識の母体としての意味」を有するからである。一番ヶ瀬氏の一般的な議論 を受けて、大橋謙策氏は、「福祉教育」を「学校教育における福祉教育」と「社会福祉専門 従事者養成のための社会福祉教育」とに大別する。その上で、前者について、社会科を中心 に、副読本の使用、来校者の招致、研究班の創設などを取り入れることによって推進する事例 紹介が行われる。なお、大橋氏は、「市民教育における福祉教育」についても、社会教育の観点 から、さまざまな事例を取り上げる。最後に、小川利夫氏は、「福祉教育」と「教育福祉」 とを截然と区別する。小川氏によれば、両者は「基本的に無関係ではありえないが、概念的 には区別してとらえ」なければならない。後者について、「福祉教育でとりあげられる社会 福祉問題そのものの一環をなすもの」であると説明される。つまり、後者は「福祉教育における 教育内容」あるいは「福祉専門教育における専門科目や学科・学部編成の基本的視点のひとつ」 として、言い換えれば、医療福祉、労働福祉、司法福祉などと並ぶ領域として注目されるべき ものなのである。報告者は、以上を踏まえて、今後「社会福祉教育」(social welfare education)と「福祉関連教育」(welfare related education)とに区別することを提案 したい。前者は、次代の社会福祉専門職を養成する教育であり、指定校のような場所で実施 される。後者は、それ以外の人びとに社会福祉の必要性を理解してもらう教育であり、小・中・ 高の既存の授業の中で取り上げることもあれば、大学の一般教養科目として開設されることも ある。報告者は、この部分を叙述するため、一番ヶ瀬康子他編著『福祉教育の理論と展開』 光生館(1987年)、日本学術会議「シンポジウム社会福祉教育の近未来」東洋大学(2007年) を参照した。
(2)学習指導要領:学習指導要領は、小学校第6学年の社会科の目標の中で、「地方公共団体 や国の政治の働き」について、「社会保障、災害復旧の取組、地域の開発など」(下線報告者) から選択して取り上げ、具体的に調べ学習を展開するようにしている。他方、解説では、租税 の役割について、それらの費用が「租税によってまかなわれていること」を理解し、「租税 が大切な役割を果たしていること」の説明が求められる。報告者は、先行研究の意義を尊重 しつつも、学びの場により相応しい福祉関連教育の視点から、実際に小学校社会科のあり 得る授業を構想してみたい。
(3)授業の実践:『小学社会6下』(教育出版)は、「5 暮らしと政治を調べてみよう」 の中で、「わたしのまちは、どんなまち?」として、「車いすを利用する人への配慮」と 「目に障害のある人への配慮」が指摘されている。また、「次の世代につながるまちづくり」 では、「やさしいまちづくり」の工夫として、「車いすでも利用しやすい電話ボックス」や 「道はばが広く、ベンチが設けられている道」が紹介されている。報告者は、こうした単元 を捉えて、小学校社会科における福祉関連教育は推進されるべきであると考えている。

3.倫理的配慮

 報告者は、日本社会福祉学会の定める研究倫理指針を誠実に順守する。

4.研 究 結 果

 社会科の草創期に、文部省著作教科書『民主主義』を責任編集した尾高朝雄が、 「国際理解・国際協力のための教育」を必要とし、その中核になる教科として「社会科 教育」を思い描いたように、福祉関連教育の中心には、学習指導要領に即した具体的な 授業展開が可能であるという理由から、社会科が存置されるべきであろう。

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