住民ニーズに沿ったネットワーク構築の可能性
-赤穂市における地域福祉の意識に関するアンケート調査から-
○ 関西福祉大学 藤原 慶二 (会員番号6433)
キーワード: 《住民ニーズ》 《ネットワーク構築》 《アンケート調査》
本研究は、平成21年度に赤穂市と関西福祉大学附属地域センターの協働研究で実施
した「赤穂市における地域福祉の意識に関するアンケート調査」の報告書『平成21年度
赤穂市・関西福祉大学協働研究事業「赤穂市における地域福祉に関する意識について」』
を要約し、加えて当該研究以降も継続した統計処理を行い、修正を加えたものである。
今日の地域福祉時代は、その活動においてネットワーク構築がキーワードになっている。
その背景には社会や家族構造の変化がある。その代表例が少子高齢化や核家族化である。
このような人口構造の変化に加えて、インターネットやコンビニエンスストアの普及に
より生活の利便性が格段に上がり、結果として地域社会での人間関係を希薄化させて
しまったのである。このことが、地域社会での助け合い活動がなくし、高齢者の孤独死や
児童虐待などの今日の課題が出てきたのである。
これらの課題を背景に、その解決や課題を抱えている人への支援を目的にネットワーク
構築が求められている。これらは行政主体のものではなく、そこに地域住民の存在を忘れ
てはいけない。つまり、「地域住民の、地域住民による、地域住民のためのネットワーク
構築」が必要とされている。
そこで、本報告ではこのような現状に対して報告者がフィールドの一つとしている赤穂市
で住民ニーズ調査を実施した。そこから住民ニーズを把握したネットワーク構築の可能性を
明らかとする。
ネットワーク構築の可能性について赤穂市で暮らしている住民の意識についてアンケート
調査を用いて把握した。そして、住民の意識を把握する中で何に焦点を当ててネットワーク
を構築していくのかを明らかにした。
アンケート調査票は「基本属性(性別や年齢など)」、「地域のこと」、「市民活動のこと」、
「赤穂市の課題」、「これからの赤穂市に必要なもの」の5つの大項目で構成した。そして、
アンケート調査の対象は20歳以上の赤穂市民1,000名を無作為に抽出した。同時期に赤穂市が
実施するいくつかのアンケート調査の回答が重なっていたこともあり、回答数に若干の不安
を抱えていたが、結果として495名からの回答を得られることができた(有効回答率は49.5%)。
本報告では調査結果の概要に加え、特に地域住民のニーズ把握に関連している「これから
の赤穂市に必要なもの」で回答を求めた45の質問項目について分析をしたものを中心とする。
分析はSPSS16.0を用い、因子分析(最尤法,直接オブリミン回転)を行った。なお、この
45の質問項目はアンケート調査票上では、「子どものこと」(10項目)、「高齢者のこと」
(13項目)、「障がい者のこと」(13項目)、「地域の取り組み」(9項目)の4領域に
分けている。
アンケート調査で得られた回答は数的に処理し、回答者個人が特定されることのない ように配慮した。また、調査については赤穂市との協働研究であり、その過程で対象者や 調査項目に関して確認をとっている。さらに、すでに報告書も出されている。
4.研 究 結 果 住民ニーズに対応する行政としては子どもや高齢者、障害者など対象者別(いわゆる
タテ型行政)を基本に考える。その背景には行政の仕組みがある。このことを踏まえて、
本調査の質問でも対象者別に回答を求めた。それが回答者である地域住民にとっても質問
項目の理解を容易にすると考えたからである。
これを因子分析した結果、赤穂市民は「社会参加」、「子育て支援」、「人材養成」、
「交流」、「ハード面の整備」の5つをニーズとして有していることが明らかとなった。
このことから地域住民は従来のタテ型行政では対応が困難なニーズを有している。一方、
これらに対応することは分野横断的なヨコ型行政となることで対応が可能となる。そして、
それは行政主体でもなく、地域住民丸投げのような状況を生むものではない。行政と地域
住民が協働して構築していくものである。今回の分析結果では、特に「社会参加」、
「子育て支援」、「人材養成」、「交流」に関してはネットワーク構築により地域住民と
行政が協働して取り組むことができると思われる。それに行政が主体となって「ハード面
の整備」に取り組むことで地域住民のニーズに対応することが可能となる。そして、これら
地域住民と行政が両輪となることで地域社会でのネットワーク構築が可能となることが
明らかとなった。
最後に、調査結果の全体を通して、十分に信頼できるだけの回答数を得ることができた
(有効回答率:49.5%)。また、単純集計およびクロス集計から赤穂市の現状を垣間見る
ことができた。特にクロス集計では日常生活圏域(赤穂市の場合、中学校区を設定している)
での特徴が明らかとなった。この結果はイメージとして持っていたものが、数的に明らか
となり必要十分な根拠となったのである。