十島村における地域福祉システムの構築
-平島での住民調査から-
○ 鹿児島国際大学 高橋 信行 (会員番号40)
キーワード: 《地域福祉システム》 《小規模多機能施設》 《アセスメント》
(1)十島村の現況
「住み慣れた地域でいつまでも暮らす」という名の下に地域ケア体制の整備が進められて
きたが、十島村においては医療・保健・福祉の体制が整わず、介護保険料を払いながら、
島内において十分なサービスが受けられないという状況が続いている。十島村は屋久島と
奄美大島の間に位置するトカラ列島からなっており、7つの有人の島と無人島からなる。
人口は、平成21年12月現在、口之島120人(54.2%)、中之島142人(45.1%)、平島80人(30.0%)、
諏訪之瀬島44人(25.0%)、悪石島68人(19.1%)、小宝島57人(14.0%)、宝島109人(40.4%)、
合計620人(36.9%)である(括弧内は高齢化率)。十島村と本土を結ぶ交通路は、海上交通路
だけであり、村が運営している週2便の定期船によって住民の郵便物、生活必需品及び
主要物資等を輸送している。また役場は鹿児島市内にある。
(2)保健・医療・福祉のあり方に関する調査研究会報告
村営の診療所が各島に設置されているが、その他の保健・医療・福祉施設は皆無の状態で
あり、診療所は看護師1名のみで、医師は4つの島を巡回する医師が常駐するだけである。
重病等の場合に限り、ヘリコプターによって鹿児島市内への搬送が行われる。このため、
保健・医療面における住民の不安は大変大きい。介護保険における要介護認定者数は平成
21年度12月で44人であり、この内、島内でサービスを受けている者は10名にすぎず、介護
保険サービスでは各島に1~2名のホームヘルパー有資格者による訪問介護や福祉用具の
貸与が行われている程度である。21名は、鹿児島市等で施設ケアを受けている。このため、
村は平成19年度「保健・医療・福祉のあり方に関する調査研究会」をたちあげた。この目的
は、保健・医療・福祉にかかわる諸制度と現状のギャップを検証し、住民、村行政がなすこと
と、県や国に要請すべきことを報告することであり、13名の委員は1年をかけて10回の討議、
調査研究を行い、このなかで6つの基本理念を提言している。特に、地域福祉施策としては
①在宅福祉の推進(十島型小規模多機能施設の建設と地域支援型万能ヘルパーの養成)
②地域支え合い活動の促進、③地域福祉のコーディネート(社会福祉協議会の強化)の
3点が提案されている。ここでは、こうした提案が住民の中でどのように受け止められた
のか、平島での懇談会とアンケート調査結果をもとに検証していく。
平成21年9月12日 コミュニティセンターにおいて懇談会及びアンケート調査実施 (参加者29名)①懇談会での報告と質疑(地域住民に会場に集まっていただき、あり方 報告の要点を説明し、質疑を行った。この中から、住民の考えを知ることができる。) ②住民アンケート調査の結果(集合調査の形で座談会終了後、集まっている島民にアンケート 用紙を配布し、その場で書いていただいた。)
3.倫理的配慮住民調査は無記名とし、住民懇談会の発言内容の公表に関しては発言者に了解をとった。
4.研 究 結 果(1)住民アンケート
「小規模多機能施設」について「すすめてほしい」は58.3%となっているが、男性69.2%、 女性45.5%と男性に多く、60歳以上は100%となる。60歳以上の方の意見として「内地に 行っても地理も分からない。島内であったら生活もしているし、人とのつきあいもある」 というものがあったが、中年層からは、「現金での支払いが伴うのは難しいのではないか」 という意見もあった。地域支援型万能ヘルパーの養成については「すすめてほしい」64.0%、 男性が84.6%、女性41.7%、高齢層85.7%であった。このほか「すすめてほしい」という 意見は、「たまり場づくりの提案」87.5%、「温泉場の活用」68.0%、「小地域ネット ワーク活動」84.0%、「支え合いマップづくり」87.5%、島社協の創設57.7%であった。
(2)懇談会
平島の住民の方との対話の中で強く言われたことが、「アセスメントからはじめてくれ」 ということである。施設や事業等をはじめる前に、一人一人の住民の生活を事前調査すること を意味する。その中から何が生活困難なのか、どのようなニーズがあるのか探ってくれ、施設 づくりや事業開発はその後だというものである。また福祉サービスについて現実に行われて いないということから十分内容が理解されていないので、その意味での啓発や情報提供が必要 であるという意見が出されていた。