自由研究発表医療保健・医療福祉2  林 祐介

療養型病院・施設への転院阻害要因がおよぼす影響の質的調査

○ 日本福祉大学大学院研究生  林 祐介 (会員番号7575)
キーワード: 《療養型病院・施設》 《転院阻害要因》 《医療ソーシャルワーカー》

1.研 究 目 的

いくつかの先行研究で、転院先をなかなか確保することができない患者の実態が報告されている。一方、筆者が調べた範囲では、要介助患者の療養型病院・施設への転院を阻む要因(以下、阻害要因)を有する患者と有しない患者の転院までの過程の比較から、上記要因がどのような影響をおよぼすかについて調査・分析している論文は見当たらなかった。
  そこで、A病院から療養型病院・施設へ転院した患者のカルテデータより、医師が転院を指示した日から転院日までの期間を抽出し、阻害要因(①医療行為を要する、②転倒・転落 対策を講じている、③行動障害を有する、④経済的困難あり、⑤身元保証人なしのいずれか 一つ)を有する患者と有しない患者に分けて集計したところ、以下の結果が得られた。阻害要因を有する患者群(N=32)が62.4±36.7日(数値は平均±標準偏差)であったのに対して、 阻害要因を有しない患者群(N=39)が35.9±21.1日であった(p<0.001)。
  ただし、上記結果のみでは、5つの阻害要因それぞれがどの程度影響をおよぼしているか までは明らかになっておらず、更なる調査が必要だと思われる。そこで、本研究では、各々が どのような影響をおよぼしているのかを明らかにすることを目的に、阻害要因についてB県の 医療ソーシャルワーカー(MSW)へヒアリング調査を行うこととした。

2.研究の視点および方法
(1)研究で用いる用語の定義
〔療養型病院・施設〕  

本研究では、療養型病院・施設の中に、医療型療養病棟や介護保険施設だけでなく、有料 老人ホーム、グループホーム等の居住系施設を含むものとする。さらに、急変・検査等の医学的な理由以外でも、一般病床に転院する要介助患者が少なからず存在する。こうした患者の転院先についても、操作的に含めることにした。疾病や障害によりADLが低下し、 介護力不足で自宅退院できないために、上記病院・施設を選択する患者・家族が多いのが 実情だからである。
(2)研究対象と方法
  調査対象は、B県内の22病院・施設(急性期病院 8、回復期リハ病棟・療養病床を有する病院 7、老人保健施設 7)に所属するMSWである。対象者は、B県C市内を中心に、日常業務や勉強会などを通して面識があるMSWに調査を依頼し、筆者自身が選定した。
  調査方法は、ヒアリング調査である。筆者が事前に用意した質問項目に基づいて、筆者自身が約1時間の半構造化面接を行った。調査期間は2009年2月2日~7月14日。

3.倫理的配慮

本研究は、日本社会福祉学会「研究倫理指針」の指針内容に配慮したものになって いる。また、調査で得たデータはその管理を徹底し、本研究の目的以外に使用しないこと とした。

4.研 究 結 果
(1)結果  

「阻害要因を有する患者の療養型病院・施設への転院が制約されていると感じるか」 という質問に対して、得られた回答は以下の通りであった。

(%)

医療行為 転倒・転落対策 行動障害 経済的困難
よく感じる 17(77.3) 9(40.9) 14(63.6) 9(40.9)
時々感じる 3(13.6) 6(27.3) 5(22.7) 3(13.6)
あまり感じない 1(4.5) 7(31.8) 3(13.6) 8(36.4)
全く感じない 1(4.5) 0(0) 0(0) 2(9.1)
 

「よく感じる」「時々感じる」と回答した主な理由としてあげられていたものを以下に 示す。「医療行為を要する患者でも、医療区分2・3でないと医療療養病床で受けてもらえ ないことが多い」「施設が阻害要因を有する患者の受け入れ(人数)を制限している」 「行動障害が重度だと、精神病院や認知症病棟を有する病院への転院を余儀なくされる」 「保険外負担が高いために支払いができず、希望したところへ移れないケースに遭遇する」。
  「あまり感じない」「全く感じない」と回答した主な理由としてあげられていたものを 以下に示す。「地域内の受け皿が充実していることが理由の1つとしてあげられると思う」 「経済問題を有するケースに遭遇することがあまりない・全くない」。
  さらに、「身元保証人がいないケースの受け入れ相談があった場合、どう対応するか」 という質問に対して、2療養型病院、7老人保健施設のMSW全員が、「身元保証人がいな ければ、保証人代行を有料で行っている法人団体等との契約ができないか確認する」と 答えていた。
(2)考察
  同じ阻害要因に対して、病院・施設ごとで感じ方に違いがあることが明らかになった。 特に、経済的困難で顕著な差がみられた。これは、7人中6人(87.5%)の老人保健施設 MSWが「あまり感じない」「全く感じない」と回答していたことが主因であり、病院・ 施設の機能によって事情が異なっていることが伺える。また、上記結果を踏まえると、 地域のベッド事情(人口当たりの病院・施設のベッド数等)も少なからず影響をおよぼして いると思われる。阻害要因がもたらす影響を検討する際には、これらの点を考慮して分析 する必要があり、今回得られた知見を今後の研究計画立案・作成にも活かしていきたい。

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