自由研究発表国際社会福祉1  白石 雅紀

東南アジアにおける児童養護施設の現状と課題
 -マレーシアとフィリピンとの比較を通じて-

○ 秋田看護福祉大学  白石 雅紀 (会員番号6126)
キーワード: 《国際福祉》 《NGO》 《児童養護施設》

1.研 究 目 的

 発展途上国の福祉現場において活動する福祉施設にとって活動資金の調達は大きな 課題である。特に児童養護施設では、児童を養護するという施設の活動自体から資金を 捻出することができないので、活動資金の調達は大きな課題である。日本の場合、児童 養護施設の運営費は政府より支給されている。だが多くの発展途上国の場合、経済面での 理由から児童養護施設は現地の政府から運営費は支給されていない。よって、大半の児童 養護施設は寄付によってその運営費を賄っている。東南アジアのフィリピンなど、その 典型的な例である。しかし、同じ東南アジアのマレーシアのように近年の経済成長の結果、 発展途上国でありながらも、日本の児童養護施設のように運営費が一部現地政府より支給 される国も現れてきた。本研究では主に発展途上国の中でも比較的経済状態の良いマレーシア の児童養護施設を例にとりあげ、発展途上国の児童養護施設における資金調達活動の実態と 課題を論じる。さらに、経済状態においては典型的な発展途上国であるフィリピンの同様の 施設と比較を行うなかで、発展途上国の児童養護施設がより効果的な活動を行えるよう提言 を行うことを目的とする。同時に、発展途上国の福祉施設が行う資金調達活動から日本の 福祉施設が参考とするべき点の考察も行う。

2.研究の視点および方法

 本研究ではまず、先行研究をもとに発展途上国における福祉施設の役割を考察する。 従来、発展途上国の政府はその資金や人材などの資源的な限界から、国の福祉政策には あまり熱心に取り組んでこなかった。結果、発展途上国の福祉現場では政府による公的な 機関よりも民間のNGOが主体となって活動を行うようになった。だが、マレーシアの ように近年の経済成長の結果、政府が全額運営費を支出する公設の児童養護施設も一部で あるが登場してきた。だが、実際には公設の施設数はまだ数が少なく、マレーシアにおいても 身寄りのない子ども達が長期入所する児童養護施設は民間のNGOが運営している施設が 大半である。このような民間の児童養護施設はその活動資金の調達に大きな課題を抱えて いる。政府から補助金がほとんど期待できず、また児童養護施設は児童を養護するという その活動自体から活動資金を捻出することはできないため、毎年施設の活動を継続する ために、外部から資金や人材といった活動資源を調達する必要があるからである。日本の 児童養護施設と比べ、毎年安定して確実に収入として見込める財源がないことは、発展途上国 の福祉施設が活動を継続する上で大きな課題である。本研究は発展途上国の児童福祉施設が どのように活動予算を確保しているのかを、マレーシアの児童養護施設での調査をもとに、 フィリピンの同様ケースと比較し、実態と課題の整理・分析を行う。調査を行うにあたり、 マレーシアの5つの児童養護施設で予備調査を行い、さらにそのうちの1施設で本調査を行い 資金調達の実態と課題を整理した。本調査では、実際にその施設へと合3ヶ月弱にわたって 通い、施設役員、施設職員、ボランティアに対する面接調査、参与観察、資料収集などを 通じて該当施設が行っている資金調達活動の実態と課題の整理を行った。

3.倫理的配慮

 予備調査・本調査対象の施設には、研究目的を説明した上、同意を得た。また、 本調査において面接を行った施設長1名、施設役員1人、ボランティア2人にも研究目的を 説明した上、同意を得た。

4.研 究 結 果

 マレーシアのNGOが運営する児童養護施設は他の発展途上国におけるNGOと異なり、 先進諸国からの寄付金収入がほとんど無いと言う結果が明らかになった。たとえば、マレーシア の隣国であるフィリピンのNGOは運営費の大部分を海外からの寄付に頼っている。しかし、 マレーシアのNGOは海外からではなく、主に国内からの寄付収入を頼りに活動を行っていた。 海外からの寄付を獲得できない理由は、マレーシア政府が海外からの寄付金獲得に規制を かけているためであった。そのため、マレーシアの児童養護施設はフィリピンの同様の施設と 比べても、その予算規模は小さいものであった。
 調査の結果、判明したマレーシアの児童養護施設が抱えている主な課題は、海外からの 寄付を募ることができないため、少ない収入でやりくりせざるを得ないということと、毎年 確実に見込める安定した財源がないことの2点である。収入が少ないことの問題点は、予算に 限りがあるため、社会福祉の知識を学んだ専門のワーカーを雇うことが出来ないという点 にある。専門のワーカーを雇うことができないため、施設では子どものケアを資質的に問題 のある職員が行っていた。2点目の問題点は、施設の収入を寄付というきわめて不確実な財源 に依存しているため、活動を維持・安定させるための基盤が弱いことである。
 これらの問題点を軽減するため、本発表ではシンガポールのシステムを参考とした共同募金 のモデルを提案している。共同募金モデルのポイントは発展途上国で活動している福祉施設 の財源を共有化することにある。福祉施設の活動資源は全て一度、共同募金に集めたのち、 それぞれの施設へと分配する方式をとる。この方式をとれば、少ない資源をより効率的に 分配することができるし、同時に共同募金という安定した財源の確保も期待できる。共同募金 モデルの運営には、公平かつ適切な運用、各施設による資源獲得のための自助努力の低下 などの問題点も考えられるが、現在発展途上国の福祉施設が抱える2つの大きな課題がこの 共同募金モデル導入により緩和することが見込まれる。
 発展途上国の児童養護施設は寄付というきわめて不安定な財政基盤を元に活動を行って いる。彼らの資金調達の戦略は予算不足に苦しむ日本の福祉財政にも一定の示唆を与える のではないだろうか。

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