エイズブロック・中核拠点病院医療ソーシャルワーカーによる地域HIV陽性
者等支援に関する研究
-専門医療機関受診前の状況にある陽性者からの相談(受診前相談)
実施にあたっての阻害、促進要因の抽出-
○ 東京福祉大学 山本 博之 (会員番号6084)
キーワード: 《医療ソーシャルワーカー》 《HIV陽性者支援》 《受診前相談》
我が国では、保健所等に代表される検査機関や一般医療機関においてHIV抗体検査が
施されており、毎年約1,500名の新規陽性者が報告されている。今井らの調査では、保健所
で養成告知を受けた陽性者の約20%が医療機関への受診確認がとれていない、という事実
が把握された。また、厚生労働省科学研究費補助金エイズ対策事業:地域におけるHIV陽性者
等支援のための研究班(研究代表者 生島 嗣)、牧原班の調査(2007&2008)では、
上記 のような検査機関でHIV陽性告知を受けてから専門医療機関受診前の状況にある地域の
陽性者の心理社会的ニーズが明らかになった。時を同じくして、岡本らにより、エイズ診療
ブロック拠点病院の医療ソーシャルワーカー(以下MSW)による、専門医療機関受診前の状況
にある陽性者支援の実践報告がなされてもいる(第21回日本エイズ学会学術集会2007、広島)。
「医療ソーシャルワーカーの業務指針」にはMSWの業務として、患者およびその家族の受診、
受療支援が記されており、専門医療機関受診前の状況にあるHIV陽性者への支援モデルに
エイズ診療ブロック、中核拠点病院MSWが組み込まれる妥当性及び有効性は高いことが推測
される。
本研究では、実際に専門医療機関受診前の状況にある陽性者支援を行っているMSWに対して、
支援の実態把握(受診前相談)の調査を行った。
尚、本研究は厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「地域におけるHIV陽性者等
支援のための研究」(研究代表者:生島 嗣)の分担研究「エイズブロック・中核拠点病院
医療ソーシャルワーカーによる地域のHIV陽性者等支援のための研究」研究分担者:山本 博之
(東京福祉大学)研究協力者:岡本 学(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター)、
生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京)の平成21年度研究結果に基づく発表とすること
を付記する。
本研究は平成22年度に予定されている全国のエイズブロック・中核拠点病院医療
ソーシャルワーカーに対する全数調査のパイロット調査として、受診前相談の実態把握調査
と位置付けた。
全国のエイズ診療ブロック、中核拠点病院MSWで、本研究班が受診前相談の実施経験が
あると把握したMSWに研究参加をよびかけ、5医療機関からそれぞれ一名のMSWの参加を得る
ことができた(ブロック拠点病院MSW:2名、中核拠点病院MSW:3名)。
調査は上記5名のワーカーへの約3時間のグループインタヴューによってすすめられ、
そこで得られた内容を調査者が分類した。調査項目は、1)相談経路、2)クライエントニーズ、
3)MSWの役割及び機能、4)医療機関において受診前相談を行うことに対する阻害、促進要因
等によって構成された。グループインタヴューはICレコーダーに録音され、調査者によって
分類された。
研究における倫理的配慮としては以下の項目の討議がなされた。
①研究の対象とする個人の人権の擁護
本研究への参加勧誘については、事前にメール等で協力意志の有無を確認したうえで
正式な依頼を実施する。
研究は無記名で個人の特定は行わない。研究協力は任意であり、研究途中で拒否も可能
であることを、口頭および書面にて説明し、協力拒否権を保障されている。協力拒否権は
本研究継続中いつでも行使することができる。協力拒否権行使の際、協力者はメールもしくは
電話にて直接研究者へ連絡を行う。これにより研究者は協力者から得られたデータの全てを
本研究結果から削除することを約束する。ただし、研究過程においてデータの削除が不可能
な段階にある(例:学会への発表直前や学会誌等への投稿が完了後)場合にはこの限り
ではない。結果の公表にあたっては、匿名性を保持した上で、研究報告書にまとめる。
②被験者に理解を求め同意を得る方法
事前に口頭で研究概要を説明の上、協力の検討可能であると答えを得た対象者に、「調査
同意依頼書」(調査目的、方法、逐語データ時の匿名性保持など個人情報保護の方法について
記載)に基づいて口頭および文書にて説明を行う。
医療機関において受診前相談を実施していくにあたり、1)HIV診療チームとの関係、 2)地域における支援者との関係、3)院内システム、4)MSW個人の持つ支援に関する動き つけ、5)雇用形態および人事、6)医療機関の規模及びスタッフ配置といった要因が把握 でき、それら要因は相関関係にある可能性が示唆された。