EPAに基づく外国人介護福祉士候補者受入れ施設・法人の実態(1)
-施設・法人の実態を中心に-
○ 日本社会事業大学 社会事業研究所 稲葉 宏 (会員番号7639)
日本社会事業大学 植村 英晴 (会員番号4001)
キーワード: 《外国人介護福祉士候補生》 《EPA》 《社会福祉法人》
わが国は急速な高齢社会の進展に伴い、2030年には少なくとも60万人の介護職員の不足が見込まれている。このような状況のもとで2006年にフィリピンおよびインドネシア と経済連携協定(EPA)が締結され、2008年から看護師・介護福祉士候補者の受入れが始まった。本研究は、実際に介護福祉士候補者を受入れた法人・施設の実情を明らかにすることで、今後の外国人介護福祉士候補者の受入れが今後拡大するのかどうか、そして 受入れに当たっての課題を具体的に見通すことを目的とする。
2.研究の視点および方法調査対象は、EPAに基づいて2008年8月から2010年11月までにインドネシアと フィリピンから介護福祉士候補者を受入れた施設である。なおここで用いるすべての情報 は厚生労働省の統計情報および法人のホームページ等で公にされているものを用いた。 調査分析の項目は、①受入れ施設の所在地、②各施設の受入れ人数、③受入れ施設の種別、 ④受入れ施設の母体と規模、⑤受入れ施設の経営状況である。なお、④と⑤については、 2009年度にフィリピンから候補者を受入れた施設のみを対象とした。
3.研 究 結 果2008年8月から2010年10月までの間に、226施設(インドネシア115施設、フィリピン 111施設)において、555人(インドネシア人293人、フィリピン262人)の介護福祉士候補者 が受入れられている。①施設の種別、②施設別合計受入れ人数、③運営母体を、受入れ施設 が多い都道府県別に上位6位を表1に示した。施設の種別は、特別養護老人ホーム、医療 法人もしくは社会福祉法人運営の介護老人保健施設、病院(療養病床)、身体障害者療護 施設の4種類である。運営母体は、社会福祉法人と医療法人の2種類である。
表1所在地 | 種別と施設別累計受入れ人数 | 運営 | 所在地 | 種別と施設別累計受入れ人数 | 運営 | ||||||||||
特 | 医 | 福 | 院 | 障 | 社 | 医 | 特 | 医 | 福 | 院 | 障 | 社 | 医 | ||
大阪 | 15,39 | 5,16 | 0 | 0 | 2,4 | 17 | 5 | 神奈川 | 13,42 | 1,2 | 0 | 0 | 0 | 13 | 1 |
東京 | 10,21 | 7,15 | 0 | 1,2 | 0 | 10 | 8 | 千葉 | 11,32 | 2,3 | 0 | 0 | 0 | 13 | 0 | 徳島 | 14,43 | 0 | 2,5 | 0 | 1,3 | 17 | 0 | 岐阜 | 6,11 | 4,7 | 0 | 0 | 1,2 | 7 | 4 |
注2)累計受入れ人数はイタリックで表記した。
2009年度にフィリピンから介護福祉士候補者を受入れた社会福祉法人の母体と規模に ついてのまとめを表2および表3に示した。社会福祉法人の母体は、①医療法人が深く関わっている場合、②地方自治体が深く関わっている場合、③医療法人・地方自治体等と 関わりがない場合の3通りがある。また、規模については、独立型社会福祉法人のみを対象とし、運営している施設数として、最初に第一種社会福祉事業上の高齢者施設(特別 養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム)および介護老人保健施設についてまとめた上で、次にそれ以外の入所型施設(グループホーム等)についてまとめた。また 、障害者および子どもに関するサービス提供の有無についてもまとめた。
表2運営母体 | 施設の種類 | |||
特養 | 老健 | 障害 | 合計 | |
医療法人 | 21 | 1 | 2 | 24 |
自治体 | 1 | 0 | 0 | 1 |
独立型 | 18 | 1 | 0 | 19 |
宗教 | 2 | 1 | 0 | 3 |
不明 | 2 | 0 | 0 | 2 |
合計 | 44 | 3 | 2 | 49 |
表3
種別 | 1法人あたりの施設数 | 他施設 | 子供 | 障害 | |||||
1 | 2 | 3 | 4 | 5~ | 不明 | ||||
特 | 11 | 3 | 0 | 0 | 2 | 1 | 11 | 3 | 3 |
老 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 |
経営状態は、独立型社会福祉法人が運営する受入れ施設のみを調査対象とした。全19法人中、 ホームページを公開している法人は15法人であり、このうち決算報告書がホームページ上で公開されている法人は4法人であった。公開している法人すべてが黒字決算であり、支出に占める人件費の割合が60%以下であった。これらの法人の事業規模を表3にまとめた。項目は ①法人の設立期日、②運営している第一種社会福祉事業上の高齢者施設および介護老人保健施設の数、③上記施設の開所年、④他の入所型施設(グループホーム等)の数、⑤通所介護 事業所事業所の数、⑥在宅介護支援事業所の数、⑦地域包括センター運営の有無、⑧子ども・ 障害に関するサービス提供の有無の状況である。
表4法人設立 | 施設数 | 開所年 | 他施設 | 通所 | 在宅 | 地域包括 | 子供 | 障害 | |
A | 1987 | 1 | 1991 | 0 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 |
B | N/A | 1 | 1999 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 |
C | N/A | 1 | 2004 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 |
D | 1955 | 2 | 2000 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 |
(本研究は文部科学省科学研究費補助金「外国人介護職の受入れに関する研究(平20~22年)」 (研究代表者:植村英晴)の一部である)