自由研究発表医療保健・医療福祉1  清水 茂徳

要介護状態にあるHIV陽性者を支える地域の社会資源・制度の課題
 -エイズ拠点病院ソーシャルワーカーへの実態調査から-

○ 東洋大学大学院博士後期課程  清水 茂徳 (会員番号5707)
関西学院大学  小西 加保留 (会員番号983)
キーワード: 《長期療養》 《医療ソーシャルワーク》 《HIV陽性者》

1.研 究 目 的

近年HIV感染症は、医療の進歩により、適切な時期から医療を継続することで、感染前 とほぼ同じような生活が営める時代になった。しかし一方で、受診の遅れによる後遺症や加齢に伴う合併症などのために要介護の状態になるHIV陽性者への支援が課題となっている。 そのような状況を踏まえ、本研究では「HIV脳症やPML(進行性多巣性白質脳症)、または 加齢に伴う疾患などのために、要介護状態となり、一般病院に入院治療の必要はないものの、 地域生活において何らかの介護が必要となる患者」(=本研究における「要介護状態にある HIV陽性者」)を支える地域の社会資源としての介護保険や医療保険、障害者自立支援法、 生活保護などの制度とその運用、地域格差などの実態を明らかにし、課題の改善に向けた考察を行うことを目的とした。

2.研究の視点および方法

医療ソーシャルワーカーにとって、患者の地域生活を支える制度の実態を認識し、 阻害要因に対する制度改善への視点を持つことは非常に重要である。そこで本研究では、 全国のエイズ拠点病院374カ所のソーシャルワーカーに対して無記名自記式調査票の郵送調査を行った。調査期間は2009年12月?2010年2月。調査項目は、属性、要介護状態にある HIV陽性者制度利用状況、ソーシャルワーカーの制度利用に関する認識、利用困難の要因、 生活保護受給者の制度利用状況等であった。

3.倫理的配慮

調査は無記名で実施し、質問内容に個人が特定される項目は含めなかった。

4.研 究 結 果

回答数は117票、回収率は31.3%であった。本調査の対象となる要介護状態にあるHIV 陽性者の過去3年間における支援経験は、全体の4割強の48人であり、累計支援実数は、 1~4例が66.7%、5例以上は約3割だった。回答者の所属医療機関の多くは急性期病院であり、 平均在院日数21日未満が約9割を占めていた。病院の機能分化が進められる中、要介護状態 にあるHIV陽性者は地域全体で支えていくことが重要である。しかしながら、回答者の半数 がHIVソーシャルワーク経験年数5年を超えていたにもかかわらず、経験を重ねても解決され ない制度上の課題が示された。
要介護状態にあるHIV陽性者の制度利用

1)要介護状態にあるHIV陽性者の制度利用(過去3年間)は表の通りだった。利用希望に対 して、入院・入所施設は利用にいたらなかった数が、在宅療養制度に比べて大きく上回った。

2)一般的な施設の待機期間は、特別養護老人ホームと身体障害者療護施設の場合、約8割の 回答者が1年以上と回答した。また全ての入院・入所施設において、少なくとも1ヶ月以上の 待機期間があるとした回答が半数以上だった。保険制度や自立支援給付の自己負担以外に 必要とされるリネン代などの一般的な経費は、1都3県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県) で、全ての入院・入所施設において、少なくとも10万円以上とした回答が半数を超え、他の 地域に比べて有意に高額だった。

3)ソーシャルワーカーは、HIV陽性者の制度利用に対して総じて厳しいと認識している傾向 が示された。特に入院・入所施設の方が、在宅療養制度よりも待機期間が長く、他の疾患と 比べて利用しにくく、HIV陽性者の利用が想定されておらず、受入先の開拓が容易でないと された。また支援「経験有」群は「経験無」群に比して、多くの項目で他の疾患と比べ有意 に利用しにくいと認識し、「支援件数多」群(10例以上)は、今後制度利用希望者が増加 すると認識していた。

4)制度利用を困難にしている要因については、「経験がない」、「感染不安リスク」、 「職員の理解に難」、「風評被害懸念」のみならず、高額な保険外費用の負担、医療区分や 包括制度によって採算が合わない現状といった制度上の要因が指摘された。入院・入所施設 では、「経験がない」がもっとも多く、次に「利用想定なし」であった。在宅療養制度では、 「風評被害懸念」を上回る要因として「量確保に難」であった。量確保が難しい理由としては、 事業者側の要因よりも制度的な要因をあげた回答が多かった。

5)生活保護受給者の制度利用は、入院・入所施設の方が在宅療養制度よりも利用しづらい 傾向にあった。また1都3県は、全ての入院・入所に関わる制度で、他の地域より有意に利用 しづらく、地域差が顕著であった。制度利用のしづらさには、利用者にとって制度上の自己 負担以外に必要とされる高額な経費が大きく影響していると考えられた。

【まとめ】特に入院・入所施設について利用困難な状況が明らかになった。生活保護制度を 含め、制度利用者の実情に合わせた整合性のある制度設計や、適正な報酬を確保できるシステム の必要性が示された。
※本研究は、平成21年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV感染症及びその 合併症の課題を克服する研究」(主任研究者:白阪琢磨)の一部である。本研究には、会員外 で磐井静江(財団法人いしずえ)が研究協力者として参加した。

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