自由研究発表所得保障・公的扶助2  田中 聡子

母子世帯への支援ネットワークの形成

○ 県立広島大学  田中 聡子 (会員番号6587)
キーワード: 《母子世帯》 《自立支援》 《ネットワーク》

1.研 究 目 的

 本研究の目的は、母子世帯の社会的な自立に向けた支援の在り方について検討する ものである。近年、生活困窮する母子世帯が増加している。その結果、生活保護受給母子 世帯が増加し、2003年には8万2000世帯であったが、2009年には10万世帯を超えた。生活 保護母子世帯だけなく、児童扶養手当受給の母子世帯も含めた貧困、低所得母子世帯に 対する自立と就業のための施策が打ち出され、生活保護層への流入の防止や貧困からの 早期の離脱が政策的にも強く要請される状況である。しかしながら、離婚率は増え、母子 世帯数も増加し、これに不況による雇用環境の悪化が拍車をかけ、貧困母子世帯数は増加 の一途をたどっている。本研究においては、母子世帯に対する就業を中心とする支援策を 検証するとともに、継続的に安定した子育てと仕事ができるような支援の在り方を考察する。

2.研究の視点および方法

 研究の視点)研究の視点は以下の三点である。第一に、母子世帯に対する多彩な支援 メニューが用意されても、それを活用し、継続していくことが可能であるかどうかが課題 となる。生活困窮に陥った母子世帯は経済問題以外にも夫からの暴力、借金、無業、精神 不安等の多様な問題を抱えている。したがって継続した就業を果たしても、子育てが安定 してできるには、きめ細かいフォローアップ支援が必要である。つまり、自己回復力を醸成 し、自立していくまでの一定の時間や支援が必要であると考える。第二に、そのような自己 回復力の醸成のためには、安心して生活できる経済基盤が必要であり、就業に結びつくまでの 期間にも生活が保障されなければならないであろう。第三に、子育てを含む日常生活は地域 の中で行われるのであり、地域社会の一員として生活を継続できるとこが課題となる。特に、 子供は地域社会の中で育っていくのであり、母親も含めて地域との関係性を作っていくため 支援ネットワークの検討が必要である。
研究方法)母子生活支援施設を含めた民間支援機関への聞き取り調査を中心に、その支援の 在り方を検討する。母子世帯に対する相談支援は行政機関だけなく、民間機関が大きな役割 を果たしてきている。民間機関はその敷居の低さから、多くの生活課題を抱えた母子世帯の 相談の第一窓口となっている。いくつかの先駆的な相談機関に対して支援の在り方や相談窓口 から見る母子世帯の課題を分析し、協働や支援ネットワークの必要性を考察する。

3.倫理的配慮

 調査対象機関や対象者には調査の趣旨と目的を事前に説明し、文章と口頭で同意を 得た場合に聞き取り調査を行った。名前や名称は全て記号化し個人が特定化されないように 配慮を行っている。日本社会福祉学会研究倫理指針に準拠している。

4.研 究 結 果

 母子世帯の貧困は、個人的な要因だけではない。母子世帯の母は84.5 %が就業して いる。しかし、臨時・パート雇用が 43.6 %であり、平均年収は236万6000円である(厚生 労働省2007年国民生活基礎調査)。問題は就労しても生活できない賃金構造と雇用形態に ある。これは、女性全体の賃金の低さと雇用形態に起因している。有配偶女性は家計補助的 な短時間のパートタイム形態かフルタイムでも非正規雇用形態が多い。離婚によって、夫の 扶養から外れると、住居と夫の収入を一度に失うことになる。有配偶時から貧困な状況にDV や借金問題、精神的不安定、子供の不登校、ひきこもりなどの問題が重なり、生活が立ち 行かくなる。相談窓口にくる女性は、有配偶時から低収入、貧困であり、精神的、身体的、 経済的な課題が重なり、子供を抱え、さらに問題が深刻になっている。
 「福祉から雇用へ」の推進策として母子世帯に対する就業を目標とする施策が展開されて いる。しかし母子世帯の自立を促進するためには、まず、世帯の抱える多様な問題に立ち 向かう力と自己決定によって生活を再建していくための支援が必要であると考える。
 先駆的な取り組みを行っている民間機関の支援は以下の共通点がある。第一に安心して 暮らしていける所得保障としての制度活用へ支援と専門職による専門的ケアとして心のケア や信頼関係の構築を同時に行っている。具体的には生活保護制度や児童扶養手当の申請手続 を含めた所得保障を基盤にした支援と子育て支援と母親への立ち直りの支援、つまり自己 回復力の醸成への支援である。第二に支援機関の努力によって、多くの社会資源とネット ワークを作りだし、就業体験、子育て以外の相談等、当事者を中心に置いた支援体制を創出 している。特に、母と子の家族へのファミリーソーシャルワークを実践している母子生活支援 施設では、施設の中でのファミリーソーシャルワークの手法が施設を退所した後にも、地域 生活支援として継続して行なわれている。この地域支援事業が地域で生活する母子世帯への 支援方法として普遍化できるための今後の課題は、以下のとおりである。第一に現在の母子 世帯への支援メニューや子育て支援事業はそれぞれ個別縦割性が強く、横の関係になるネット ワーク形成が十分でない。当事者を中心にした包括的アプローチと切れ目のない支援ネット ワークの形成があって初めて、安心して子育てと仕事が継続できると考える。第二に雇用状況 が厳しい上に、子育て期間は就業時間が限定される。このことを前提にして、雇用面との調整 と収入の減少を補完する制度設計が必要である。第三に、一般就労の厳しい課題の多い母子 世帯が存在する。そうした世帯への支援は所得保障と地域社会への参加であると考える。

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