自由研究発表地域福祉3  姫野 建二

熊本県A町の在宅高齢者の生活状況に関する調査報告(1)
 -調査項目間クロス集計分析とカイ二乗検定からみえるもの-

○ 九州看護福祉大学  姫野 建二 (会員番号4908)
九州看護福祉大学  西島 衛治 (会員番号3665)
キーワード: 《在宅高齢者》 《地域福祉》 《在宅支援サービス》

1.研 究 目 的

本報告は、A町(注1)社会福祉協議会による平成21 年度の地域福祉塾訪問調査で ある。この地域福祉塾は、福祉の人材育成を目的とし、民生委員、近隣の福祉系大学学生、 今後のボランティアなどで構成される。今回の調査対象のA町は、32%を越える高い高齢化率 だけでなく、後期高齢者の独居高齢者の世帯が多く、在宅高齢者の生活に様々な困難性が 予想される。そのため、地域の在宅高齢者の生活状況について直接訪問し聞き取りを実施 し、在宅高齢者の必要な生活支援方法の情報を得ることを目的とする。

2.研究の視点および方法

調査期間は、2009 年 10 月から 12 月までとし、調査対象・有効回答者数については、 A 町(注1)の在宅高齢者で 225件の回収のうち有効回答が、223 件であった。調査方法は、 訪問調査による聞き取り調査(主に選択式)である。調査項目は、①性別、②年齢層、 ③家族構成、④住まい方の現状と将来、⑤食事(複数回答)、⑥外出方法(運転)、 ⑦自己移動手段以外移動手段、⑧歩行困難者の移送サービスの要望、⑨近隣との付き合い、 ⑩挨拶より高次の付き合い(複数回答)、⑪相談者の有無、⑫家族以外の支援者、 ⑬希望する外部サービス、⑭災害時避難、⑮悪質商法、⑯訪問販売の内容(記述式)、 ⑰10 年後の不安内容、⑱将来の生活拠点、⑲継続生活の理由、⑳移住の理由、 (21)社会福祉協議会の「ふれあいサロン」の認知、(22)「ふれあいサロン」に参加 しない理由である。

3.倫理的配慮

A 町在住の在宅高齢者に戸別訪問して調査協力依頼に調査目的などを説明し同意が 得られた対象者に対してインタヴューを行った。個人情報には触れないように配慮しかつ 匿名とした。

4.研 究 結 果

1)年齢層と性別:性別は、男性が 24%、女性は 76%と女性が多いが、在宅の高齢者の 年齢が高くなり、高齢の女性の割合が多いことが関係している。また、 年齢層は、60 歳代 が39%、70 歳代が42%、80 歳代が6%、90 歳代が2%等となっている(表1)。
  2)家族構成:家族構成は、一人暮らしが78%と非常に多い。次に夫婦のみ二世帯同居が 13%等となっていた。(注2)
  3)現在の居住状況と今後の予想:現在と今後の住まい方は、最も多いのが「こどもは すべて独立し、すべて遠方に住んでいる」が 34%、「子どもはすべて独立したが近所に 住む子どもがいる」が 29%であった。「子どもがいない」が 14%、「同居の子どもがいて、 将来も同居の予定」が12%などであった。(注2)
  4)食事(料理の担当など)
  70 歳代や 80 歳代もほとんどが自分で行っている(73%)。90 歳代は、家族かヘルパー に頼っている。表 3 によると食事の確保と年齢層には、やや関係がみられる(カイ2乗値 53.675 、自由度 30 、p値 0.00500 、クラメールの関連係数0.21465)。

表3 食事と年齢層

食事 自分で調理 家族が調理 ヘルパーか自分で調理 ヘルパーか外部購入 外部で購入 その他 無回答
年齢層
60 歳代 6 1 2 0 0 0 0 9
70 歳代 74 5 4 2 2 3 1 91
80 歳代 72 9 3 3 2 6 2 97
90 歳代 6 4 3 0 0 1 0 14
その他 4 0 0 0 0 0 0 4
無回答 8 2 1 3 0 1 3 18
170 21 13 8 4 11 6 233
カイ2乗値53.675 、自由度30 、p値0.00500 、クラメールの関連係数 0.21465

