熊本県A町の在宅高齢者の生活状況に関する調査報告(2)
-調査項目間クロス集計分析とカイ二乗検定からの施策の方向性-
○ 九州看護福祉大学 西島 衛治 (会員番号3665)
九州看護福祉大学 姫野 建二 (会員番号4908)
キーワード: 《地域福祉塾》 《生活拠点》 《ふれあいサロン》
ここでは、(1)に引き続きA町社会福祉協議会による平成 21 年度の地域福祉塾訪問調査結果を報告する。地域の在宅高齢者の生活状況について直接訪問し聞き取りを実施し、在宅高齢者の必要な生活支援方法の情報を得ることを目的とする。
2.研究の視点および方法調査期間は、2009 年 10 月から 12 月、調査対象・有効回答者数については、A 町 (注1)の在宅高齢者で有効回答が、223 件であった。調査方法は、訪問による聞き取り調査である。項目間のクロス集計をカイ二乗検定した。
3.倫理的配慮A 町在住の在宅高齢者に民生委員の協力のもと戸別訪問して調査協力依頼に調査目的などを説明し同意が得られた対象者に対してインタヴューを行った。個人情報には触れないように配慮し、かつ匿名とした。
4.研 究 結 果9)相談者の有無
相談者がいるのは、192 件、同居家族以外の支援者は、同居していない家族が105 件、
近所・同じ集落の者55 件、親戚が48 件であった。表8 から相談者の有無と年齢層に関連が
見られる。表8 によると年齢層との間にも関連がみられた。表9では、近隣との交際との間にも関連が見られる。表 10 相談者の有無とふれあいサロンの認知・参加との間にも有意な関係性がみられる。
表8 身近な相談者有無と年齢層
身近な相談者有無 | いる | いない | その他 | 無回答 | 計 |
年齢層 | |||||
60 歳代 | 6 | 1 | 1 | 1 | 9 |
70 歳代 | 79 | 11 | 0 | 1 | 91 |
80 歳代 | 83 | 9 | 1 | 4 | 97 |
90 歳代 | 10 | 0 | 0 | 4 | 14 |
その他 | 4 | 0 | 0 | 0 | 4 |
無回答 | 12 | 6 | 0 | 0 | 18 |
計 | 194(83.3) | 27(11.6) | 2(0.9) | 10(4.3) | 233(100.0) |
表9 相談者の有無と近隣交際
相談者の有無 | いる | いない | その他 | 無回答 | 計 |
近隣交際 | |||||
ほとんどない | 31 | 8 | 0 | 1 | 40 |
挨拶程度 | 52 | 13 | 2 | 2 | 69 |
それ以上 | 107 | 5 | 0 | 1 | 113 |
その他 | 1 | 0 | 0 | 1 | 2 |
無回答 | 3 | 1 | 0 | 5 | 9 |
計 | 194 | 27 | 2 | 10 | 233 |
表10 相談者有無とふれあいサロンの認知・参加
相談者有無 | いる | いない | その他 | 無回答 | 計 |
サロン認知 | |||||
認知・参加 | 53 | 2 | 0 | 0 | 55 |
未知・希望 | 18 | 2 | 0 | 1 | 21 |
伝聞・参加なし | 76 | 7 | 0 | 2 | 85 |
参加拒否 | 29 | 8 | 0 | 1 | 38 |
その他 | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 |
無回答 | 16 | 8 | 2 | 6 | 32 |
計 | 194 | 27 | 2 | 10 | 233 |
10)家族以外の支援者
同居していない家族が多い。隣人、親戚、民生委員と続いている。
11)希望する外部サービス
ほしい外部サービスは、通院などの送迎が 40 件のほか、買い物の手伝い、家事の手伝い、 緊急津法サービスが挙げられていた。(図2)(注2)
12)災害時の避難
災害時の避難については、「自分や家族だけで避難が可能」が129 件、「自分や家族 だけでの避難は不安」が42 件あった(表 11)。「自分や家族だけでは避難できない」は、 23 件あった。表 12では、相談者の有無との間に関係が見られる。表 13の災害時避難と 近隣交際に関連がみられた。
