自由研究発表地域福祉2  菱沼 幹男

福祉専門職による地域生活支援スキルの促進要因分析
 -コミュニティソーシャルワークの観点から-

○ 日本社会事業大学  菱沼 幹男 (会員番号3909)
キーワード: 《コミュニティソーシャルワーク》 《地域生活支援スキル》 《地域支援》

1.研 究 目 的

今日、コミュニティソーシャルワークの重要性が実践現場の中で次第に認識され、 各地で先駆的な取り組みが進められる中で、今後こうした実践を普遍的なものとしていく ためには人材養成やシステムについて考えていかなければならない。いくら専門職がCSW の重要性を認識しても、それを具体的に展開できるスキルやシステムが伴っていなければ 地域に暮らす人々の生活課題に対応していくことはできないのである。そこで本研究では、 今日の日本における福祉専門職の地域生活支援スキルの実態を把握した上で、今後修得 あるいは向上が求められるスキルを明らかにし、さらにそうしたスキルを促進する要因を 明らかにすることによって、地域包括ケアシステムの構築に資することを目的とする。

2.研究の視点および方法

本研究では2つの研究課題を設定した。1つは現在の日本における福祉専門職が地域 生活支援スキルをどの程度実践できていると捉えているかを明らかにすることである。この 点に関してはいくつかの先行研究が見られ、インフォーマルな社会資源へのアプローチや 地域支援に関する取り組みの弱さ等が明らかにされている。しかし、いずれの研究も特定 分野を対象にした調査であることから、本研究では人口規模による層化無作為抽出によって 選定した500自治体を対象に、高齢者福祉領域から地域包括支援センター、障害者福祉 領域から指定相談支援事業所、児童福祉領域から子育て支援センター、地域福祉領域から 社会福祉協議会を選定し、共通の調査票により広く現状を明らかにすることとした。
  2つめは、福祉専門職による地域生活支援スキルの促進要因や支障要因を明らかにする ことである。そのため、本研究では調査票によって把握した実態から作業的に地域生活支援 スキル実践尺度や支障要因尺度を作成し下位尺度を抽出した上で、各下位尺度に対して影響 を与える要因を分析することとした。先行研究においては地域支援に関する実践の弱さは 明らかになっているもののどのような要因が影響しているのかについて分析されたものは ないことから、特にこの要因を明らかにすることを本研究における一つの意義とした。

3.倫理的配慮

調査票は無記名での回答とし、かつ調査項目で個人が特定される内容は除外した。

4.研 究 結 果

調査の結果、先行研究と同様に福祉専門職の多くが地域に対するアプローチの弱さを 感じている実態が浮き彫りとなり、こうしたスキル向上のための教育研修プログラムの充実 や実践への位置づけが必要であると言える。一方で個別支援におけるアセスメントや専門職 連携については、かなり意識的に実践されていることが明らかとなった。
  その上で調査結果の因子分析を行い、地域生活支援スキル実践下位尺度として6因子が 抽出され、これらに対する影響要因を分析した。その結果、地域アセスメントや地域住民 との連携など地域に対するアプローチを促進するためには地域担当制が有効であり、さらに その人口規模は2万人未満が参考値となることが実証的に明らかとなった。しかし、小規模 な圏域設定は支障要因となる部分もあった。例えば地域担当制はサービス開発の支障要因 となり、また担当人口規模の小ささは人材養成の支障要因となっていたことから、小地域 の圏域設定と同時に広域的観点からの運営管理体制という「2層システム」が重要である。 なお、本研究の結果では人材養成を促進していくには7万人以上、またソーシャルサポート ネットワーク形成においては4万人以上の人口規模が一つの参考値となることが浮かび 挙がってきたことから、人口規模が小さい市町村では近隣との協働によってこれらを促進 していくことも考えられるが、これについては今後さらなる検証が必要である。
表1 地域生活支援スキル下位尺度(自己及び機関)を促進する要因(回答者の属性要因)

地域生活支援スキル 個別アセスメント 地域アセスメント 地域住民との連携 専門職間連携 サービス開発 人材養成
属性要因 自己 機関 自己 機関 自己 機関 自己 機関 自己 機関 自己 機関
年齢(高)
総勤務年数(長)
社会福祉士資格(有)
学歴(福祉系)
地域担当制(有)
担当地域人口(小)
自己:自己実践度 機関:機関実践度 ○:促進要因 △:支障要因

表2 地域生活支援スキル下位尺度(自己及び機関)に支障を与える支障要因下位尺度
地域生活支援スキル 個別アセスメント 地域アセスメント 地域住民との連携 専門職間連携 サービス開発 人材養成
支障要因 自己 機関 自己 機関 自己 機関 自己 機関 自己 機関 自己 機関
職場外連携体制
ネットワーキング
職場内連携体制
時間的制約
自己:自己実践度    ▲:やや強い支障要因…標準偏回帰係数 -0.35以下
機関:機関実践度    △:弱い支障要因…標準偏回帰係数 -0.20以下-0.35未満

本研究は平成19・20年度科学研究費補助金(基盤研究B)「コミュニティソーシャルワーク実践 の体系的なスキルの検証及び教育方法の開発」(課題番号:19330133)による研究成果の一部である。

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