ビッグイシュー販売者のニーズと特徴
-ビッグイシュー東京の販売者および利用者の調査を通して-
○ 芦屋女子短期大学 知念 奈美子 (会員番号6813)
キーワード: 《ホームレス》 《ビッグイシュー》 《ニーズ》
本研究の目的は、ビッグイシューを販売しているホームレス者のニーズ・アセスメント・
ツール開発およびニーズ把握である。
本研究のフィールドは、2003年に「ホームレスに施しではなく仕事を」をスローガンに
設立された有限会社ビッグイシュー日本である。現在全国で約150人のホームレスに対し、
ビジネス・パートナーとして雑誌「ビッグイシュー日本」販売の仕事をオファーしている。
また、3年前にはNPO法人ビッグイシュー基金を設立し、各種相談を受け付ける生活自立応援
事業や、各種スキル学習の機会を提供する就業応援事業、人間らしい生活のためのレクリ
エーション等を支援する文化スポーツ応援活動を行う福祉的なサービスも始めている。
それは、販売者および販売希望者とのかかわりの中から、ホームレスの自立支援は仕事の
機会提供のみでは不十分であるとの結論が出たからである。
設立から7年目を迎えたビッグイシュー日本で、支援プログラムの見直し、再構築を行う
にあたり、販売者、販売希望者および支援希望者など、ビッグイシューを利用する人々の
アセスメント・ツールを開発し、ニーズ把握調査を行うこととした。
本研究におけるニーズ・アセスメント・ツールは、アメリカのホームレス包括的
アセスメントシートCCH Consumer Outcome Scales(以下、CCH-COS)修正日本語版である。
CCH-COSはアメリカ・コロラド州のホームレス支援NPOである Colorado Coalition for the
Homelessのスタッフ及びUniversity of Colorado at Denverの研究者が近年共同開発した
アセスメントシートであり、信頼性及び妥当性が検証されている(Cook他 2007)。
CCH-COSの特徴は、スタッフがアセスメントの知識や技能を持っているならば、記入および
レビューがわずか1分程度でできるという簡便さと、住宅・就労・制度活用状況・身体的健康・
精神保健・薬物使用の6分野をカバーしているため包括的であるという点である。
2009年12月から2010年1月にかけて、ビッグイシュー販売者および販売は卒業したがまだ
ビッグイシューの支援を受けている人々を対象に面接を行い、CCH-COS修正日本語版に記入
の上、上記の6分野およびビッグイシュー用に追加したギャンブル依存、社会資源状況に
関してニーズ把握を行った。
本研究では、ビッグイシュー販売者のニーズ調査をインタビューを通して行うため、 調査協力を依頼する際に研究の目的、手順及び個人情報の取り扱いに関しての説明を行い、 続いて調査協力者にはインフォームド・コンセント書式に署名を依頼した。収集された データは、調査用紙の信頼性・妥当性の検討材料及び全国的なニーズ傾向及び地域的な ニーズ傾向の分析に使用されるため、個人情報としてではなく匿名のデータとして処理する。 記録用紙は、ビッグイシュースタッフとの連携により、これまでの販売者記録と共に セキュリティが確保されている場所に保管し、一定期間後は破棄する予定である。
4.研 究 結 果 調査に応じたのはビッグイシューの販売者および販売は卒業しているがビッグイシュー
のサービスを利用中の者30名である。年齢は20代5名、30代13名、40代7名、50代2名、60代
3名で、全員が男性であった。
CCH-COS修正日本語版は、各項目における対象者の状況を7段階で示すことができる
アセスメントシートである。数字が大きいほど対象者の抱える問題が大きいという設定であり、
1が支援不要な状態、7が非常に支援が必要な状態となる。つまり、評価の数字が大きいほど
ニーズが高いと言える。
各項目の平均点を算出したところ、ニーズの高い順に住宅が6.17、次いで制度活用状況が
5.23、社会資源状況の4.33、精神保健が4.17、ギャンブル依存状況が3.20と続いた。比較的
ニーズが低かったのは就労・就学状況の2.93、身体的健康の2.57とアルコールを含む薬物使用
の1.73であった。
住宅のニーズが高いのは、ビッグイシューの支援を受けている人のほとんどが路上や公園
での野宿生活や、24時間営業の店で仮眠生活をしていたり、生活保護受給をしていても相部屋
でプライバシーや安全の配慮がほとんど無い場所で暮らしているからである。2番目に高ニーズ
の項目となった制度活用状況は、上記の住宅状況にも関連しており、対象者の多くが住居を
失っているにもかかわらず生活保護受給をしていない点や、住所が無いために就職活動が
制限されがちな点を反映していると考えられる。また、社会資源活用状況には、ホームレス
になるまで誰からも援助を得られなかった、あるいは援助を頼めなかった状況が反映されて
おり、社会的に孤立している人が多いことがうかがえる。同時に、ビッグイシュー販売を
選んだ人には、自力で自立できる、何とかなっている、親族への連絡は困る、保護寮の相部屋
が困る等の理由で、敢えて生活保護受給を拒否する者が少なくないことも分かった。