表12 災害時の避難と相談者の有無
災害時避難 | 逃げられる | 不安 | 逃げられない | その他 | 無回答 | 合計 |
相談者有無 | ||||||
相談者がいる | 110 | 35 | 20 | 16 | 13 | 194 |
相談者がいない | 16 | 7 | 1 | 3 | 0 | 27 |
その他 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2 |
無回答 | 2 | 0 | 2 | 1 | 5 | 10 |
129(55.4) | 42(18.0) | 23(9.9) | 20(8.6) | 19(8.2) | 233(100.0) |
表 13 災害時避難と近隣交際
災害時避難 | 自分や家族で可能 | 不安 | 不可能 | その他( 避難場所がないなど) | 無回答 | 計 |
近隣交際 | ||||||
ほとんどない | 25 | 5 | 5 | 2 | 3 | 40 |
挨拶程度 | 37 | 11 | 9 | 6 | 6 | 69 |
それ以上 | 63 | 25 | 9 | 11 | 5 | 113 |
その他 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 2 |
無回答 | 3 | 1 | 0 | 0 | 5 | 9 |
計 | 129 | 42 | 23 | 20 | 19 | 233 |
13)悪質商法
悪質商法については、多いのが「午後にセールスの電話が良く掛かってくる」が 94 件、 「午前中に電話が掛かってくる」が77 件であった(複数回答)。
14)10 年後の不安内容
10 年後の不安では、「身の回りのことができなくなる」が44 件、「食料や日常品が 買いに行くのが大変」が42 件、「病院にいくのが大変」が39 件であった(複数回答、 順位3まで)。
15)将来の居住継続希望
将来の生活拠点は、「住み続けたい」が圧倒的に多く205 件、移住は8 件と少ない(表14)。 継続生活の理由(複数回答)は、地域への愛着、ライフスタイルの変化を避けたい、環境や 近隣の付き合いなどを重視していることがあげられていた。
16)ふれあいサロンの認知・参加動向
「ふれあいサロン」の認知は、「聞いたことがあるが参加してない」は 85 件。「知って いて参加した」は 55 件、「知らないが参加したい」は21 件であった。相談者の有無との 関連は有意(カイ2乗値49.708、自由度15、p値0.00001、クラメールの関連係数 0.26667) であった(表10)。参加していない主な理由は、交通手段が無いが多く 22 件であった。
5.考察
身近な相談者がいる割合が多い。世帯内に家族がいない場合は、同居していない家族の 支援に頼っている。相談者がいる人は、挨拶以上の交際の傾向がある。相談者の有無は、 ふれあいサロンの認知や参加に影響がある。災害時の避難において、避難の不安や避難不可能 の割合がかなり見られた。災害時の避難は、相談者の有無や近隣交際と関連がある。不安の ある場合は、挨拶以上の交際の傾向がある。悪質な電話による営業が頻繁にあることが判明 した。10 年後の不安は、身辺自立の困難や生活必需品の購入や通院に強い困難を予想して いた。しかし、同じ地域においての継続した生活をほとんどが望んでいた。A 町の社会 福祉協議会の「ふれあいサロン」認知度は高いが、移動手段がないので参加できないケース があることが推測される。以上を踏まえ、広報誌の配布だけでなく、民生委員の訪問による 参加誘導など地域の交流を高めるために「ふれあいサロン」の利用度を高める検討が必要 であろう。避難支援の体制確保、悪質商法からの隔離、手軽な負担の少ない交通手段の 確保などの方策が急がれる。
注1)A 町人口及び高齢福祉概要(平成21年4月現在):人口11,119人、世帯数4,099世帯、 高齢者人口3,614人、高齢化率32.5%、独居高齢者人口396人、高齢者夫婦世帯345世帯、 介護保険認定者1,405人、区域担当民生委員25人(注3)
注2)表示していない図表は、発表時にプレゼンテーションする
注3)熊本県社会福祉協議会県内市町村社協活動データ一覧(2009 年4月現在)