5)外出の運転者(自家用自動車やバイクの運転)
  外出において、自家用車やバイクを運転する家族がいるのは、38%、いないが 59%である。 表 4 における「外出の運転」と「ふれあいサロンの認知・参加」の関連は、強くない (カイ2乗値 17.337、自由度 10、p値 0.06724、クラメールの関連係数0.19288)。 サロンの認知と参加を別に設問してその関連を再度調査し分析したい。

表 4 外出の運転者とサロンの認知・参加

外出の運転者 世帯にいる いない 無回答
サロンの認知・参加
認知・参加 23 31 1 55
未知・希望 7 13 1 21
伝聞・参加なし 26 58 1 85
参加拒否 21 14 3 38
その他 2 0 0 2
無回答 10 21 1 32
89 137 7 233
カイ2乗値17.337、自由度10、p値0.06724、クラメールの関連係数 0.19288

6)その他の移動手段
  そのほかの交通手段は、複数回答で最も多いのが、親戚・身内に頼むが58 件、徒歩・ 自転車が53 件であった。バスが32 件、タクシーが14 件などである。(注2)
  7)移送サービス(料金200 円の場合)
  歩行障害での移送サービスの希望では、「必要ない・わからない」が 110 件、「必要・ ぜひ利用したい」が90 件であった。必要ないが多いのは、料金の金額が影響しているの かもしれない。(表5)
  8)近隣との付き合い
  近隣との付き合いでは、「挨拶以上の付き合い」が多く 113 件、「挨拶程度」が69 件、 「ほとんど追愛がない」が40 件であった(表6)。挨拶以上の付き合いの中身は、複数 回答で「困りごとや悩みを相談しあう」が多く 43 件であった。表 7 によると近隣関係と ふれあいサロンの認知・参加との間に関連が見られる(カイ2乗値 44.634、自由度 20、p値 0.00124、クラメールの関連係数 0.21884)。(表7)

表7 近隣との交際とふれあいサロンの認知や参加

近隣交際 交際ない 挨拶程度 挨拶以上 その他 無回答
サロン認知
認知・参加 15 16 24 0 0 55
未知・希望 2 6 13 0 0 21
伝聞・参加なし 14 26 43 1 1 85
参加拒否 5 10 21 1 1 38
その他 1 0 1 0 0 2
無回答 3 11 11 0 7 32
40 69 113 2 9 233
カイ2乗値44.634、自由度20、p値0.00124、クラメールの関連係数 0.21884

5.考察

性別は、長寿傾向が強い女性の割合が在宅高齢者でも多いことが関係している。70 歳代 と80 歳代が多く今後の後期高齢者対策が必要になる。独居高齢者が多く、地域支援が重視 される。子どもが独立しており、近隣にいないケースも多いので一層の在宅高齢者支援策が 望まれる。食事は、まだ自分でする割合が多いようだが、90歳代になると自分以外の割合 が覆い。超高齢化に伴い食事サービスの需要が増えるだろう。外出の運転者が世帯内にいない 場合が多い。ふれあいサロンの認知や参加に影響している。送迎サービスの必要性が認知 されていない。バスの利用が少ないのは、公共交通の不足が関係している。NPO 法人などで の安価な料金の移送事業が今後一層必要になるであろう。近所の付き合いは、都市部に 比較し多いが、徐々に付き合いの密度が少なくなる傾向がある。近隣の交際とふれあいサロン の認知や参加の関係性があり、両者の相互関係を重視した町の施策が必要である。



注1)A 町人口及び高齢福祉概要(平成21年4月現在):人口11,119人、世帯数4,099世帯、 高齢者人口3,614人、高齢化率32.5%、独居高齢者人口396人、高齢者夫婦世帯345世帯、 介護保険認定者1,405人、区域担当民生委員25人(注3)
注2)表示していない図表は、発表時にプレゼンテーションする
注3)熊本県社会福祉協議会県内市町村社協活動データ一覧(2009 年4月現在)

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