居宅サービス利用指数の保険者別推移と指数「高」の保険者の
地域ケアシステムに関する一考察
○ 大正大学 長倉 真寿美 (会員番号1791)
キーワード: 《介護保険》 《居宅サービス》 《地域ケアシステム》
介護保険制度施行後、全国的にサービス受給者数は増加し、特に居宅サービスの受給者
数の伸びが大きく、2000(H12)年度から2007(H19)年度の増加率は110%を超えている。
しかし要介護認定者一人当たりの給付費や居宅サービス・施設サービス・地域密着型サービス
の給付費割合を都道府県別でみると、地域差が生じている。
そこで本研究では、保険者別の要介護認定者一人当たりの居宅サービス利用件数の偏差値
化及びランキングを行い、2002(H14)年度、2004(H16)年度、2005(H17)年度、2006
(H18)年度、2007(H19)年度の推移、地域差の現状を把握するとともに、地域属性と指数
との関係性を明らかにする。また、居宅サービス利用水準に対する施設サービス利用の影響
をみるために、保険者別の要介護認定者一人当たりの、施設サービス利用件数の偏差値化を
行い、分析に加える。さらに、指数「高」の保険者のケース・スタディから、居宅サービスの
利用水準を高くする地域ケアシステムの構造を明らかにすることを目的とする。
研究方法としてはまず、「介護保険事業状況報告」(厚生労働省)のデータを使い、
2002(H14)年度、2004(H16)年度、2005(H17)年度、2006(H18)年度、2007(H19)
年度の1)訪問介護、2)訪問看護、3)通所介護と通所リハビリテーションを足したもの、
4)短期入所それぞれについて保険者(市町村。一部広域連合あり)ごとに要介護認定者1人
あたりの利用件数を偏差値化し、それらを平均したもの(以下居宅4サービス利用指数)に
ついてランキングを行う。さらに、人口、人口密度、高齢者数、高齢化率、財政力指数等の
基礎的データ及び居宅費用割合、保険料(第2期)、老人保健医療給付対象者一人当たり
医療諸費費用額、人口10万人当たり医師数・病院一般病床数・一般診療所病床数等の医療・
福祉資源データを付加し、地域属性と居宅4サービス利用指数の関係性について分析する。
また、2002(H14)年度、2004(H16)年度、2005(H17)年度については、保険者ごとの
要介護認定者1人あたりの、認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護、介護
老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の利用件数を、2006(H18)年度、
2007(H19)年度については、保険者ごとの要介護認定者1人あたりの特定施設入居者生活
介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活
介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、
介護療養型医療施設、特定施設入居者生活介護の利用件数を偏差値化したものを平均し、居宅・
施設の指数で保険者を「高高」「低低」「高低」「低高」の四象限に分け、分布をみる。
さらに、居宅4サービス利用指数「高」の保険者のケース・スタディから、居宅サービス
の利用水準を高くすると考えられる地域ケアシステムの構造について明らかにする。
本研究は、日本社会福祉学会研究倫理指針に則って行っている。研究対象になっている 保険者のデータは全て一般に公表されているものを使用しており、匿名性が守られなければ ならない場合に該当しないと考える。ケース・スタディで使用している事例については、 匿名化して使用している。
4.研 究 結 果 居宅4サービス利用指数の分布を政令指定都市、市、町、村、広域連合の区分別に
経年でみてみると、大きな傾向の変化はないが、指数1位と最下位の保険者の偏差値の差は、
2002(H14)年度47.47、2004(H16)年度55.00、2005(H17)年度52.19、2006(H18)年度
68.84、2007(H19)年度88.08となっており、拡大傾向にある。また上位100位までをみると、
市が占める割合の増加及び、長野県、特に南信州広域連合に属している町村の占める割合が
高いという傾向は引き続いてみられた。
保険者の居宅4サービス利用指数の分布を属性別に高位・中位・低位の3グループに
分けてみたところ、各年度とも「人口規模が大きい」「人口密度が高い」「高齢化率が
低い」「財政力指数が高い」「老人保健医療給付対象者一人当たりの医療諸費費用額が
低い」「人口10万人当たり医師数が多い」グループの指数が高くなっている。保険者を
さらに細かく属性別に高位から低位まで5グループに分けてみても、医師数以外は同じ
傾向がみられた。
居宅4サービス利用指数「高」の保険者のケース・スタディでは、2002(H14)年度、
2005(H17)年度の指数上位のグループの中から一定の条件で抽出した6市町村(長野県
大鹿村・泰阜村・豊丘村・佐久市、愛知県半田市、神奈川県横浜市)について、2007(H19)
年度にヒアリング調査等を行い分析しているが、地域特性の違いに関係なく「在宅化推進
への早期取り組み」「ネットワークの構築」「ネットワーク、サービス技術を活用したケア
マネジメント」「看取りへの対応」が地域ケアシステムの特徴としてみられた。2009(H21)
年度に再度、2006(H18)年度の居宅4サービス利用指数のランキングも踏まえて対象市町村
の役所等にヒアリング調査を行ったところ、「ネットワークの構築」「ネットワーク、
サービス技術を活用したケアマネジメント」「看取りへの対応」ができていることが、居宅
サービスの利用水準の高さに結びついているという結果が改めて得られた。
例えば大鹿村では、2007(H19)年度実施のヒアリング調査では、役場・社会福祉協議会・
国保直診の診療所が一体となってサービスを提供する仕組みを持った地域ケアシステムが
構築されており、在宅化推進への効果が高いという結果が得られたが、2009(H21)年度の
ヒアリング調査ではさらに、近隣市町村の病院とのネットワークの構築、それを使った
ケアマネジメントと看取りの事例、自宅での死亡が増える傾向にあること等が確認され。
ただし、人手不足や要介護者及び重度の認定者増の懸念がある中、社会福祉協議会のデイ
サービスが定員いっぱいでフル稼働になってきた、宅老所を運営していたNPO法人がデイ
サービスの指定を受けたという変化があり、役場・社会福祉協議会・国保直診の診療所が
一体となってサービスを提供する仕組みが依然中心ではあるものの、民間事業者が加わった
新たな仕組みで需要増に応えている。
※本研究は平成22年度文部科学省科学研究費補助金(代表者:長倉真寿美)の一部である。