自由研究発表社会福祉教育・実習1  岡崎 昌枝

認知症高齢者生活介護施設で働く介護職員の満足度と研修体制
 -アンケート調査からの分析-

○ 香川短期大学  岡崎 昌枝 (会員番号7210)
キーワード: 《認知症生活介護施設》 《満足度》 《研修》

1.研 究 目 的

 認知症高齢者生活介護施設は、介護保険法における地域密着型サービスの認知症対応型 共同生活介護を指し、一般的にグループホーム(以下GHとする)と呼ばれている。認知症 高齢者の生活の場として1997年に制度が創設され、介護保険法の成立によってGHは普及した。 しかし、たび重なる法制度に対応しきれない現状、雇用条件や人間関係や職務など労働環境 が十分ではない現状などが、厚労省の調査「平成20年介護事業経営実態調査」や全国認知症 GH協会における実態調査(2006)などで明らかとなっている。
 認知症高齢者は、2002年では149万人であり、2015年には250万人、2025年には323万人に 増加していくと見込まれている。今後、認知症の高齢者は増えてくることが明らかであり、 地域での認知症高齢者の暮らしを支えていくGHのもつ役割は大きい。
 GHは地域密着型サービスとして量的な拡大が期待されているが、労働環境が追いつかない 現状がみられている。そこには、GHが少人数のケアのなかで認知症高齢者への対応や非正規 職員が多く雇用されていること、緊急時・夜勤時の対応、コミュニケーションなどの課題が あるといわれている。介護職員の満足度を職務、人間関係、雇用条件によって調査、分析し、 これらの課題を解決する一方策としてどのような研修体制が活かされるかについて明らかに していきたい。藤野(2002)は、「職場内支援がよりよい社会福祉実践になる」としている。 研修が支援につながることが、介護職員のメンタルヘルスにのみならず認知症高齢者支援への 一助となると考える。

2.研究の視点および方法

 GHで働く介護職員は、最低基準の資格者を満たしていれば資格を有してなくとも働ける 職場であること、事業所の多様な形態があること、一人での夜勤があることなど、労働環境 が十分ではない状況が各調査で明らかとなった。そこで、基本属性(性別、年齢、最終学歴、 福祉以外の職務の経験)のみならず、労働環境(資格取得、福祉の職場の経験年数、事業所 形態、勤務形態、職場内の立場、夜勤の有無、夜勤回数)と満足度について調査、分析を おこない認知症の支援の現状を明らかにする。
 満足度は、職務、人間関係、雇用条件について調査を行うため、3つのカテゴリに分類 した。職務として①利用者の状態がよくなることにやりがいを感じる、⑥専門職として社会 に認められていると感じる、⑨資格取得や昇進などのキャリアアップできる環境がある、 ⑪研修への参加やホーム内で学びの機会がある、⑬自分の仕事が評価されている、⑭就職時 の仕事に対する期待と現状が一致している、人間関係として②利用者から感謝の言葉を もらった、③利用者の家族から感謝の言葉やねぎらいの言葉をもらった、⑩話し合える同僚 に恵まれている、⑫助言してくれる上司、先輩に恵まれている、雇用条件として④労働条件 が安定していると感じる、⑤休暇がとりやすい、⑦給料に満足している、⑧自分のペースで 仕事ができる、とした。
 また、研修体制については、GHで働く13名の職員に対してインタビュー調査をおこない、 KJ法において分析をした。
 香川県内のGH協議会に所属している介護職員全員を対象に調査をおこなった。各GHに アンケート用紙を郵送し回収をおこない235名の回答(回収率26.7%)、SPSSおいて分析 をした。

3.倫理的配慮

 アンケート調査の回答は無記名とし、統計的処理をおこなうことを明記した。また、 インタビュー調査においても研究のほかに使用しないことを文章で示した。

4.研 究 結 果

 基本属性の結果として、性別は男性40名、女性183名、年齢は20歳未満8名、21以上~ 30歳未満63名、31以上~40歳未満36名、41以上~50歳未満45名、51以上~60歳未満56名、 61歳以上22名であった。福祉以外の経験のあるものが156名、ないものが60名、最終学歴は 福祉系専門・短大37名、福祉系大学8名、福祉外専門・短大46名、福祉外大学11名、高校 103名、大学院2名、その他14名であった。資格取得は、介護福祉士のみ40名、ヘルパーのみ 70名、介護福祉士他46名、ヘルパー他23名、他の資格のみ31名、無資格19名であった。福祉 経験1年未満33名、2年~3年49名、4年~5年59名、6年~10年54名、11年以上35名であった。 事業形態として医療法人67名、有限・株式111名、NPO法人5名、その他3名、職場立場は 管理者30名、ユニット長15名、スタッフ166名、その他14名、勤務形態は常勤190名、非常勤 29名、その他3名、夜勤の有無はあるものは174名、ないものは49名であった。
 基本属性と満足度の各カテゴリを低い群と高い群にわけてχ2乗検定をおこなった。 福祉以外の経験のないものが雇用条件の低い群に強い有意差がみられた。資格取得では、 介護福祉士のみの資格を有する者と雇用条件の低い群に有意差がみられた。事業形態では、 医療法人と雇用条件の低い群に強い有意差がみられた。勤務形態では、常勤と雇用条件の 低い群に強い有意差がみられた。満足度の各項目をみていくと①利用者の状態がよくなる ことにやりがいを感じる、②利用者から感謝の言葉をもらった、と性別、福祉以外の職務 経験、資格取得、職場立場、勤務形態、夜勤有無において「ときどきある」「いつもある」 に有意差がみられた。
 福祉以外の経験のあるものは、他の職場を経験しているため前職と比較することで雇用 条件について不満を抱く気持ちを職務や人間関係において軽減させることができるのに対し、 福祉以外の経験のないものは他職種と比較することができないためではないかと考える。 介護福祉士のみの資格をもったものは、介護福祉士の専門性を学んできたものが多いと 思われる。資格を有し専門的知識をもっているにも関わらず、他の資格や無資格者と比較 するためではないかと考える。医療法人は、利用者一人当たりの収入が他の事業形態よりも 低くそのため介護職員の給与に影響するためではないかと考える。雇用条件では満足して いなくとも、利用者の状態がよくなることや感謝のことばは「やりがい」を感じ、働くことに 意欲をもたせる重要な要因と思われる。
 研修体制のインタビューでは、GH内の支援のなかで、「そのときあったことをその都度 教え」、「スーパービジョン」もおこなっていた。「月1回程度の研修」が行われている GHでは「ミーティング」において日々の支援で活かされており、OFF-JTがOJTに活かされて いた。半面、「認知症の実践研修は参加できる職員が限定」されており、全員が参加する ことで認知症の理解をすることになり、コミュニケーションも密になるなど支援にも結び つくと思われる。「業務が忙しく研修に参加できていない」GHもあり、工夫した研修を体制 化していくことが、「業務を活かすもその場限りもその人しだい」という意識を取り払う ことにつながるのではないかと考える。

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