市町村社会福祉協議会による認知症高齢者の家族介護者支援活動の
現状と課題 -兵庫県内市町社協への調査をもとに-
○ 日本福祉大学 金 圓景 (会員番号7133)
日本福祉大学 平野 隆之 (会員番号814)
キーワード: 《社会福祉協議会》 《認知症高齢者》 《家族介護者》
介護保険制度が導入され10年が経過している。しかしながら、制度によって充足され ない制度外の介護者ニーズへの対応は、自発的な福祉として地域社会のなかで受け止め対応していくことが必要であると指摘されている。本調査では、認知症高齢者の介護家族 を地域で受け止める場として多くの社協が支援している「家族会」や「つどい」、また これらの活動や組織より形成される介護家族のネットワークから生まれ独自性をもつ新たな 活動(NPO設立など)に着目する。本研究報告の目的は、①家族会やつどい、そして介護家族 のネットワークから生まれた新たな活動(NPOの設立など)の現状と市町村社協の支援状況、 ②市町村社協がそれらの活動への支援における課題を明らかにすることである。
2.研究の視点および方法従来から多くの社協では、認知症高齢者の介護家族のつどいや家族会の設立に携わって
きたが、認知症高齢者の増加や設立当初から参加していた介護者の高齢化などにより、これらの活動が停滞期を迎えていると言われている。一方で、介護の疲れによる自殺や介護殺人、
もしくは介護者の孤立が社会的な問題となっており、支援が求められている今日、その支援策
のひとつとして家族会やつどいが一定の効果があることは、従来の研究より明らかにされている。しかし、多くの研究ではセルフヘルプグループ、サポートグループとしての機能や効果
に関するものが多く、社会福祉関連専門機関による支援状況や課題については、十分に検討されていない(兵藤2001;櫻井2006;金2010)。
そこで、本研究では、住民をつなぎ、当事者や家族をつなぐことによって、地域の福祉
課題の解決に向けて力を醸成していく過程である地域の組織化を活動の中心的な課題として取り組んでいる社協による認知症高齢者の家族介護者支援活動である家族会やつどいに注目
する(明路2010)。また、家族会やつどいに参加していた介護者のうち看取り終えた者による新たな活動が多く報告されていることに着目する。
本研究で掲げた2つの目的を明らかにするために、兵庫県社協の協力を得て兵庫県内市社協40ヶ所(神戸市を除く)を対象に、2010年5月1ヶ月間にわたって「市町社協における
介護者支援に関する調査」を実施した。調査の際には、自記式調査票を用いた。また、調査票
の作成時には、兵庫県社協職員の協力を得て修正・検討作業を行った。なお、調査票は、
郵送で送付・回収した。
日本社会福祉学会研究倫理指針に則って研究を行った。
4.研 究 結 果兵庫県内市町社協40ヶ所のうち31ヶ所より調査票が回収された。今回の調査では、
認知症高齢者の介護者が参加する家族会やつどいに限定しており、他疾病を持つ要介護者の介護者が一緒に参加しているものは除外している。
1)市町村社協における介護者支援状況
兵庫県内市町社協における認知症高齢者の家族介護者の家族会の組織化可否およびつどい
の開催可否、そして家族会やつどいに参加していた介護家族のネットワークから生まれた
新たな活動が展開されているか否かについて調査した結果について
<表1>にまとめる。特に、
4つの市で、看取り等の介護家族による新たな活動が展開されていることに注目して
おきたい。
<表1>兵庫県内市町社協における認知症高齢者の家族介護者の家族会・つどい実施状況
つどい | ||||
1.開催されている | 2.今後開催予定あり | 3.開催予定なし | ||
家族会 | 1.組織化されている | ・高砂市、・三田市、・芦屋市 | ・明石市、・西脇市、・稲美町、・川西市、・伊丹市、・洲本市、・宝塚市、・赤穂市 | |
2.今後組織化予定あり | ・たつの市、・篠山市 | ・淡路市、・南あわじ市 | ||
3.組織化予定なし | ・加東市、・猪名川町 | ・姫路市、・多可町、・神河町、・宍粟市、・太子町、・香美町、・豊岡市、・尻崎市、・佐用町、・上郡町、・福崎町、・養父市、・小野市、・三木市 |
2)介護者支援活動における市町村社協が抱える課題
上述した介護者支援活動への実施状況を把握した結果に基づいて、看取り終えた介護者への支援と新たな活動への支援との関連から市町村社協が抱える課題を整理する。
①看取り終えた介護者への支援
認知症高齢者の家族介護者への支援が注目されている今日、家族会やつどいには現在、
介護している者だけでなく看取り終えた介護者も一緒に参加していることが多い。実際に、
今回の調査でも家族会やつどいが実施されている市町村14ヶ所(17ヶ所のうち)で参加が把握できた。看取り終えた介護者と現役で介護している者では、家族会やつどいに参加する
意味や思いが異なる(金2010)。今後、社協では、家族会やつどいに参加している看取り終えた介護者のニーズを十分に把握した上で、適切な支援が求められると考える。
②介護者による新たな活動への支援
近年、家族会やつどいに参加していた介護者による新たな活動(ミニ宅老やNPO設立など)
がマスコミやシンポジウムなどを通して多く報告されており、注目を集めている(すずの会
2009)。しかし、これらの活動への十分な検証が行われているとは言い難い。今回の調査
では、4つの市において新たな活動が展開されていることがわかった。その活動内容は、
介護者サロンや特別介護食の配食など多様であった。今後、社協では、介護者による新たな
活動の開始および維持のために必要な支援を適切に行っていくために十分な検討が必要で
あると考える。