自由研究発表国際社会福祉2  植村 英晴

EPAに基づく外国人介護福祉士候補者受入れ施設・法人の実態(2)
 -アンケート・聞取り調査を中心に-

○ 日本社会事業大学  植村 英晴 (会員番号4001)
日本社会事業大学 社会事業研究所  稲葉 宏 (会員番号7639)
キーワード: 《外国人介護福祉士候補者》 《EPA》 《社会福祉法人》

1.研 究 目 的

高齢化が急速に進むわが国は、2006年にフィリピンおよびインドネシアと経済連携 協定(EPA)が締結し、2008年から看護師・介護福祉士候補者の受入れを始めた。本研究は、 受入れ施設(法人)がどのような意図で外国人を受入れ、外国人介護福祉士候補者の受入 を法人経営にどのように位置付けているのかを明らかにする。

2.研究の視点および方法

本研究はアンケート調査と聞取り調査で構成されている。アンケートの調査対象施設 は、経済連携協定に基づき2008年8月および2009年10月にインドネシアおよびフィリピン から介護福祉士候補者を受入れた施設である。調査実施期間は2009年12月から2010年1月である。アンケート調査は、外国人介護福祉士候補者受入理由を中心に行った。そして、 アンケート調査で追加調査の依頼に応じると回答した施設に対して直接訪問し、聞取り 調査を行った。この聞取り調査は、1施設あたり約1時間の個別面接調査である。聞取り 調査に対応した者は、外国人介護福祉士候補者を受入れた施設を運営する法人の管理運営 担当者である。実施期間は、2008年9月12日から2010年5月24日である。聞取り調査は、 ①受入れ施設の基本情報(施設の種別、開所年、昨年度の決算状況、現時点での人材不足 の状況、在日外国人介護職員の雇用経験の有無)② 施設の運営母体である法人の基本情報 (設立年、法人設立の母体組織、現在の運営規模〔特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、 養護老人ホーム、軽費老人ホームの合計数、グループホームの数〕、障害もしくは子ども 関係のサービス実施の有無) ③ 外国人介護福祉士候補者を受入れた理由などについて 行った。

3.倫理的配慮

本研究で実施したアンケート調査と聞取り調査は、法人を対象としたものであり、 個人情報に関する項目は含まれていない。

4.研 究 結 果

アンケートの配布施設は139施設(特別養護老人ホーム 87施設、老人保健施設 45施設、病院 2施設、障害者施設5施設)である。57施設から解答があり、回収率は41% であった。受入れの理由は、複数回答で「今後の人手不足を見込んで」が46施設(69.7%) 「現在人手不足だから」が12施設(18.1%)、「わからない」が8(12.1%)あった。
  聞取り調査を行った施設(法人)は12施設であり、聞取り調査に応じた者は、施設を運営 する法人の理事長が2人、事務長が6人、施設長が2人、副施設長が2人であった。下表 は、聞き取り調査の結果をまとめたものである。

種別 開所年 決算状況 人材不足の状況 外国人雇用経験 設立年 関連 運営施設数 グループホーム数 子ども障害 受入人数
過去 現在
98 不足 充足 98 1 1 2
05 不足 充足 98 5 6
71 不足 充足 71 12 0 2
D 76 不足 充足 75 3 1 2
E 02 不足 充足 02 1 4 3
F 99 不足 充足 53 5 0 子、障 2
G 05 不足 充足 05 1 0 4
H 00 充足 充足 50 2 0 2
I 02 充足 充足 N/A 1 0 2
J 91 不足 不足 45 1 0 2
K 97 充足 充足 68 1 0 1
L 00 不足 充足 N/A 2 N/A 7
注1) 種別は、「特:特別養護老人ホーム、老:老人保健施設」、関連の「医:医療法人 自:地方自治体 独:単独の社会福祉法人」を表す。
注2) 社会福祉法人の関係する医療法人等でも受入を実施している場合、運営施設数、 グループホーム数、受入れ人数は、2つの法人の数値を合算した。

聞取り調査を行った施設(法人)は、特別養護老人ホームや老人保健施設など高齢者施設 であるが児童施設や障害者施設も運営していた。受入れ施設の開所年は、介護保険法施行以前 であり、法人の設立年は古いものが多い。すべての施設(法人)が黒字決算を報告している。 人手不足の状況については、不足を経験しているが現時点では著しい人材不足ではないが、 長期的には不安である。半数以上が在日外国人介護職員の雇用経験がある。さらに、半数の 法人が複数施設やグループホームなどを運営している。介護福祉士候補者の受入人数は、 2人が一番多いが中には6人も受入れているところもある。これらの結果をまとめると次の ことが考えられる。聞取り調査を行った施設(法人)は、高齢施設中心であるが社会福祉 法人としての歴史は古く、経営状態は良好である。介護職員の募集等にやや苦労した経験 はあるが現在著しく不足している状態ではない。また、複数の施設を運営しているために 職員の配置等については若干の余裕がある。さらに、在日の外国人を介護職として雇用した 経験もあり外国人の雇用に対して意識が高いということができる。
  したがって、介護福祉士候補者の受入れ施設(法人)は、現状では介護人材の確保に一定 の余裕があるものの、将来の介護人材確保について憂慮しており、一定のコストがかかっても、 あえて外国人介護福祉士候補生を受入れ、将来に備えていることがわかる。また、外国人 介護福祉士の受入れが動き始めた現在、もう後も戻りすることはできないので外国人介護 福祉士候補を受入れ、社会福祉法人の使命を果たそうとする法人も複数見受けられた。 (本研究は文部科学省科学研究費補助金「外国人介護職の受入れに関する研究(平20~22年)」 (研究代表者:植村英晴)の一部である)

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