医療ソーシャルワーカーの援助過程における相互関係理論化の研究
-グランデット・セオリー・アプローチを用いた可視化への試み-
○ 日本福祉大学大学院 高柳 雅仁 (会員番号7857)
キーワード: 《ソーシャルワーク実践》 《ソーシャルワーク理論》 《グランデット・セオリー・アプローチ》
医療ソーシャルワーカーとして働いていると、今まで受け身だったクライエントが
問題を自分のこととして受け止め、自ら問題解決に向けて動き出そうとする瞬間がある。
これはソーシャルワークの根本である「主体性の尊重」「自己決定の原則」をもとにした
支援が可能になる瞬間であり、社会福祉援助職である医療ソーシャルワーカーが目指すべき支援の方向と言える。しかし、この様な変化・変容がいついかなる時に、どのような働きかけによってなされるのかは明確ではない
従って、本研究では、医療ソーシャルワーカーが自ら担当したクライエントについて、
先述した変化・変容がなされたと感じる事例の援助展開を調べ、この変化、変容がどのようなきっかけでなされるのかを詳細に調べる。この作業を通じて、クライエントの変化・変容が見られた時のクライエントと医療ソーシャルワーカー相互の関係プロセスの理論化、図式化を試みる。
このことによって「クライエントの変化・変容」がどの様に行われているのかを目で見て把握できるようになり、実践の図式化が可能になる。その結果は、従来から課題とされているソーシャルワーク実践の理論的可視化の試みに貢献することが出来ると思われる。
現任の医療ソーシャルワーカー8名に反構造化面接の形態でインタビューを行った。
聞き取りをした内容はソーシャルワーカーから見てクライエントに先述の変容がなされた事例の支援プロセスとその根拠である。
得られたデータを基に修正版グランデッド・セオリー・アプローチの手法を用いた解析
を行い、其々に対象事例の援助過程を可視化し、その相関関係を明らかにした。
日本福祉大学大学院倫理ガイドラインに基づき、インタビュー対象者に研究の概要を 説明し、文書による同意を得た。また、収集したデータについては個人を特定できない形で分析を行った。
4.研 究 結 果プレインタビューにおいて得られたデータを基にストーリーラインの作成を行った。
その形態は次の通りであった。
事例1
「受容的理解」「変わる始めの入り口」としてソーシャルワーカーは「クライエントの本質的理解と変化を促す端緒の見極め」を行う。その上で、クライエントにどの様にしたいのかを生活者としてのリアリティ感を持って表現してもらい援助を進めていく(「思いの具体化と進展」)。
援助過程においてクライエントの強みを知り支えていこうとする(「思いの支えと維持の
力」)。更に、心の支えとなっている事柄を認めて問題解決の励みとなり、頑張りへと
つなげていく(「心の支え、励みと問題解決への頑張り」)事となる。
事例2
ソーシャルワーカーはまず、「クライエントの持てる力の推し量り」を行い、次に、
「自己決定の出来る環境の整え」を為し、クライエントの「本音を引き出すプロセスが
始まって」いく。この過程で「的確なニーズの引き出し」がなされ「目的設定によるニーズ
充足と過程の明確化」を経て「具体的な解決の道程」「道筋の明確化」がなされていく。
両方の事例から考えられるところでは、次のようなストーリーラインが考えられる。
クライエントの持てる力の評価を行い、クライエントの本音を引き出せる環境を整え、
本音を語ってもらい(的確なニーズの引き出しを行う)、援助過程の具体的な道筋が明らか
にされることとあわせて、ソーシャルワーカーはクライエントの強みを理解し、支え、
励ましを行っていく。以上の流れが確認できると考えられる。
5、考察
以上の視点を基として、今後明らかにしていく必要があると思われる点は、以下の2点
である。
・先に考えられたストーリーラインの適切さを根拠づけるデータの収集及び集積と検証。
・この形以外の流れの有無が確認できるかどうかの検証。すなわち、更なる援助過程の
広がりがあるのか、また、これと対称的な流れが見出せるのか等の探索。
今後はここで得られた実践の相関関係を基にして、現役の医療ソーシャルワーカーに
集まっていただき、グループフォーカスインタビューを展開し、得られたデータの確からしさ、
現状における適切さを議論、評価し、更に基本的な実践展開のあり方を確認していく予定である。
・大西奈保子(2009)「ターミナルケアに携わる看護師の“肯定的な気づき”と態度変容過程」『日本看護科学会誌』29(8)34~42
・黒須依子(2005)「精神障害におけるストレングスの状況:就職活動期に入る大学生との比較における研究」『九州保健福祉大学研究紀要』6 41~48
・木下康仁著(2009)「分野別実践編グランデット・セオリー・アプローチ」弘文堂
・高山忠雄・安梅勅江著(1998)「グループインタビュー法の理論と実際―質的研究による情報把握の方法」川島書店