ライフラインを支える移動支援の確保について
-地域生活インフラを支える流通のあり方研究会報告書にみる課題-
○ 山口福祉文化大学 横山 順一 (会員番号3978)
キーワード: 《地域生活》 《移動支援》 《民による公共》
社会福祉における地域社会における交通アクセスの取り組みは、1972年に東京都町田市
のボランティア団体が行ったハンディキャブ運行から始まり、移送サービスの礎を築いた。
その後、1988年に福岡の一般乗用旅客自動車運送事業社が始めた介護タクシーへと展開して、
現在に至る。40年弱に渡り事業者と移動制約者との取り組みがあり、その現実に後押しされて
道路交通法等の法制度の見直しや実態把握が行われてきた歴史がある。
2010年5月14日に経済産業省が公表した「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会
~地域社会とともに生きる流通~」報告書(以下、地域生活インフラ報告書)は、地域に
おける移動と交通アクセス面の生活課題を改めて浮き彫りにしたものであった。地域経済・
地域コミュニティの衰退が、小売業・公共交通機関等の生活インフラの弱体を加速させて
いるという現実があり、地域課題に対応する事業の方向性についてまとめられている。
地域生活インフラの整備にかかる問題は流通問題のみならず、地域で暮らす生活者の課題
でもある。買い物や医療機関への通院、その他社会活動など、幅広く関連する生活問題で
ある。様々な場面での社会資源の活用を考えるためにも、移動支援の確保について課題を
抽出していきたい。本研究では、地域生活インフラ報告書からライフラインを支える上で
生じる課題を拾い出し、今後の研究の方向性を導きだす基盤としていくことを目的としている。
本研究では、地域生活インフラ報告書を精査し、報告書が提示した課題を整理していく。
そして、移動制約者の視座から、生活を営む上でライフラインの確保と移動や交通アクセス
の問題にかかる問題を提起していく。その上で、今後の移動制約者が抱える問題の現状と
課題について現状を明らかにするべく研究を進める足がかりとする。
なお、地域生活インフラ報告書では、地域インフラを「ある地域での快適な生活を営む
に際しての最低限の基盤を形成する要素」として、衣食住や医療・金融等の昨日を幅広く
含むものとして定義している。また、対象を「買い物弱者」とし、報道等で報じられている
「買い物難民」ではないとしている。本研究では、買い物だけではなく、地域インフラ
報告書を基盤にしながら、地域生活全般に渡るライフラインの確保について考察を深めて
いくものであるため、移動行為に困難が生じ、社会生活に何らかの不便を抱える者として
「移動制約者」とする。
本研究は実態調査に基づく研究ではない。公刊されている資料を主として使用するが、 個人的に知りえた場合は仮名とするなどの倫理的配慮を行う。また、本研究は地域インフラ 報告書に基づく問題提起である。当該報告書を引用する場合、報告書内で引用されている データ資料等に言及する際は可能な限り原典レベルで引用し、日本社会福祉学会研究倫理指針 「引用」項目に準じて研究を進めた。
4.研 究 結 果 地域生活インフラ報告書は、以下のように整理することができる。消費者の生活スタイル、
少子高齢化によって予想される様々な変化に柔軟に対応するため、流通業に関しては公共
サービスを民間主体が担う「新しい公共」という概念が提起されている。現状では、地域
の商店街の衰退や郊外型大規模商業施設への移行によって、買い物に困難を感じている階層が
増加かつ問題が悪化していることを指摘している。これらの問題にむけた解決方法として、
①広範な物流ネットワークを活用した地域密着サービスの展開、②流通業が外部事業(医療・
介護・福祉、行政、地域コミュニティ等)との連携を取る、③これらを採算性と地域社会への
貢献のバランスを考慮しながら発展的に展開させていくことを提案している。さらに、
「新しい公共」、つまり「民による公共」を実現するためにも、意識面での改革や法制度の
改正を視野にいれたルールの柔軟化が必要であり、関連省庁との連携と調整が求められる。
最後に、地域インフラを発展させていくために、国・地方自治体・民間業者・地域のネット
ワークについて提言をしている。
移動の確保という点においては、確実に到着すること、自分自身や家族等にかかる心身の
負担をより少なくすること、経済的に大きな負担にならないことが考慮する点となる。国民
生活基礎調査によると、高齢者世帯平均が306.3万円で、全世帯平均(566.8万円)の約1/2
程度となっている。さらに、高齢者世帯の中央値が244万円であり、高齢者世帯の1/4が100万円
から200万円であることを考えると、普段から支出を抑えた生活をしていることが分かる。
同様に、国民生活基礎調査から家族構成比をみると、高齢者の単独世帯と高齢者夫婦のみの
世帯が高齢者世帯の半数以上を占めている。
医療機関への受診や公共施設等への移動であれば、事前の日程調整が可能であるが、
日々の買い物の場合は前日までの状況や当日の情報によって変化する。また、選択の機会を
保障考慮すると、毎回ネット通販等を使うことが適切かどうかという疑問も残る。その意味
においても、事前予約と計画を伴う既存の移送サービスや介護タクシーと言ったオンデマンド
方式の移動手段の確保と拡充を考える一方で、即対応可能な「足代わりになる」移動手段の
開発が急務である。特に日々の買い物を伴う移動支援については、特に高齢者の生活実態と
重ね合わせると、今後の課題といえよう。