非カリキュラムのボランティア活動における「二重の自由度」と「三機能」
○ 東京福祉大学 駒井 美智子 (会員番号7078)
キーワード: 《非カリキュラム》 《二重の自由度》 《三機能》
近年、大学に対して社会貢献や地域貢献を求める声が大きくなっており、多くの大学 がこれらに対して積極的な取り組みを始めている。こうした動向をふまえて、筆者は社会 貢献や地域貢献に対する非カリキュラムボランティア活動の有効性に注目し、非カリキュラム ボランティア活動における「二重の自由度」の概念を提示している。この概念は、非カリキュラム ボランティア活動の充実によって学生が①空間と②機能の両面での自由度(freedom)を 手に入れることを意味し、これが学生の主体性や能動性を育む役割を果たすのである。 一方、筆者は、幼児教育の有効性、とりわけ児童文化教材の有効性が、興味性・児童性・ 教育性の「三機能」の上に成立するという視点を提示している。その上で、これらの三機能 により、子どもが楽しみながら学習すると同期に、学習意欲が高まり、理解も向上する ことを示唆している。
2.研究の視点および方法本研究は、こうした筆者の先行研究をふまえて、非カリキュラムボランティア活動 における「二重の自由度」とその有効性の「三機能」との関係を検討するものである。 そこで、まず非カリキュラムボランティア活動における「二重の自由度」の概念を紹介し、 この「二重の自由度が、いかに非カリキュラムボランティア活動の教育効果を高めるか?」 という観点からこれらの関係を検討し、主に①空間的自由度が児童性を、②機能的自由度 が興味性を高めること、および非カリキュラムボランティア活動の成果をカリキュラム 教育に活かすことが教育性を高めるという視点を提示する。
3.倫理的配慮日本社会福祉学研究倫理指針に基づき、可能な限り原典主義による資料・文献を行った。 また、調査に関しては、匿名性や対象の名誉・プライバシーに配慮した。
4.研 究 結 果大学の幼児教育における非カリキュラムボランティア活動の充実によって、学生は 二重の自由度(①空間と②機能)を手に入れることができ、それが③学生の主体性や能動性 の向上につながる。ここでは、筆者の先行研究の枠組みに従って、こうした非カリキュラム ボランティア活動における「二重の自由度」と(主として学生に対する)「三機能」の関係 について考察していくことにする。学生が二重の自由度を手に入れることは、学生が大学 のキャンパスという空間とカリキュラムとに縛られず、①空間と②機能の両面での自由度 を持つことを意味する。これにより、地域社会や企業・行政へと自身にとってのキャンパス を広げ、それらが求める機能を発揮することが可能となる。まず、「興味性」について であるが、もし非カリキュラム活動に参加してみて、その活動が持つ機能に共感することが できなかったとすれば、カリキュラムや単位の縛りがないため、比較的自由にここから 退出することが可能である。逆に言えば、非カリキュラムボランティア活動に参加している ということは、カリキュラムや単位の縛りがない分、相対的に高い興味を示していると考える ことができる。また、学生の興味に従って非カリキュラムボランティア活動の企画・運営を 行うことも可能である。このように、「機能面での自由度」が学生の「興味性」を高める 働きを持つ。さらに、こうした学生の興味性が子どもの興味性を高めることにもつながる。 次に、「児童性」についてであるが、大学には基本的に子どもはいない。したがって、大学 のキャンパス内のみで活動の児童性を高めることは容易でない。そこで、学生が大学の垣根 を越えて幼稚園や保育園に出かけて子どもと肌で触れ合うことは、こうした非カリキュラム 活動の「児童性」を高める効果を発揮する。すなわち、非カリキュラムボランティア活動の 「空間面での自由度」を高めるのである。一方で「教育性」については、非カリキュラム ボランティア活動は非カリキュラムであるが故に、これが直接「教育性」に結びつくわけ ではない。勿論、上記の興味性・児童性が教育性を高めることは十分にありうるが、それは 保証の限りではない。そこで、非カリキュラム活動の教育性を高めるためには、非カリキュラム ボランティア活動のカリキュラムとの有機的対応づけが必要である。カリキュラムという 大学の根幹をなす教育体系の中で、それぞれの非カリキュラム活動の意義と役割をしっかりと 位置づけるのである。これにより、非カリキュラム活動が「単なる遊び」ではなく、高い 教育効果を発揮することへとつながるのではないかと思われる。以上の議論を整理すると、 図1のように、主に①空間的自由度が児童性を、②機能的自由度が興味性をそれぞれ高め、 さらには非カリキュラム活動のカリキュラムとの有機的対応づけがその教育性を高めることが 理解されよう。
図1.保育の非カリキュラム活動における「二重の自由度」と「三機能」との関係