地域社会の文化に根付いたデイサービスの在り方
○ 龍谷大学 竹添 展 (会員番号5580)
キーワード: 《施設の地域化》 《デイサービス》 《福祉文化》
兵庫県に4苑を展開する「きらくえん」は、「福祉は文化」と定礎に刻み、高齢者
福祉に取り組んできた。「きらくえん」4苑のデイサービスにおける文化とは何か、また
その文化的側面を通して、地域に即したサービスとはどのようなものであるかを考える。
現在、施設内サービスであるデイサービスの利用も、地域社会の中ではもはや当然の
ことのように受け止められてきている。施設入居の特養と違い、日々、多くの地域住民が
利用するデイサービスは、施設において最も地域社会との接点が多いサービスであると
言えるだろう。そして、地域に根付いた文化的土壌を、いかに取り入れるかはデイサービス
においてはとりわけ重要であると考える。
4つの施設は次の3つのタイプに分類できる。工場労働者のまちである尼崎、かつては
鉱山労働者のまちであったが、現在では典型的な少子高齢化に直面している生野(現・
朝来市)、住宅街である芦屋、食満(尼崎市)である。このことから研究の視点は次の3つ
に設定する。
(1)各地域の文化的土壌が、如何に施設サービスに反映されているかという点。
(2)地域から集まったデイサービス利用者たちは、施設内社会ともいえる新たな環境で、
人間関係を築いていくことになる。施設はどのようにしてその手助けを行っているのか
という点。
(3)地域の情報や文化を、施設に訪れる人たちがもたらすことも多い。地域住民の来訪や、
ボランティアの参加といった、地域交流という点。
以上の3点の問題関心を基に、施設長、施設職員、利用者、地域住民への聞き取りを行った。
また、施設への泊まり込みによる参与観察調査を行い、どのようにして、地域特性に
合わせたサービスを行っているかを考察した。
利用者、職員それぞれのプライバシーに配慮し、事例についてはすべて仮名とし、 個人が特定されないよう表現に配慮した。日本社会福祉学会研究倫理指針に基づく。
4.研 究 結 果 研究の結果、明らかとなったのは次の3点である
第一は、利用者が長年の地域生活で獲得してきた文化的要素を、デイサービスのメニュー
に反映させることである。
利用者が、地域の伝統行事などにどのように関わっていたかを会話の中で引き出し、
それを施設内で披露してもらうことがそれである。利用者の個性を周知し、得意分野を
生かす方法はケアの面だけでなく、利用者同士、利用者と職員との文化的な結びつきを
誘発し、地域の文化を継承するという意味でも有効であると思われる。
例えば芦屋では、音楽演奏会に触れられるがために、デイサービスを利用するという
ケースが見られる。かつてピアノを演奏していた利用者などが、再度ピアノの演奏を行う
ことは、その人の持っていた文化的な記憶を呼び覚ますことになる。その人自身が文化を
施設に、そして地域住民に運ぶ役割ともなっている。利用者は「ケアを受ける」という
受動的な位置づけではなく、自身の歴史や文化を抱え持つ個性として能動的に施設と関わり、
利用者、その家族、職員など地域と密接に結びつくことになる。
第二に、地域特性に合わせた催し、設備を備えることである。尼崎、食満や、生野の
ように、おしゃべりやカラオケに多くの利用者が充足感を持つ地域もあれば、芦屋のように、
コンサートや音楽会への参加に積極的な地域もある。また、生野における、町全体を巻き
込む規模となった盆踊り大会なども、地域特性に合わせた催しの好例だろう。
第三に、利用者と直に接する介護職員自身が、地域社会の歴史を熟知しているという
ことである。そのうえで高齢者の生きてきた時代背景を利用者から学び、共通の知識を
持ち合わせていることが、利用者とのコミュニケーションを円滑にしている点として示唆
された。
自宅で独りでは行わない手芸や工作も、デイサービスという空間ではコミュニケーション
ツールを兼ねて行われる。デイサービスの場で作品や成果を披露できる喜び、評価される
喜びは向上心を育み、リハビリのみならず文化的活動にも通ずる。デイサービスが利用者
個々人の能力の集積される場となることは、社会資源として施設が活用されている成功事例
と言えるだろう。
先述したいくの喜楽苑の盆踊り大会は、いまや生野町の名物となっている。この取り組み
が大きく発展を遂げたのには、かつての生野町が、行政レベルで「きらくえん」を誘致した
ことが背景にある。地域社会の施設への期待、それに応じた施設の歩み寄りがうまくかみ
合い、施設が地域の伝統文化を吸収し、新たな地域文化を発信することに成功した事例だと
考えられる。