自由研究発表医療保健・医療福祉2  片岡 靖子

がんターミナルケアにおける医療ソーシャルワーク実践の実証的研究

○ 久留米大学  片岡 靖子 (会員番号3183)
キーワード: 《がん患者》 《ターミナルケア》 《医療福祉ニーズ》

1.研 究 目 的

保健医療分野における医療ソーシャルワークの対象は,疾病構造の変化,医療政策や医療情勢の変遷に伴い,多様化,複雑化していると言える.特に,我が国においては, 1981年以降,がん疾患が死亡原因のトップであり,がん疾患,がん患者への政策展開も重点的に実施されている.2006年には,がん対策基本法が制定され,がん医療の均てん化の促進,予防及び早期発見の推進,がん研究の推進,都道府県がん対策推進計画の策定が義務付けられた.さらに,「がん診療連携拠点病院の整備に関する指針」が提示され,専門的がん医療の提供に留まらず,がん診療の連携体制の整備,がん患者に対する相談支援及び情報提供,緩和ケアチーム,地域連携クリティカルパス,セカンドオピニオン体制,専門的知識及び技能を有するコメディカルスタッフの入りなどの整備が提示された. 一方,我が国のターミナルケアに関する研究動向としては,その多くが,がん患者とその家族へのアプローチが中心となっており,緩和ケア,終末期ケア,エンド・オブ・ライフケア,オンコロジーなど,医療,看護,介護などの多様な領域から,多様な定義によって研究が実施されている. さらに,医療,看護領域からの研究報告が多くを占めているのが現状である.
  そこで本研究では,医療ソーシャルワーク実践の視点から,がんターミナル患者及びその家族へのアプローチのあり方について,私論を提示することにある。

2.研究の視点および方法  

本研究の基礎となる調査として,平成19年度,平成20年度とがんターミナルに携わる 医療・福祉関係職種にインタビューを実施し,がんターミナルの患者及び家族の抱える医療 福祉ニーズを明らかにした.(図1-1.)その上で,平成21年度に,調査表を作成し,九州 県下(福岡県,佐賀県,熊本県,長崎県,大分県,宮崎県,鹿児島県,沖縄県)の急性期 病棟,回復期リハビリテーション病棟,療養病棟,緩和ケア病棟を持つ医療機関1,231機関 を対象に調査を実施した.

調査概要図
調査の対象としては,1,231医療機関に所属する医療ソーシャルワーカー,医療ソーシャル ワーカーが配置されていない医療機関については医師,看護師などの回答を求めた.回収率 としては,31.13%であった.
これらの調査を下に,がんターミナルに携わる医療ソーシャルワーカーの実践事例を収集 し,実践事例の分析を試みた.

3.倫理的配慮

アンケート調査への参加はあくまで任意であり,参加・不参加に関する医療機関名は 公表されることはなく,質問調査の回答の途中で参加辞退,答えたくない質問に対して回答を拒否して頂いても構わない旨の説明を行った.また,個人的な情報の保護には細心の注意を払い,質問紙の中で,氏名や個人を特定できる情報を尋ねることはなく,回答して頂いた質問紙の管理にも注意を払い,結果の公表に関しても,対象者が特定できない方法で報告する旨の説明も行った.また,事例の提示についても,患者個人が特定されないよう配慮をし, 複数の医療ソーシャルワーカーによって分析を試みた.

4.研 究 結 果

アンケート調査の結果として,特筆すべき内容としては,地域医療連携室に医療ソーシャルワーカーの配置はされているものの,緩和ケアチームに医療ソーシャルワーカーが位置付けられていないという回答が多かった点であった.医療福祉ニーズとしては,ターミナル期の患者の抱える問題が,医療費支払い困難,治療上の不満や不安などを抱えていることを把握 しながら,身体的問題である,痛みのコントロール,食事,睡眠など,体の基本的な欲求についての訴えへの対応が主となり,チーム医療が必要とされている緩和ケアにおいて,多様な職種が関われていない実態が明らかになった.さらに,生活上の問題として,住宅などの療養場所に関する訴えも多くみられた.退院及び転院上の問題として,看取りの場所として最も適切な場所として,緩和ケア病棟と在宅が挙げられた.しかし,開業医との地域医療連携などが十分展開できておらず,病院内で死亡される事例が多いとの回答も見られた.
  以上のように,がんターミナル期への患者及び家族は,さまざまな医療福祉ニーズを抱えていることを把握しながらも,医療ソーシャルワーカーを緩和ケアチームに配置している医療機関は乏しいということと,医療ソーシャルワーカー自身が,医療ソーシャルワークの有効性について提示できていない現状が示された.
  がんターミナルケアへのアプローチ実践の実態においても,治療や医療アプローチが主となる場面で,がんターミナル期の患者と家族の抱える医療福祉ニーズへの具体的対応ができていないということが示された.
  今後の課題として,がんターミナル期の患者及び家族への医療ソーシャルワーク実践を有効にするための方法について提示してくことが必要であるとも考える.
  なお,本研究は,文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(C)「ターミナルケアにおける医療福祉ニーズの実証的研究」(課題番号19530547)(研究代表者:片岡靖子)での研究 成果報告である.

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