自由研究発表地域福祉2  野村 恭代

施設コンフリクトに及ぼす地域要因に関する一考察

○ 関西福祉科学大学/大阪大学大学院博士後期課程  野村 恭代 (会員番号6252)
キーワード: 《コンフリクト》 《合意形成》 《社会文化的要因》

1.研 究 目 的

 精神障害者の地域移行および地域定着を妨げる要因は多々あるが、その一つとして、 精神障害者および精神障害者施設に対する地域住民の意識をあげることができる。精神障害者 施設建設にあたっては、現在でもなお反対運動等が各地で発生している状況であり、地域移行 は思うように前進しないという現状がある。また、精神障害者が地域に根付いて生活を継続 することは困難な状況であるということは否定できない。
 このような状況のなか、精神障害者の地域移行に向けた動きが活発になるにつれ、地域 住民と精神障害者施設および精神障害者との接点は増え、両者には新たな関わりが生じ、 その関係性は改めて問われている。
 両者の関係を良好なものにするためには、国や自治体等の行政や地域住民の役割はきわめて 重要である。一方で、施設と地域との良好な関係性形成のためには、施設設置者側の地域 への働きかけのあり方も非常に重要な要素となる。
 上記の状況を踏まえ、これまでの研究では、先行研究および事例研究、調査等から、精神 障害者施設におけるコンフリクト発生から合意形成に至るプロセスに着目し、そのプロセス の類型化等を行った。また、施設建設にあたり反対運動や苦情等が発生していないために、 表面的にはコンフリクトが発生していないと認識されてきた地域・施設においても、その 規模に大小の差はあるもののコンフリクトは発生していることを指摘した。
 本研究では、これまでの研究を踏まえ、施設コンフリクト発生における外部環境の関与 に着目し、施設コンフリクト発生に与える地域の社会文化的要因および地域住民側の要因 (意識)の関与を明らかにすることを目的とする。

2.研究の視点および方法

 先述した研究の目的を踏まえ、まず、先行研究よりコンフリクトの概念を整理し、 本研究で用いる施設コンフリクトの定義を行う。その上で、全国の精神障害者施設における 施設コンフリクト発生状況を把握するため、全国調査を実施し、施設コンフリクト発生と 社会文化的要因との関連性を検証する。なお、2009年度には、今年度実施予定の全国調査 に向けたプレ調査を2県において実施している。
 また、具体的地域・施設においてフィールドワークを実施し、精神障害者施設や精神障害者 が地域住民と良好な関係を築いていくための条件や可能性について検証を行い、調査結果 より、地域と精神障害者施設とが施設コンフリクトを乗り越え良好な関係を形成していく ためには、どのような条件を整えることが必要であるのかを明らかにする。
 なお、本報告では、具体的地域・施設で行ったフィールドワークに関し報告を行う予定 である。

3.倫理的配慮

 施設長および施設職員、地域住民等の調査対象者に対し、事前に調査の趣旨および 概要、プライバシー保護に関する説明を口頭で行った。また、施設の事情や個々人の事情 等により回答できない項目に関しては、拒否権があることを明確に示した。

4.研 究 結 果

 調査対象地域・施設は、「社会福祉法人さんかく広場」および施設が立地している 地区である。
①施設基本属性
施設設置主体:社会福祉法人さんかく広場
所在地:高知県高知市和泉町15-16
施設種別:通所授産施設
活動内容:社会的に自立するための訓練や援助をすると同時に、仕事を身につける機会を 提供する目的でパンおよびクラッカーの生産・販売を実施。
運営理念:「涙で買ってもらうのではなく、物の良さと美味しさで買っていただく」を モットーに、身体や環境にも気を配りいいものを作り販売する。
②調査対象者
 本調査の対象者は、現在の町内会長および施設コンフリクト発生当時の町内会長、高知市 行政担当者、県職員、地域住民、当事者、家族会代表、ボランティア、さんかく広場評議員、 障害者福祉関係者、現在のさんかく広場利用者、現在のさんかく広場スタッフ、施設長の 計19名である。
③調査方法
 調査は、事前に聞き取る項目を用意した上で実施した。面接を依頼する時点で、本調査 の趣旨、目的などの説明を行っていたが、面接を行う前にも、調査趣旨の書かれた用紙に 基づき調査の目的等に関し説明を行った。さらに、ICレコーダー使用の了解を得て、面接 の内容は原則録音した。
 調査対象者の選定は、まず、施設長から聞き取りを開始し、順次、施設職員、利用者、 地域の関係者へと対象を広げる方法を採った。調査時期は、2010年3月から現在である。 なお、本研究は、社会福祉法人さんかく広場武田廣一氏のご尽力のもと実施している。

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